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帰りの馬車の中では、なんの会話もありませんでした。
わたくしは頭がぼんやりしていましたので、もしかしたらジェイン様になにか言われたかもしれませんが、気づきませんでしたし。
それに、なんとなくお互いが気まずかったのです。
そんな中でただ一人、パピーだけが勝ち誇った笑顔でわたくしを見上げてきます。
わたくしはおもわずパピーに顔を近づけて、すりすりしてしまいました。
するとまた、ジェイン様が笑うのです。他の皆様の前ではそんな風には絶対に笑いませんのに、わたくしには崩した笑顔を見せてくれるのです。
これは特別な好きなのではないかしら? なんておごってしまう自分がいます。
いけません。ジェイン様は道化師です。今日は、舞踏会に向けて緊張をほぐしてくださるためにしてくれた優しさなのでしょうから、信じてはなりません。
ですが、心臓がとくんと跳ねるのです。ずっとではないので、心疾患ではないと思うのですが、ジェイン様が笑顔になるたびにとくんとなるのです。
これは一体どういうことなのでしょうか?
お城にたどり着きますと、すでにペットショップからパピーのためにお買い物をした品々が届いておりました。
ジェイン様は、わたくしの部屋にパピーのゲージをセットしてくださったり、トイレシーツを設置してくださったりしてくださいました。
「さて、子犬用のミルクとご飯は朝昼晩であげてください。お散歩の時間は、こちらで調節しておきます」
「はい?」
調節、とはどういうことなのでしょうか?
「ファレスのこともありますし、パピーはまだほんの子犬ですから、リリー様をお守りするのはわたししかいないでしょう?」
「そっ、そんなっ。わたくしは自分の身ぐらいなら……」
「強がらなくてもいいのですよ。ファレスは黒魔術を操る。あなた一人ではどうにかなってしまいます。せっかく運命の人に出会えたのに、見過ごすわけにはいかないでしょう?」
「ですが……」
恥ずかしいです。たまらなく恥ずかしいのです。
「ね、リリーさん」
「う、……はい。お願いします」
こうしてパピーはわたくしの大親友となったのですが、王妃様になにかあっては大変ですので、勤務中はジョシュア様が預かってくださることになりました。
一国の王子様に面倒をみてもらえるだなんて、なんと幸運なワンちゃんなのでしょう。
これからパピーは幸運のモチーフとなりそうです。
つづく




