無垢なる異変。
夕暮れが空を染め上げる頃、霊夢と魔理沙、そして慧音は神社へと集まっていた。
風の音だけが、時を刻む。
「......会ったわ、あの子に。」
先に霊夢が口を開く。
無意識に、霊夢の方へと視線が集まる。
「"夕凪 結"って名乗ってた。」
魔理沙は目を見開いた。
「それって......ーー」
「あの子って......本当に、いなかったの?」
遮るように、霊夢は言った。
3人の間を、冷えきった空気が通り抜ける。
「どういうことだ...?」
怪訝な表情を浮かべ、魔理沙は聞く。
「違和感が、ないの。」
霊夢は自分の言葉を噛み締めるように、ゆっくりと進んでいく。
「最初に姿を見た時は、"誰?"って思ったの。でも、声を聞いて、顔を見て......自然と名前がでてきたの。"結ちゃん"って。」
魔理沙は思わず口を閉ざす。 それがどれだけ異常なことか、自分でも言葉にできなかった。
慧音が、淡い表情で言った。
「記憶の改変は、思ったよりもはやく、そしてあまりにも自然に進んでいる。時間が経てばきっと霊夢と魔理沙でさえ、異変の存在すら忘れる。」
「......でも、忘れたら、もう抗えないじゃんか。」
魔理沙の声は低く、揺れていた。
「そうよ。」
慧音は静かにうなずく。
「だからこそ、今"気付いている"あなた達が、唯一の鍵なの。記憶がうすれる前に......なにか、手をうたないと。」
霊夢は口を開きかけて、言葉を失う。
何を信じればいいのか。
どこからが本物なのか。
結の笑顔も、声も、記憶に刻まれた、あたたかな思い出も。
それも全部、なかったはずなのに。
それなのに、信じてしまう。
「どこからが......本当なの?」
それは、異変とは関係なく、霊夢の心から出た問いだった。
「私にはもう、分からない。今まで過ごした、"本物の幻想郷"がどんな所だったのか、分からない。でも......失いたくない。」
「......でも、敵の姿すら分からない。」
慧音は唇を噛んで言う。
「実体の掴めない敵に...どう戦ったらいいんだよ......。」
魔理沙の声に、誰もすぐには返せなかった。
静寂が、また神社を包み込む。
その中で、霊夢がぽつりと、つぶやいた。
「……もし、私がその“実体”だったら?」
慧音と魔理沙が、顔を上げた。
「なに言ってんだよ、霊夢……」
魔理沙の声には、驚きと困惑が混じっていた。
「霊力が消えて、博麗大結界も消えた。」
霊夢は、拳を握る。
「博麗大結界がなくなれば、外の世界とこの世界とを隔てていたものがなくなる。」
「それって……」
慧音の瞳が揺れる。
「今起きている幻想郷の異変は、外の世界との" 調和"......なのかもしれない。」
「つまり……」
慧音が言いかける。
霊夢はそれを遮るように、はっきりと言った。
「……異変は、外から来たんじゃない。中から始まったのよ、私の。」
言葉の重さに、神社の空気がきしんだ。
「もしかして……私が“最初の異変”だったのかもしれない。」




