3ー8
まさか、ファレスさんがカピバラを毒殺したのではないですわよね?
犯人は見つかっていないと言うことは、王妃様が不安に思うのは当然なことです。
ですが、ファレスさんはお城から出て行くことに決まっております。
もう動物たちに悪さをするようなことはありませんよね?
ですが。
本当に犯人はファレスさんなのでしょうか?
わたくしはなにか大きな勘違いをしているような気持ちになってまいりました。
ケリーさんは、そんなわたくしに頭を下げるように言うと、陛下が玉座から去って行くところでした。
ほんの短い時間でしたが、国王陛下を前にすると、心の奥底まで見透かされたような、そんな気持ちになるのでした。
「さて、わたしたちも王妃様のところへ急ぎましょう。ファレス、今日までお疲れ様でしたね」
ケリーさんは当たり前のようにファレスさんの労をねぎらうと、すたすたと歩いて行ってしまいます。
ですが、わたくしは見逃しませんでした。
ファレスさんの体ががたがたと震えているところを。
そしてその目が熱い炎に包まれているように真っ赤に染まっているところを。
ですがきっと、わたくしの勘違いです。
だってもう、ファレスさんは歩き出しているのですから。
わたくしも大広間を後にします。
それにしても豪華な調度品の数々です。チャンスがありましたら、あらためてじっくりと拝んでおきたいところでした。
廊下に出ますと、ケリーさんがファレスさんになにやら話しかけております。
「とにかく、王妃様にはお暇することを自分の口から告げるのが筋というものです」
「……承知しました」
ファレスさん、なんだかとても不憫です。こんなことなら陛下のご尊顔を拝まない方がよかったような気がしてきます。
「リリーは王妃様の機嫌を損ねることのないよう、気をつけるのですよ」
「はい」
王妃様の旦那様であらせられる国王陛下のことを好きになってしまうことは、とても罪深いことです。
わたくしはまだ、殿方のことを好きになったことはありませんが、恋とはそういうものなのでしょうか。
「わたし、王妃様にあいさつしてから実家に帰ります。これまでありがとうございました」
ファレスさんは健気にも深々と頭を下げられます。
「どこに行っても、あなたはあなたです。これからは目先の色男に惑わされることなく、しっかりと生きてゆくようになさいね」
「……はい」
その返事の、妙な間合いが気になったのは、わたくしの気のせいなのでしょうか?
つづく




