8ー7
「大変上手になりましたね。練習はこれで終わりとなります」
ジェイン様は汗一つかかずににっこりと微笑んでくれました。
ですが、わたくしの心は晴れません。
一度深く傷ついてしまったら、このわたくしでさえ、なかなか立ち直れないのです。
「明日もこの調子でいきましょう」
「ジェイン様」
「なぁに、緊張なんてしなくていいのです。なぜならわたしはイカサマの道化師なのですから」
「ジェイン様」
聞いて、とばかりにわたくしが問いかけます。
「ジェイン様、交際のお話のことですが。正式にお断りさせてください」
「理由はわかります。ですがわたしもこう見えてしつこいのですよ」
「ジェイン様は、ご自分を振った女をゆるせないだけなのだと思います」
「こんなに好きなのに?」
髪を一房なでつけられて、身をよじって拒みます。
「他に好きな女性がたくさんおいでなのでしょう? なにもわたくしのような田舎娘を気にかけてくださらなくてもかまわないのですよ」
そう。ジェイン様はただ、わたくしが珍しいだけなのです。
ですからもう、これ以上は。
「王女様の魔力がコントロールできるようになりましたら、わたくしはもう不要な存在のはず。ですから、その後田舎に帰ろうと思っております」
「ケンタさんはあなたのことを好きではなさそうでしたよ?」
「ケンタのことはどうでもいいのです。ただわたくしには、お城の中で働かせていただくにはあまりにも田舎者すぎたのです」
我知らず、涙なんかが流れ落ちます。
「あと五年もあれば充分でございましょう? 両親のことも気になりますし、わたくしはそれでお暇いたします」
よく言ったぞ、わたくし。田舎者にしては出来過ぎた言葉だったはずです。
女にここまで言わせておいて、それでもなお口説いてくるのならば、ジェイン様なんて、なんてことないのです。
「そうですよね。わたしはあなたの中和能力が珍しいだけなのかもしれません。それと――」
ジェイン様は言葉を選んでからうつむきます。
「あなたの中和能力で、わたしの道化師の仮面がはがれ落ちてしまう前に、お別れした方がいいのでしょうね」
「はい。そのつもりです。それでは、失礼します」
そう言い切ったわたくしを、しつこく追いかけて来なかったことが腹立たしく感じました。
そう、所詮持ってもたかだか五年の付き合いです。
その間に別の女性に浮気されたりしたら、いい笑い者ですよ。
わたくしは道化師ではありません。これからも実直に生きるつもりでおります。
つづく




