52 生きる意味
不穏に動くマカルの影、冷酷の先にあらゆる人物が不幸に陥る
真里との記憶がノイズとなって脳裏によぎる。これが死ぬ間際の走馬灯ってやつなのか…?
山に捨てられた俺はそこでマナと出会った。犬が話すなんて普通のことだと思ってた。マナが特別な存在だと知ったときには驚いた
歩き続けて最終的に小苗村に到着。人と話したことのない俺はひとりぼっちで退屈だった。そんなときに現れたのは"真里"だった
次第に人と話せるようになっていった。真里とは特に話したりしたけど、真里は俺のことどう思ってたんだろう
でもそういえば、いつの日だったか、「結婚しよう」だなんて約束してたっけ…
断片的な思い出、しかし真里の笑顔だけは、はっきりと思い出せる
視界が真っ暗に変わっていく。お別れしなければならない時が来てしまったのか
「夢…?意識が…ある?」
指先に感覚が戻る。しかし、瞼を開けた先にあったのは、安らぎとは無縁の赤黒い空間。そして、宙に浮くマカルの姿だった
「待っていた竜輝、ここがどこか分かるか」
「これは…何だ?分かんない…何だよこれ、現実か?」
「現実だ。君はここから出れば邪神の加護が消え去り、再び心肺停止になって死ぬ。だが、術を受ければお前は再び生き返ることが出来る」
竜輝は思わず口に出す
「術…?術……」
次第に呼吸が荒れ出す。冷や汗が額に溜まり、目の光は消えていた
「何で…俺に…?俺に力を与えたって何の意味もないだろ…?目的はなんなんだよ…なんなんだよマカル!!」
「察しがいいな、しかし目的が果たされるまでは言わない。あまり今回に関しては時間をかけたくなくてね。早く進めよう」
マカルの開いたワープホールから、意識のない真里が姿を現す
「この女は女神にする予定だと示唆した。出来て間もない女神はなったとて中身は死ぬことはない。だからまだ助かる余地があるとお前らを油断させることが出来る。しかし、その真意はただのお前の生贄に過ぎない」
「なら俺を生贄にしてくれ…!真里は生き延びさせてくれ、真里は何も関係ないんだぞ…!」
「この術はただの人間には無理だ。その提案には乗れないな」
「だったらここを抜け出して俺は死ぬ。後は皆に任せる」
竜輝は走って外壁を壊しに走る。全く壊れる気配がなく叫んだ
「思う通りに力が出ない…!何でなんだよ!!」
「真里が死んだら俺は……俺は…なんのために今まで戦ってきたんだ…!俺の生きる意味はなんなんだよ!」
静かにその様子を見ているマカル
「私に歯向かうということはこういうことなのだ。犠牲なしに止められるなどという甘い考え、その過ちが…!こういう結果を生み出すんだよ」
「全てはこの世界に引きずり込んだ聖獣の責任、出会わなければ良かったものを」
真里を掴んだ邪神の手が竜輝の頭上で止まる
マカルを睨む竜輝の目には涙が浮かんでいた。涙が真っ赤に染め上がる頃、外壁が破壊され始めた
………………
外から見ると、竜輝は巨大なオブジェに包まれていた
オブジェが内側から爆ぜ、亀裂から溢れ出したのは、どろりとした漆黒の肉塊
それは生き物のように蠢き、近くのビルを侵食していく
かつて竜輝だったモノは、30mを超える異形の姿へと変わり果て、屋上で咆哮を上げた
――お、おい…また化け物か…?
――それだけは勘弁してくれよ…
集団は震え上がった
ロブ以上の30mを超えた異形の姿がそこにあったからだ
どこが顔かも分からない。しかし、正面らしき部分が集団を不穏に覗いている
人達が息を呑むその瞬間、異形のその部分に窪みが出来る
体内エネルギーを放出し、生成されたエネルギー弾から青白い光線が放たれた
瞬時に聖犬は集団の前に光の壁を展開させる
「これは私たちの問題だ。みなさんは早く逃げてください!」
ドオォォン!!
光の壁が光線を受け止める
しかし、供給する壁の魔力を打ち破る光線の圧に聖犬は戦慄する。ただひたすらに集団がいなくなるまで耐え続けた
そして光線は光の壁を貫く、"集団のいたはずのところ"で大爆発した
「はぁ、はぁ、なんだあの一撃は…守るのも一苦労だぞ」
襲ってくるめまい、聖犬は姿勢を崩して倒れかける
しかし、異形は再びこちらに向けて光線を放とうと魔力を溜めた
「あれを…連発するつもりなの…か?」
聖犬に向けて放たれるその時だった
聖犬の目にビルを駆け上がる2人の影が見える
1人は刀を持ち、もう1人は長い爪を携えていた
そう、リュウガとスゥイルだ
2人は跳び上がって斬撃を食らわせる
ズバァッ!!ズバァッ!!
異形の身体を斬り裂いた
しかし、もう一撃をくらわせようとしたその時、すでに傷跡は塞がれてしまった
異形の標的はその2人に変わった。聖犬に放つはずだった光線を2人に向けて放った
2人は散って攻撃を避ける
異形はリュウガを追って光線を放ち続けた
リュウガは割れた窓からビルの中に入り、異形を翻弄させる
一方でスゥイルは、異形の正面と思わしき窪みの方へ回り込んだ。素早い手捌きで斬りつけると、異形の光線が止まった
リュウガはビルから抜け出し異形に斬撃を放った
バァァァン!!
爆発し、黒煙が広がる
すると、その黒煙から黒い手が伸び、リュウガはそれに掴まれてしまう
「なんだこれ…離れない」
「リュウガ…!今向かう…」
スゥイルの左横、ビルを張り付く異形の体から青白い光が輝いた
その光はスゥイルに向けられたレーザーだった。咄嗟に爪を前に構えるも、直撃したその攻撃の威力は凄まじく、吹き飛ばされてしまう
リュウガを掴み、蝕むその触手
リュウガは刀を投げ独自行動を行わせた。刀は自身と触手を切り離す。再び自身の手に戻すとそのままビルを駆け下りた
勢いのまま飛んでスゥイルの腕を掴む
しかしこの高さから落ちれば致命傷、異形の攻撃をもろに受け死んでしまう
リュウガは叫んでマナを呼ぼうとする。だがもうすでにマナはそこにいた
「マナお願い!うぁぁぁぁあ」
光のベールが2人を包んだ
なんの怪我もなく2人は地面に着地できた
空を滑空する聖犬の姿、2人の姿を見て合流を果たす
スゥイルのいることに驚くが、それよりも伝えることがあった
「あれは竜輝です。マカルによって心臓を貫かれた竜輝が生贄術を行った姿」
「生贄術ということは、俺みたいに何かを生贄にさせられたということか」
スゥイルは重く視線を沈めた
そしてマナはその生贄が真里であると瞬時に察した
「あの暴走具合から見るに、スゥイルの時と同じだ。あそこに竜輝の意思は1つもない」
リュウガはスゥイルと竜輝を重ねて見た
標的を見失った異形は次々にビルを破壊し続ける
「生贄術を行ったはずのスゥイルが生きているということは、生贄術を受けた後の生存が可能ということか」
聖犬は言った
「方法はあの状態の竜輝にトドメを刺すこと。しかしあの規模感、トドメを刺せるかどうか…」
「再生が間に合わないくらいに攻撃を仕掛けるしか方法は思いつかないけど…」
「私達に注目してないうちに行きましょう。私の背中に乗って下さい…」
2人は聖犬の背中に乗り込んだ
河井とマナを残して空高く飛びたった
斬り刻まれる異形の体、しかし驚異の再生で一定の深さ以上は斬ることができない
それどころか、斬る程に増える漆黒の肉塊、それは地上にまで溢れていく…
異形は低い音で叫んだ。ヘドロの身体から現れる無数の気泡が割れ、出来た窪みから青白いレーザーが放たれる
レーザーをかいくぐって攻撃を避ける聖犬
「目を覚ませ竜輝!」
しかし次の瞬間…
ブサッ!
リュウガとスゥイルの肩を貫く黒い触手、2人はその反動で気を失ってしまう。触手を高く挙げ、2人は宙釣りにされる。そして異形は光線の放つ用意を始めた
聖犬は、背中の軽さで振り向くと2人が宙づりになっているのが分かった
聖犬は飛びかかって触手を爪で裂こうとした。しかし太い触手を裂ききることは出来ない。しかたなく異形の目の前に姿を現した
異形の標的が変わる
宙吊りの彼らから遠ざかるも、光線は放たれた
それは聖犬の脚に命中し、その脚は消滅した。聖犬はそのまま無残にも墜落する
「マナ…!こんなの…どうすればいいの?」
地面から見ていた河井
マナは静かに言った
「もし竜輝が意識を取り戻して、私の居場所を聞いたとしたら、その時が来たとだけ伝えて」
(ごめんね竜輝。私が……私がもっと早く決断していれば、君がこんな化け物の姿になることはなかった。本当はもっと早くから行えたはずなのに、竜輝と離れたくないからと渋っていた)
マナは聖獣の器に過ぎない。今の精神を消し去り、聖獣の精神を呼び起こすための器
「これが本来の私の生きる意味だったんだ…もう私はマナじゃない」
力強く言い放つ"聖獣化"という言葉、低い「獣」の咆哮が空に響いた




