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細かな事情も聴いていないですのに、わたくしが即答しましたら、家族のみんながとてもとてもおどろいてしまいました。
「リリーや。いくら神父様のお口ききだからと言っても、お断りしてかまいやしないんだよ?」
「お母様、ご心配なく。わたくしは一生に一度お目にかかれましたら複眼とまで噂されるジョゼフ国王陛下にお会いしたいばかりでお受けしたわけではありませんの。それは、信じてください」
「お姉ちゃん、それって国王陛下のご尊顔をおがみたいだけなんじゃ?」
「嫌ですわ、リサったら。そんなわけありまくりですわっ」
引いてます、引いてます。ジェイン様の口上以上に家族がドン引きしておりますわっ。
「お母様、そしてお父様。どうかわたくしを信じてください。お給料はかならず仕送りいたしますわっ」
「ふつつかな娘ですが、どうかよろしくお願いいたします」
さすがはお父様ですわっ。
「いや、お父さん、それはないでしょう」
ええ。おそらくはリサだけがこの家の常識人なのかもしれませんわ。ですがわたくし、もう決意してしまいましたの。この気持ちは変えられませんわっ。
「でしたらここにサインしていただけますか? リリーさん」
ジェイン様が差し出された超高級な紙にサインして、もう後戻りはできませんっ。
「お姉ちゃん……。いいけど、しあわせになってよぉ?」
「ありがとう、リサ。さぁ、しばしのわかれとなりますから、せめてもの抱擁を」
「言い切る前に抱きつかないでよ、もう」
「ああもう、リサ。なんてかわいらしいのでございましょうっ。わたくし、ただ一つの心残りとして、リサの成長を楽しめないことが悔やまれます」
「うん。悔やまなくていいから」
もう、これでもかと言うほど、リサのことをなでくりまわします。
先ほどは牛屋さんで牛をなでることを禁じられてしまいましたから、リサで穴埋めできました。
「お父様、お母様、そしてリサ。リリーは行ってまいります」
こうして、明日の朝早くにジェイン様と神父様がお迎えに来てくださることが決まりました。
今夜はリサを抱きしめて眠りましょう。
はい? 持ち物などの支度をしなくてもいいよか、ですか? それはもう、ジェイン様がひととおりお城にそろえてくださるそうですので、はい。なんの心配もしておりません。
つづく




