8ー5
王妃様のお部屋の中は、昨日のことなどなかったかのようにおだやかな時間がすぎてゆきます。
昼食後になりますと、ジェイン様がお約束通り、ダンスの練習にとお誘いくださいます。
わたくしとて侍女として雇われた一人の人間です。
たとえジェイン様に愛想を尽かしたとしても、職務であるならば踊らなければなりません。
「承知いたしました。すぐに参ります」
そう答えておきながら、いつものように王妃様たちが着いてくると思っていたわたくしは、いつもと違うことに気がついてしまいました。
「皆様、ご一緒に大広間へと向かわないのですか?」
「ああ、それはね。ほら!なんて言うか、わたくしたちがあまり冷やかしてしまったせいでジェインとの仲がこじれちゃったじゃない? だから、責任を取ってここに残ることにしたのよ」
と、王妃様。
いや。むしろ今日はご一緒願いたいくらいなのですが。
と、言いたいところですが。王妃様は身重なので、無理をさせたくはありません。
「それでは皆様、すぐ戻ってまいりますので、一旦失礼します」
本当にどなたも着いてこないと。
ええ、ケリーさんは王妃様の護衛も兼ねておりますしね。それは承知しております。
ですがジョシュア様は? パピーを連れて一緒に来てはくださらないのですか?
将来わたくしをお嫁にもらってくれると言ってくださったではありませんかっ。
てすがジョシュア様も八歳です。
まだまだ王妃様が恋しいのでございましょう。
仕方なくわたくしは大広間へと向かいました。
途中、数名の衛兵さんや門番さんと目が合いましたが、皆様気まずそうに目をそらしてしまわれます。
やはり、昨夜のうちにわたくしの暴言が場内を駆けずり回った結果なのでしょう。
わたくしはそれでかまいません。
たとえ一瞬でも、あのジェイン様にときめいてしまった自分をとっちめてやりたいくらいです。
大丈夫ですわ。
わたくしはジェイン様の誘惑に勝ち、完璧とまではいかないまでもダンスを披露しすればよいのです。
その際、ケンタに絡まれてもあいさつ程度ですましてしまえば、それ以上面倒ごとにはならないでしょう。
なにより、舞踏会に襲撃を仕掛けてくるファレスさんのことが心配です。
ジェイン様なんかを好きになったりしなければ、黒魔術なんかに傾倒しなくてすんだのだという事実を突きつけてあげるべきですわ。
だって、ジェイン様は道化者なのですから。
つづく




