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ジョシュア様のお小さい手には、ヒナギクの花が握られております。
「これ、見つけたからリリーにあげるよ。僕は王子だから、女の子には優しくするんだ」
「あらまあ、どうもありがとうございます、ジョシュア様。わたくしとてもうれしゅうございます」
ジョシュア様のお小さい手から、可憐なヒナギクの花を渡されます。わたくしはまたうれしくて、涙ぐんでしまいました。
「リリー、泣いてるの? うれしくない?」
「いいえ、ジョシュア様。わたくしはとてもうれしいのです。うれしくても人は涙が出るのです」
「ですが、リリーさんは普通の女性より感激しやすいようですよ、ジョシュア様」
まぁ。ジェイン様ったら、意地悪を言って。
「そうなの? リリー」
「はい。おそらくはそうだと思いますわ」
「へへっ。また花をつんだら持ってきてもいい? 花瓶ある?」
「ひい。ですが、わたくしのためにそこまでなさらなくてもよいのですよ?」
えへへっと、ジョシュア様は鼻の下をこすります。
「僕がそうしたいからいいんだよ。お母上は花をあげてもそんなによろこんでくれないんだ」
「そうでしたか。それではありがたく、飾らせてもらいますね」
わたくしが笑うと、ジョシュア様は恥ずかしそうに下を向いて、じゃあ、また明日とおっしゃって奥の間まで走って行きました。
「リリーさん、やりますね。初日からジョシュア様のハートをわしづかみですよ」
「嫌ですわ、ジェイン様。わたくしはそのようなつもりはありませんもの」
「でも。ジョシュア様がよろこんでいる姿を見るのは久しぶりです。なにしろ、ジュリア様の懐妊が知れてからというもの、花の香りでつわりが出たりしたものですから」
「そうでしたか」
「ああ見えて、まだほんの十歳ですからね。つわりとかはわからないのでしょう」
ジュリア王妃様が花の香りでつわりを悪くなさっていたと理解できるお年になりましたら、きっとまた王妃様にお花をつんでさしあげるのでしょうね。お優しい王子様ですわ。
「そんなわけだからリリーさん、これからはジョシュア様もここに来ると思いますので、どうか油断なさらないでください。まぁ、わたしが調べたかぎりでは、リリーさんが羽目を外すようなことは一度もありませんでしたけど」
……わたくしのことを調べたのですね。しかたありませんわ。なにしろこれから同じお城で働くことになるのですから、どのような人物像か調べて当然です。
「調べたと知って、お怒りですか?」
「いいえ。ただ、少し驚いただけです」
「そうですか。それでは、わたしもこのあたりで失礼します。おやすみなさい、リリーさん」
「おやすみなさい、ジェイン様」
こうしてわたくしの長い一日は終わりをつげたのでした。
つづく




