ふ、不純な動機しか見えない……
「アンジェラに、何かお礼がしたいんだが」
「あ、俺も俺も! 助けてもらったしな!」
姫プパーティーと別れた後。
アンジェラに助けてくれたお礼をしようと思い、そう伝えると、アンジェラがクネクネと見をよじりだす。
「まぁぁぁ! お礼だなんて! 本当に可愛い子ねぇ! でも、気にしなくて良いのよぉ? 坊や達を近くで見てお話しているだけで、ご褒美みたいなものだものぉ」
「いや、そういうわけにはいかない。感謝してるんだ」
「そうそう、俺達に出来る事なら、なんでもするからさー」
ところどころ、アンジェラのセリフに気になるワードが散りばめられている気もするが、あえてスルーしながら言う。
俺は突っ込まない。
突っ込まないぞ。
「な、なんでも……うふ、ふふふ……テディちゃん達を抱きしめながら眠ったり、お風呂に入ったり……ハァハァ……だ、だめよアンジェラっ! それ以上は進めないわっ」
それ以上ってなんだよ!
それ以上って!!!
ハァハァしながら鼻の付け根に手を当てて、天を仰ぐ筋肉辛子聖女を眺めながら、つい後退りする。
「ア、アンジェラ?」
恐る恐る声をかけると、バッ! っと姿勢を直したアンジェラが、にっこりと笑顔を浮かべる。
「何でもないわ。アタシは性女よ」
「おいなんかニュアンスがおかしいぞ!!!?」
「大丈夫、何も問題はないわ!」
「問題しかない気がするんだが!?」
性女じゃなくて、健全な女性でいて欲しい。
俺達の貞操の危機である。
「でもさー、そんな状況になったら何があるか分からねーだろ? アンジェラちゃん一応女子だし聖女だし」
「おい待て、俺はアンジェラを襲ったりしないぞ! ていうか、どう頑張っても襲えないだろ!」
こんな筋骨隆々の強者を襲える気がしないのだが。
というかまず襲う気にならない。
実力差があり過ぎて。
しかしアンジェラ本人は、確かにというように、頬を赤らめてもじもじしているではないか。
「そうね……アナタ達も坊やとはいえ男だものね。そういう気持ちを理解してあげなきゃいけなかったわねぇ……」
「どこを見てるんだどこをっ」
股間を舐めるように見つめるな!
股間を!!
アンジェラがふと溜め息をつくと、悩ましげな表情をする。
ちらちらとこちらに寄越す視線から、謎のフェロモンを発している。
明らかに何か言いたげだ。
「何か希望があるんじゃないのか?」
「とりあえず言ってみてくれよー」
「その……お礼なら、アナタ達のパーティーに入れてくれないかしらぁ、って、思うんだけれど……」
「本気か!?」
「マジ!? アンジェラちゃんみたいな強い聖女がパーティーに入るって、凄くね!?」
聖女と言えば、勇者候補とパーティーを組むような人材のはずだ。
このアンジェラにしても、ちょっと思考が変わっていたり、気付くとハァハァしていたりとイロモノ感は目立つが、この強さといい聖女の力といい、引く手数多なのではないだろうか。
「でも、良いのか? 俺達はまだEランクだぞ? アンジェラならもっと強いパーティーに入れそうな気がするが……」
「言われてみればそうだよな。俺達、報酬も低いやつばっかだから、結構貧乏だしなー」
「良いのよ! アタシはもともと放浪気味だったし、貧乏暮らしにもなれているから、そんなの気にしないわ! なんなら下僕だと思ってくれても……ハァハァ……可愛がるのも好きだけれど、冷たく扱われるのも……うふふふふ……聖女を蔑みながら可愛がる坊や……ハァハァ……うふ、うふふ……」
「ふ、不純な動機しか見えない……」
「アンジェラちゃーん、戻ってこーい」
ライリーの声に、筋肉辛子聖女が、はっ! として向き直る。
「あらごめんなさい。でもその、仲間を信じるハート。誰かを守る男らしさ。アタシ、アナタ達の事がとても気に入っちゃったのよ。ね? そばに置いてくれないかしらぁ」
不純な動機は見え隠れするものの、その目はわりと真面目だ。
どうやら本気でパーティーに入りたいようだ。
ライリーと目を合わせると、ライリーも頷いている。
「分かった。俺達のパーティーで良ければ、入ってくれ」
「ありがとぉぉぉぉぉうッ!! 好きィッッ!!」
目にも止まらぬ速さで飛び付くアンジェラの顔を、瞬時に押さえる。
危ない危ない……。
俺の今世のファーストキスが奪われてしまうところだった。
何はともあれ、
「よろしくな、アンジェラ」
「『剛鉄の絆』の三人目だな! よろしく!」
「末永くよろしくお願いするわぁぁ」
そうして、俺達『剛鉄の絆』は三人目のメンバーを迎え……。
ギルドにて依頼報告と、メンバーの追加手続きをしたわけだが。
「あれは……聖、女……?」
「本当に聖女かぁ? コスプレじゃねーのか?」
手続き中も、ギルド内の視線を一身に集めたアンジェラは、周りの噂などどうでも良いかのように振る舞っていた。
確かにアンジェラは筋肉辛子聖女だが、命を助けてくれた人間であり、結構気を回してくれたりもする。
やや変態の節はあるが、面倒見も良く、性格も良いほうだと思う。
変態だが。
まだ先ほど組んだばかりとはいえ、アンジェラは大事なメンバーだ。
変態だが。
俺とライリーが、つい噂話の元を睨みそうになると、アンジェラが俺達の頬をツンとつつく。
「気にしちゃダメよぉ。無駄に争うのは良くないわぁ。それに、アタシには、こぉぉんなに可愛い坊や達が居るんだものぉ。別にこの程度、辛くないっていうか……実績を積んで、いずれ見返せば良いのよぉ」
そう囁くアンジェラの言葉を聞いて、受付をしてくれていたエミリーが藍色のショートボブをぶんぶん揺らしながら頷く。
「そうですよ! そもそもアンジェラさんは、聖女としての活動が多かったので、ランクこそ上がってはいませんが……冒険者としての能力も高いですし、本来ならソロでもC以上は行けそうな人材ですしね」
アンジェラはあちこちに渡り歩きながら、聖女として人々を癒やしたりしていたらしい。
路銀稼ぎがてら適当な魔物を狩ったりもしていたが、それも孤児院に寄付したり自分で消費する事も度々あったため、ろくにランクが上がる事もないまま来てしまったという。
「そんなに上がらないわよぉ。ソロじゃやっぱりつらいものぉ……戦うだけならまだしも、見張りとかも交代できないじゃない? アタシは仲間が居ないとそこまではいけないわぁ」
ランクが上がれば上がるほど、依頼内容が難しくなる事を思えば、休息の重要性も増すという事だろう。
筋肉隆々の体力オバケとはいえ、女子は女子。
やはりその辺りは不安なのかもしれない。
「でも、本当に良い方をパーティーに迎えましたね! アンジェラさんは、あちこち移動しているので、あまり知らない人も多いんですが……聖女としては知る人ぞ知る、有名な方ですし」
「アンジェラちゃん、やっぱ凄かったんだなー」
「あの様子なら納得だな」
「もう! 褒め過ぎよぉ」
エミリーと一緒に頷きあう俺達に、アンジェラが照れながら肩を叩いてくる。
良い音がした。
地味に痛い。
「ふふ、皆さん頑張ってくださいね」
エミリーに見送られ、ギルドを出る。
アンジェラは他にやる事もあるため、猟友会の仕事の時等は別行動になる事も多くなるが、なるべく一緒に依頼を受けようと話し合い、その日は別れた。
そして翌日、俺はまさかの自体に直面する事になる。




