53 変わり果てた2人
絶望したその黒い肉塊は、失ったものを探すために行き場を見つけていた
おぼろげにも目の前に現れた光、しかしその光は救いの光ではなかった。残酷なほどに苦しい、また大事なものをなくした予感がする
ロブ戦を終えた聖犬信者達とネットで形成された集団
異形の脅威から逃れるべく必死に足を動かしていた
走り疲れた先に、聖犬信者の政岡が"避難場所"と書かれた看板を見つける
「避難場所がある。私達は聖犬様の動向を確認しなければならない、みんな先に避難しておいてくれ」
信者達はその場に残り、集団は急いでその避難場所に走っていく
すると、避難場所からフードを被った青年が現れた
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて下さい…!順番に案内しますから」
一人の男が言った
――化け物を倒したと思ったらまた新たに化け物が現れたんですよ。早く俺を安心させてください
「化け物との距離もありますし、ゆっくりでも全員大丈夫ですよ。 皆さん、ゆっくりでお願いします!それにしても人数が多いですね……ん?あそこの白いローブを被った集団はこちらには来ないんですか?」
――来ないですよ。事情があるそうです
男は振り返って言った
――避難場所まで送り届けてくれてありがとうございました!
政岡達は謙遜したように首を振ると、安心して信者達は再び戦場へと戻っていった
「あそこに戻っていくとはなんて勇敢なんだ……まぁ、あなたも早く中に入っちゃいましょうか」
………………
黒い触手に貫かれたリュウガとスゥイル、気を失って身動きの取れない中、宙に吊るし上げられる。今まさに光線が放たれようとしている
その時、地上から獣の咆哮とともに神々しい光が発生する。その光が異形の体を貫き、異形の動きが止まった
黒い触手は両断され、掴まれていた2人は地上に流れ込んだ異形の身体に墜落した。ドロドロとした感触が身体を包む、しかしまだ気を失っている…
異形は光のする方を覗かせる。身体の再生を始め、光線をそちらへ放とうと標的を変えた
5mの身体で四足歩行、召喚された聖獣は颯爽と空を駆けた
墜落していく聖犬を背中に乗せて滑空、聖獣の肌に触れるたびに消滅していた脚が再生していった
「聖犬、この状況を一から説明してくれ」
「聖獣様…?まさか…」
「いいから説明をしろ」
「は、はい…まず魔物達がこの星に住む人間を生贄に邪神を復活させようとしています。そしてあの魔物が…」
聖犬の言葉が詰まる
「あの魔物がなんなんだ」
「魔物の手によって改造された人間でして……」
「人間……仕方ない、必要な犠牲だな」
「いや、待って下さい。あの人は"魔物"であっても私達と協力してくれたんです。あの人無しではここまでいけなかった」
「"魔物"と言ったか?何故嘘をついた」
「いや…これには深い訳がありまして…魔物であり人間でもあって、本当に私達と共に戦ってくれたから…!」
「魔物に情けなどかけるでない。お前では話にならない、私が行く」
背中にいる聖犬を突き放し聖獣は単身で向かっていく
「待って下さい聖獣様!」
光線を避けながら滑空する聖獣、その背後に後光が差す
その神々しい光とともに放たれる天からの無数の光線は美しくも残酷な光景だった。光線はビルごと貫き、異形は蜂の巣状態へと変わる
ジワッと溶けていく異形の体、再生を行いながら反撃にレーザーを放つ
無造作に放たれたレーザーは聖犬をも巻き込もうとしていた
聖犬は急降下し、リュウガ達を避難させようとする
「このままじゃビルが倒壊して、3人が巻き込まれてしまう…!3人を先に避難させるしかない」
まずはリュウガとスゥイル、その後に河井を背中に乗せて異形から距離をとる
………………
「ん…どこだ、ここは」
聖犬の背中で目を覚ますリュウガ
「目を覚ましたかリュウガ、今滑空中だから落ちないように気を付けて」
「気を失っていたのか……やっぱり駄目だったか…」
リュウガは申し訳無さそうに後ろを振り返ると、異形を圧倒させる程の光があるのが分かった
河井は言った
「マナですよ。もうマナの身体は聖獣へと変わり果ててしまいましたが…」
「聖獣へと変わったあの方はもう、魔物を全て排除するつもりです。そのためにも、あなた達だけでも避難させなければなりません」
「竜輝はどうなるんだ。マナに殺されるのか?!」
「その可能性は高いでしょう」
聖犬は降下を始める
「少し遠くで見届けてください」
ロブと戦った場所に彼ら3人を下ろした
聖犬は再び戦場へと戻っていく
………………
レーザーの雨を掻い潜って滑空する聖獣は、再生能力の無力化を考えた
「一撃で破壊したほうがよさそうだ」
聖獣の構える特大の魔力、それは波動となって放たれた
向かってくるレーザーごと消滅させるその波動は、異形の身体の半分を消し飛ばした
波動の勢いでビルが倒壊する
異形の身体が地面に打ち付けられた
しかし、異形も反撃の意志を見せる。身体から、地を吸い付くように無数の触手が伸びていく
そのまま近くのビルに這わせ、高くまで這い上がらせると、それは聖獣に向かって放たれた
「汚らわしい」
そう言うと、聖獣は自身の周りにシールドを張った
シールドに触れた瞬間触手は浄化され消えていく
光はより一層強みを増す
聖獣は溢れんばかりの魔力を身に溜め、聖弾を生成させた
「これでお前は終わりだ」
空から地へ放った聖弾が異形の体を浄化させる。異形は抵抗するものの、徐々に体は消滅していく
猛スピードで現れた聖犬、焦った表情で言った
「聖獣様やめてください…!このままでは竜輝の身体そのものを消滅させてしまいます」
「私を呼び起こす器としてこの惑星に降り立ったあいつと、この魔物にどんな関係性があったなど知る由もない!魔物は魔物だ!!」
放たれた聖弾はもう誰の手にも止められない
しかし、一筋のレーザーが聖獣をかすった。それは異形から放たれたもの、竜輝の抵抗だった
一瞬の制御が効かなくなったことで聖弾が破裂し街を白一色に染め上げる大爆発を引き起こした
爆炎の中、聖獣は満足げな表情を浮かべるのに対し、聖犬はただ呆然と立ち尽くしていた
「死んだな……では聖犬、魔物達のアジトを案内させろ」
聖犬はその言葉に従うしかなかった
聖犬の案内で2体は真泉へと向かっていく…
訪れる静寂
四方八方に割れた地面の上で倒れる竜輝の姿がそこにはあった
竜輝の身体から白い煙が漂う。それは次第に「真里」の形へと変わっていく
意識の失った竜輝に最初で最後の口づけを交わす
時間経過とともに煙は自然消滅していく。完全に姿がなくなるその時まで、離れようとはしなかった
竜輝は潤んだ目を開ける
そこにはもう、煙は無かった




