表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/84

9ー1

 舞踏会の朝は早いものです。わたくしがいつものように支度をしておりましたら、ドアをノックする音が聞こえます。


「リリー、わたしよ。手伝いに来たんだけど入ってもいいかしら?」


 なんと、ケリーさんです。


「かまいませんけど、王妃様のお支度は?」

「残念だけど、今日はとても具合が悪いみたいなの」

「でしたらわたくしも舞踏会に出るのを辞めさせてもらいます。王妃様が楽になるよう、少しでもお役に立ちたいのです」


 でもね、とケリーさんはわつくしの言葉尻を奪います。


「あなたには貴重な体験だから、ぜひ舞踏会に出て欲しいのですって。幸い王妃様のお側には、産科医と女中頭が着いていてくれてるわ。わたしも、あなたの手伝いが終わったら王妃様の部屋に戻るつもり」

「王妃様、そうまでしてどうしてわたくしに舞踏会に出て欲しいのでしょう?」


 わたくしは田舎者ですし、こんなに綺麗なドレスが滑稽に見えるほどにはあかぬけていません。


「王妃様は責任を感じているのよ。ほら、わたしたちが冷やかしちゃったせいで、ジェイン様との仲がこじれちゃったでしょう?」

「そんな。王妃様のおかげで、道化者の妻にならずにすんだのですから、お気になさらないでくださいとお伝えください」

「もっとも、それだけじゃないのよ。あなたには無限の可能性が秘められている。その可能性を引き出してあげられるのは、わたしたち大人や、ジェイン様のような力のある魔法使いだけ。それなのに魔法の使い方までおざなりになってしまうなんて、わたしたちとても反省しているの」

「そんな。いいのです。わたくしは、このお城に来れただけでもしあわせですのに、それ以上望むのは贅沢すぎます」

「生意気なことを言うんじゃありませんっ!」


 ケリーさんはコルセットを締めるとわたくしに訴えます。


「あなたはまだ若いのだから、贅沢を言ってもゆるされるのです」

「そんなものなのでしょうか?」


 では、わたくしにとっての贅沢とは。


 おいしい食事をしたり。


 楽しく手芸をしたり。


 家族と笑い合えるのならば、それだけで贅沢なほどしあわせだったことに、ようやく今になってわかったのです。


「リリー? まぁ、どうしたの、泣いたりして」


 わたくしは手の甲で涙を拭うと、ケリーさんにある決断を言うことにしました。


「ケリーさん。わたくしの身勝手で申し訳ありませんが、舞踏会が終わったら、一度実家に帰ってもよろしいでしょうか?」


 今、とても家族に会いたい。電話なんかじゃ追いつかない気持ちを、家族に話して聞いて欲しいから。


     つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ