【第八話】『渡りに舟』
本井さんは僕に協力して欲しいことがあって、学校で待ち伏せていたと。
で、学生コスをしている時点で学校内の問題だという事はもう確定事項だろう。
さらに僕は思い当たる節がある。
『音無先生に用事があるんですよね?』
『!
流石、そこまでお見通しなんですね』
まあ、前回会った時にこうなる予想はつくよな。
『で、僕は何をすれば?』
『じゃあ早速、保健室に連れていってもらえますか?』
『ではこちらです』
僕ら2年が使う玄関から保健室は割と近い。
ウチの校舎は1、2年生の玄関が一緒で、ここから直線の長い廊下が走り、反対側に3年生と教員の玄関がある。
各教室や実習室なんかはその廊下から左右2本ずつ廊下が続いていてそこに並んでいる。
2階は大型の体育館のみで、それはさながら巨大な甲羅を背負った亀のような様相となっており、通称「亀高校」と呼ばれている。
しかしながら、実際の名前が「鶴首鶴翼高校」なものだから、どうなんだって思う。
目的の保健室は、1、2年生の玄関から進んで、一つ目の通路を過ぎて廊下沿いの左手にある。
『ここです』
『ありがとう!』
ノックをして僕が先に入る・・直前肩をつかまれ、廊下に引き戻されると同時に本井さんが先に入っていった。
『わっ、ちょっ・・』
『音無先生!おはようございます!』
『おはよう本井さん、今日も元気だね♪』
なななっ!?
音無先生と本井さんが仲良さそうに話してる。
・・なんで?
元々、うちの生徒だった?
いや、それなら玄関でわざわざ僕を待ち伏せて案内させる意味がない。
じゃあ音無先生と個人的に知り合い、な訳もないか。直接連絡取ればいいだけだ。
となると答えはひとつか。
『不法侵にゅ・・』
ベシッ!
『違うでしょ!』
脳天に本井さんの手刀が刺さった。
『じゃあ先生、また後で!』
『元気な人は来なくていいからね♪』
『あ、じゃあ失礼します・・』
僕は音無先生と何も話す事なく保健室から押し出された。
『まずは下見完了です。』
『?下見??』
『今は問題無さそうだけど、早めに対処しないと・・』
何か意味深なつぶやきでこっちを誘い込もうとしてるが、僕には聞きたいことがある。
『本井さん、ウチの学生じゃないですよね?何でコスプレしてるんです?』
『コ・・コココスプレ!?
失礼ですね!私は今、この鶴首鶴翼高校の3年生なんですよ!来問くんの先輩なんです!』
『あ〜なんかウチの学校の実名聞いたの久しぶりです。
みんなは「亀高校」「亀高」って呼んでますよ?ちょっと浮いちゃってますね』
『えっ?こんなに名前が鶴推しなのに「亀高」なの?』
『それはですね、この学校を外から見たらわかりますよ』
『それはいいとして、本井さんウチの学校、というか音無先生に何の用事ですか?』
マウントを取り損ねた上に話をすり替えられた本井さんは、ちょっと顔がぷくっとした。
そんな感じにもなるんだなーと本井さんを観察していると、急に本井さんが余裕の笑みを浮かべた。
『来問くん、今日のところは引き分けね。』
は?
全ての疑問を帳消しにするチャイムが鳴った。
『しまったぁぁ!』
来問真、一生の不覚!
『私も遅刻になっちゃったけど、来問くんには会えたし、ひとまず用事も済んだから良しとします。
それでは、お昼休みまでごきげんよう♪』
くっ・・やられた。
何が引き分けなんだか。
こっちは朝から引っ掻き回された挙げ句、何も情報を得られない上に結局遅刻だから完全敗北だよ。
学校には充分早くついてたのに、教室に入るの間に合わなくて『遅刻』ってないわ。
あれ?確かマンガとかじゃ校門を閉められる前に敷地に入ってればOKじゃなかったか?
まだ望みはある!
ダッシュして教室に駆け込む。
『来問、アウト〜!』
教室が爆笑している。
『どうした来問〜、さっき廊下にいただろ!わざとやってんの?』
『そんなわけあるか!』
後ろから急に羽交締めにされる!
『本井先輩に手を出すやつはこうだ!がははは!』
何かと人に技をかけたがるコイツの名は「縁 夏実」という。
名前の読みが斬新だが僕はこっそりカッコいいと思ってたりする。
なんでも、当初生まれる前に「女の子」と病院で言われて親が「夏実」と命名したが、生まれてみたら「男の子」でしたって事で読みを変えられたって話だ。
さらに幼い頃は華奢な体格だったことで「なつみ」と呼ばれ、いじられたのが悔しかったらしい。
小学校から中学3年までの9年かけて見事に克服し、暑苦しいばかりのボディービルダーに生まれ変わったわけだ。
このガシガシした性格と体格に反して、なんと音無先生の親戚だったりする。世間は狭いものだ。
そういや入学式の時に遅杉を吹っ飛ばしたの、縁じゃなかったか?
・・まあ、今はその記憶もないんだろうけど。
そんな縁がなんで本井さんの事を知ってるんだ?って、一瞬思ったが、これまた記憶改ざんによるものとすぐに理解する。
しかも、本井さんに軽く憧れてやがるな?
あ、でも縁と本井さんが仲良くなれば僕も何かと動きやすい・・か?
『いででで・・縁いつまで抱きついてんだよ!』
ノリは良くて付き合いやすいんだが、お前はまず、加減を知りなさい!
『来問〜そろそろ満足したか〜?
ホームルーム始めるぞ〜』
いや、先生!
いたならすぐ止めろよ!!
しかも僕のせいじゃないし!
・・あ、いや僕が遅刻したせいか。
よし!まだ来てない遅杉のヤツに、八つ当たりも兼ねて盛大に煽ってやるぞ!
『あ〜今日は遅杉、風邪で休みな。』
そこは遅刻しとけよ!!
まだ今日は始まったばかりだというのに、今の僕は体育のマラソン後のような疲労感に見舞われている。
『来問くん、いますか?』
ドア越しに本井さんの姿が見えた。
なんかすごいご機嫌なんだが。
そして僕の周りの男どもは非常に険しい表情だ。
『こ〜い〜と〜い〜!後で話があるっ❗️』
縁がどっかの寺にいる鬼の像みたいなポーズで叫んでいるが、とりあえずほっとこう。
嫌がる僕を本井さんは廊下へずるずる引っ張り出して、学食に向かう。
昼休みくらいゆっくりしたいのに、本井さんが集めるヘイトのせいで僕は理不尽に敵が増えてそうだ。
違うんだよみんな!
『ふふ、なんか気分いいです♪』
『・・で、何でウチの学校来たんです?コスプレ先輩』
『やめなさい!』
コスプレ言われるのは気に入らないらしい。
『もう!ここに来るまでの私の覚悟を少しは理解して欲しいですよ!』
『覚悟?』
『そうです!任務の為とはいえ、私が知らない周りのみんなは、私の事を知ってる。そんな環境を造って飛び込むのがどんなに怖いか・・』
・・記憶の話か。
確かに、僕も周りの人が知らず知らずのうちに違う記憶になってるのを経験したから、それに近い感覚なんだろう。
『・・まあ、確かに怖いってのは少しわかる気がしますけど。そこまでする目的はなんですか?』
『まあ、ちょっとね。この地域一帯の「誰か」の記憶に異変が起きたらしいから、その調査をしてて。その「誰か」に、最近目星がついたから確認にきたの。』
『それが音無先生ってことか・・』
『そう。さっき見て彼女だって確定したんだけどゆっくり観察してる程の余裕はないんです。』
ミックスフライとオムライスセットを頼む人のセリフじゃないだろ。
彼女は意外にもたくさん食べる人なんだな。
『・・爆食いする本井さんも素敵です!』
おいおいストーカーか。
いつからそこにいたんだよ?縁。
『あら、来問くんのクラスの人?』
『ハイッ!縁 夏実と申しますッ❗️よろしくお願いしますッ!』
『よろしく、縁くん。』
縁は暑苦しいボディで狭い学食を小躍りして回っている。
ん?コイツ確か・・
『なぁ、縁ってさ、音無先生と親戚だっけ?』
『む?その通りだ。年は一回り違うがな。』
本井さんの目が野生化した。
『逸材発見❗️』
こうして縁は面倒ごとに巻き込まれた。
『それで具体的には何を手伝えばいいんです?』
『ちょっとここでは話せないかな。昼休みもそろそろ終わるから、続きは放課後に話しましょう。』
放課後まで拘束されるのか・・
バイト代欲しいぞ。
『放課後、どこで待ってればいいんでしょうかッ!?』
『あ、うん。縁くんはまた今度ね』
あ、縁がガス欠だ。
僕はまた縁からの怨念を追加でゲットし、教室に戻った。
本井さん、縁を獲物みたいに見てた割には放課後呼ばないんだな。
何か利用価値があるからあんなにギラついてたと思うんだが。
にしても、音無先生大丈夫かな。




