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「それは言うんじゃないかと思っていたわ」
ケリーさんは、わたくしの涙をハンカチで優しく拭うと、わたくしの髪をそうっとなでてくれました。
「こんなこともあろうかと、ジョゼフ国王陛下があるものを開発していたのよ」
あるもの? 国王陛下自らが開発なさったとなりますと、どのようなものなのでしょう?
「リリーの中和能力を、王妃様と離れていても使えないかしらって話は出ていたのよ。そこで、このネックレスに一日数回力を注入してくれたら、遠隔操作で王妃様のネックレスに力が移って、作動させることができるってわけ」
どう? すごいでしょう、とケリーさんは笑います。
笑えるのですか?
それって、わたくしがお城にいる必要がないということではないでしょうか?
うまいこと魔石が見つかれば、それこそわたくしの存在自体が必要なくなるっていう、そういうお話なのでしょう?
ですが、わたくしは笑います。引きつっていたってかまいません。
わたくしはわたくしの人生を生きるのです。
「素敵なネックレスですね」
「そうよ。今から付けて、練習してみて。あなたは好きなだけ里帰りできるのよ」
善意で作られたものですのに、悪意のかたまりに感じますのは、わたくしの心がやさぐれているからです。
このネックレスさえあれば、もうお城に居る必要もなく、ジェイン様のことで気をもむ必要もないということ。
わたくしはここではお払い箱ですね。
「うれしいです。これで、心置きなく実家に帰れます」
胸に付けてもらったネックレスに、さつそく手をかざします。わたくしの力を感じ取ったネックレスは熱くなり、それから一気に冷たくなってしまいました。
まるで初恋みたいです。
ぱっと熱が出たように夢中になって、その後一気に気持ちが冷めてゆくのとおなじです。
ですが、もうこれで躊躇はなくなりました。わたくしは実家に戻ります。
それでいいのです。
だから今日だけ。
ほんの少しだけお姫様の気持ちを味わうことができるかもしれません。
ドレスのファスナーをあげてもらいながら、鏡に映る自分を見ました。
「さぁ、座って。お化粧と髪を作らなくちゃね」
「ありがとうございます」
ケリーさんだって、悪気があるわけではありません。それこそ最初の一週間ほどは、引っかかる部分もありましたが、今はそんなことありませんし、むしろ投影魔法あたりから生ぬるく接してくださるのがよくわかります。
総合して、ここにはもう、わたくしの居場所はないのです。
お化粧を施され、髪を結ってもらうと、わたくしは冷たい心で椅子から立ち上がりました。
「さぁ、できあがり。とっても綺麗よ、リリー」
「そうでしょうか」
パピーをケリーさんに預けますと、わたくしの心はどんどんと泥沼の中へと潜ってゆくのをかんじたのであります。
つづく




