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8ー1

 どんな時でも快眠できるこのわたくしが、その夜眠れなかったのは初めての経験でした。


 わたくしが自分で決めて、ジェイン様を拒みましたのに、自分の心が完全に納得しなくて眠れずに泣いてばかりいたのです。


 人生の中で、これほどわけのわからない気持ちになるくらいなら、いっそ恋なんてしない方がましです。


 ジェイン様は身勝手です。


 女性と見れば、片端から口説いていたことがあだとなり、ファレスさんのような有能な侍女を黒魔術に傾倒するむで追い込んでしまったのです。


 その事実を覆すこともできず、それなのにその渦中でわたくしのことを好きだと言ってのけるのです。


 こんな身勝手なことってありますか?


 それなのにわたくしはまだ、そんなジェイン様のことを心の隅では好きだと思ってしまっているのです。


 ああ、わたくしも相当な自分勝手がすぎます。


 お城に来た頃は、もっと心が浮き立つような気持ちがありました。


 なにを見ても美しいですし、かわいらしいですし、皆様とても親切ですし、お優しい。


 その頃に戻れるのならば、ジェイン様ともっと距離を取っておくことを自分に勧めましたのに。


 ジェイン様になんて、会わなければよかったのてす。


 むしろ単なる道化者であったならば。


 単なるイカサマだとご自分でおっしゃっていたではありませんか。


 だいたい、口上自体がふざけています。


 なんですか『俺様、イカサマ、ジェイン様。呼ばれてないのにジャジャジャ〜ン』とは。


 呼ばれてないのにしゃしゃり出て来ないでくださいっ!!


 まったく。


 悔しいですが、悔しいがゆえにお腹が空いてきました。


 自分の体質をうとましく思いながらも、すやすやと眠っているパピーを起こさないようベッドを降ります。  


 姿見に映る自分の顔にぎょっとするくらいひどい顔になっております。


 このままでは明日、王妃様やケリーしんに心配をかけてしまうでしょう。


 どうせ眠れないのなら、とわたくしは食堂まで歩き始めました。


 明かりの落ちたあちこちでは、交代制の衛兵さんや門番さんたちが立っております。


 皆様、わたくしを見るなり敬礼してくださいます。


 そのような者ではありませんのに。もうジェイン様とわたくしのことが城中に知れ渡っているのです。


 それなのにわたくしは、ジェイン様を拒みました。明後日の舞踏会では、そのジェイン様と踊らなければなりませんのに。 

 

 いっそうのこと、熱でも出て欲しいくらいですが、残念ながらわたくし、とても頑丈にできていまして風邪を引いても一日で回復してしまうほどなのです。


 そうして、夜の食堂にたどり着きました。


     つづく



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