表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/84

8ー2

 食堂の扉を開けますと、ふんわりおいしそうな匂いが漂ってまいりました。


「あら、あんた。眠れないのかい?」


 なんと、夜ですのにキッチンに女性がおります。おいしそうな匂いの正体は、彼女が鍋をかき回しているからでした。


「すみません。ちょっと色々とあったものでして」

「だったら夜食、食べていきなよ。夜だって衛兵やら門番やらかお腹すかせているからさぁ。調理担当も昼夜問わずなのさ」

「へぇ〜。お疲れ様です」


 そう言えば。いつも王妃様と一緒にご飯を食べさせていただいているために、食堂に入るのはこれが初めてなのでした。


「あんたも大変だね。面倒くさい男に好かれちゃって」

「はぁ。知っていらっしゃるのですね」


 女性はからからと機嫌よく笑い、あんなの相手にしなきゃいいのさと言い放ちました。


「どうせ血の気の多い男だから、すぐにあんたにも飽きちまうだろうよ。その時嫌な思いをしないためにも、きちんと断っておいた方がいいね」

「実はもう、お断りしているのです。それなのに……」


 わたくしは、そんな自分がゆるせず、ジェイン様もあきらめてくれないのですとつづけると、乙女だねぇと言って、お皿にシチューをよそってくれました。


「いいんじゃない? 好きなようにすれば。ただ、あの男は本当に信用できるかわからないというか、本心がつかめない男だからね。後悔のない選択をすればいいんじゃない?」


 いただきますと言って、スプーンを口に運びます。ふんわりと優しいお野菜の香りが口いっぱいに広がります。


「おいしいです」

「そりゃよかった。あんたずいぶんとひどい顔していたからね。食べても味がわからないんじゃないかって心配していたんだよ」


 初めて会った方にまで心配させてしまうなんて。わたくしはただのわたくしですのに。


「あの、もしかしてあなた様もジェイン様に口説かれたことがありますか?」


 年の頃三十代後半といったところでしょうか。一見すると豪快なように見えますが、とても美しい女性です。


「あるある。って言っても、本人は口説いたことなんて覚えてないんじゃないかい? そういう人なのさ」


 パンはどうだい、と聞かれて、パンもいただくことにしました。


「うんうん。若いうちは悩んでいいんだ。たくさん食べて、たくさん悩みな。後悔したってかまうもんか。若いんだからゆるされることっていっぱいあるからね」


 そう言ってもらえると、なんだか心が軽くなるような気がしてきました。


 この後わたくしはシチューとパンをおかわりして、お皿洗いを手伝った後、あてがわれたお部屋でぐっすりと眠ることができたのでした。


     つづく



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ