表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

それぞれの夜:彩夜璃と彩夜香



「ただいま」

「お邪魔します。今日はよろしくお願いします」

「おかえりなさい。彩夜香ちゃんもいらっしゃい。彩夜璃、楽しかった?」

「ん」


 彩夜璃は母親とほとんど言葉を交わさずに、さっさと自分の部屋へ行ってしまった。

 残された私達は互いに顔を見合わせて苦笑いをした。いつもの事だけど、少し気まずい。


「お風呂沸いてるって彩夜璃に伝えてくれる?」

「わかりました」

「ごめんなさいね」

「いえいえ!では失礼します」


 彩夜璃は今のお母さんと仲が良くない。他人の家族の事なのであんまり口をはさみたくないが、事情は本人から聞いている。彩夜璃自身母のことは嫌ってはいないけど、未だに接し方がわからないんだそうだ。親が再婚した時期がちょうど彩夜璃自身、色々あった時期でそれを引きずっているとも言っていた。こればっかりは私がどうこうできる問題ではないので、相談されたらアドバイスくらいはするかもしれないがそれ以外は何もしない。





 彩夜璃の部屋の前に着いたので、一応ノックしてから部屋に入る。


「十六夜さん、お風呂沸いてるって」

「ん、さや先に入ってきて。ぼく後でいい」

「わかりました」 


 彩夜璃はいつものようにぼーっとしていたので、先にお風呂をいただく。

 お風呂から上がって部屋に戻ると、彩夜璃がこっくりさんに埋もれていた。


「何してるんですか」

「モフモフ~。さやもやる?」


<やる?>


「遠慮します。十六夜さんも早くお風呂入ってきてください」

「はーい」


 お風呂の準備はしていたのか、着替えを持って下にパタパタと降りて行った。


「ふー」


<つかれた?>


「いつもと同じくらいですかね」


 学校ではいつも彩夜璃を探したりしているので、前より疲れるようになった気はするが1年以上も続けていればさすがに慣れてきた。

 今日夜の学校に行かないかと誘われたときは驚きはしたが、こっくりさんが一緒とはいえ彩夜璃を一人にはできなかったので仕方なくついていった。


<ぼく たのしかった>


「ふふ、今日はたくさん話してましたもんね」


<うん みんなと はなすの すき>


 意外なことにこのこっくりさんは人と話すのが好きらしい。たまに私のゲーム実況にコメントをしている。初めてコメントされたときはかなり驚いたが、うちのリスナーはオカルト好きが多いのかノリがいいのかわからないが皆受け入れてくれて、今ではこっくりさんを待ち望んでいるリスナーもいるくらいだ。


「そういえば、うちのリスナーがこっくりさんのコメントをスクショしちゃってパニックになったことありましたね」


<あのときは ごめん>


「いえいえ、スクショに関しては自己責任なのでこっくりさんが気に病むことないです」


 こっくりさんのコメントやメッセージは、写真に撮ったりスクショしたりすると必ず文字化けする。ただ直接受信した端末だったり、本家のコメントだと普通に読めるので不思議なものだ。こっくりさん自体が怪異や超常現象の類なので知っている身としてはそうなんだで済むが、知らないとなにこれ怖いとかバグとか色々な憶測が出る。一時期ちょっとだけそれで荒れたが、私や有志のリスナー達によって何とか鎮静化できた。


「またいつでも来てください。リスナーもこっくりさんを楽しみにしている人がいるんですよ」


<ありがとう またこんど こめんとしにいく>


「ええ、是非来てください」


 こっくりさんと色々話をしていると、彩夜璃が戻ってきた。


「ただいま」

「おかえりなさい」


<おかえり>


「こっくりさんと楽しそうだったね」

「ええ、次どんなゲームをやるか相談していたんです」


<このげーむ さやがやってるの みたい>


「私も気になっていたので、発売したら初見プレイの実況でもしましょうか」


<うん たのしみ>


 こっくりさんのキーボードを打つ音が弾んでいる。時折こっくりさんは言葉だけではなく、キーボードで感情を表現することがある。本人は無意識だろうが、何回も聞いていたら分かるようになってきた。


「むー、ぼくともお話して」

「拗ねてるんですか?」

「拗ねてない」


<すねてる>


「うるさい」


 彩夜璃がむくれてしまった。少しこっくりさんと話をし過ぎたらしい。

 こっくりさんと顔を見合わせて、何方ともなくしょうがないなという感じに笑いあう。


<ぼく おさんぽしてくる なにかあったら よんで>


「お気をつけて」

「いてら」


 こっくりさんが気を利かせてくれたのか、お散歩に出かけてくれた。こっくりさんは彩夜璃に憑いてはいるが、意外と自由だ。四六時中一緒にいるわけではなく、学校で授業を受けている時は屋上にいたり家にいたりするらしい。正直憑いていると言っていいのか疑問に思う事はあるが、本人が憑いているというのでそれでいいと思う。


「さや」

「十六夜さん?」

「今二人きり」

「………彩夜璃」

「うん」


 彩夜璃との決まり事、二人きりの時は名前で呼ぶこと。学校では十六夜さん、いいんちょ、学校以外や二人きりの時は彩夜璃、さやと。彩夜璃は学校でも名前でいいと言うが、私が恥ずかしいので妥協案として了承してもらっている。


「さや」

「どうしたんですか?今日はいつも以上に甘えんぼですね」


 私の後ろから彩夜璃が抱き着いてきて、背中に頭をぐりぐりと押し付けている。


「今日はたくさん話しましたね」

「うん」

「二人以上で話すのはまだ慣れませんか?」

「…………うん」

「今日は頑張りましたね」

「うん」


 お互い向かい合うようになって、彩夜璃の頭を労うように撫でる。彩夜璃がくすぐったそうに笑う。こうして見るとおっきい子供みたいだ。だからこそ目が離せない、目を離したらどこかに行ってしまいそうで。


「もう寝ましょうか」

「もうちょっと」


 今度は正面からお互いを抱きしめる。

 壊れないように、もう離れないように。


「今日はこのまま寝ちゃいましょうか」

「賛成」


 抱き合ったまま二人でベッドの上に倒れこみ、布団をかける。


「おやすみなさい、彩夜璃」

「おやすみ、さや」

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ