【第七話】『驚天動地』
『さあ、タイミングよく4時限目が始まる!先生に何て言い訳するんだ?』
『・・地面が割れて海に落っこちたから』
遅杉は転げ回って「いいぃいひひひ」とか言いながら呼吸困難になっている。笑いのツボはそこか。
・・にしても、本井さんの言っていた『どっち側でもある』とはどういう意味だろう。
何に対して『どっち側』なんだ?
「あっち」と「こっち」で考えたらわかるか?
「あっち」は何だ。僕からみた向こう側?
つまり管理側ってことか!
それなら「こっち」は今の僕の状況だ。
『そういうことか❗️』
『じゃあ来問、答えてみろ』
数学の授業が始まっていた。
察しているクラスのみんなに笑われた。
遅杉、お前は笑いすぎだ。
『遅杉〜。この公式だと解は2つあるんだぞ〜。もう一個出さんか。』
『マジすかもうわかんねぇ〜!』
・・・
・・
『・・ふぁっ⁉️』
ガターン!
いててて・・
『ぶほっ!ごほっ、何すんだよ来問ゲホッ・・』
急に立ち上がった勢いで、後ろの遅杉の机を椅子で押し込んでしまったようだ。
授業中に寝てしまったのか・
ご飯で咳き込んでる遅杉よ、申し訳ない。
でもな、昼休みに入ったなら起こしてくれよ・・
そんな訳で、1人学食に向かう僕は、どっち側問題に完全に取り憑かれている。
白い光と一緒に現れるサングラス男は、時間が止まっている間しか「こっち側」に来れないのかもしれない。
対して僕は、こっち側にずっといられる。しかも止まった時間の中で動くことができる。
それはメリットになるのだろうか?
ミックスフライ定食を頼んで、席につく。
そう言えば、海になった廃校跡の場所、あそこに住んでた人達はどこに行ったんだ?
サングラス男は、「人は消えない、人を守るためにこの現象は起こってる」って言ってたな。
まあ、今の僕には探す手立てがないからなぁ。
あそこに住んでた知り合いもいないし。
仮にどこかに移り住んでいたとして、多分本人には「引っ越した記憶」は無いだろうし、近所の人も昔から知ってたかのように振る舞ってるんだろうな。
『52番のミックスフライ定食のかた〜』
『はーい』
ここのミックスフライ定食は、今でこそ人気メニューだが、僕が入学した頃は全然食べてる人いなかったんだよなぁ。
何せミックスフライのメンバーが、エビフライ、アジフライ、イカリングだったからな。海鮮一色でなーんかミックス感も無かったんだよな。
それを今年からエビフライ、メンチカツ、鶏の唐揚げに大幅変更、値上げしたにも関わらず一気に人気メニューランキング2位に格上げだ。
そんなどうでもいい事は知ってるんだけどな。
知らなくてもミックスフライ定食は食べれるし、美味しい事に変わりはない。
でもその歴史を知る事で、より定食に対する思いも強くなるというものだ。
・・周りのみんなが記憶を改ざんされて変わっても、僕らが今まで築いてきた友情は変わらないもんな。
・・本当にそうか?
記憶改ざんで誰かとの思い出の一コマが無かった事になったら、人間関係にも変化が起きたりしないのか!?
愛の告白とか、愛の告白とか、愛の告白とか。
ヤバい、それしか思い浮かばない。
僕はその程度の想像力しかないのか!
定食を平らげて教室に戻る途中、遅杉が保健室に入るところを見かけ、追って入る。
もしかしたら僕が椅子ぶつけたせいかも知れないし。
保健の音無先生がこちらに気づく。
遅杉も振り返る。
『ん?どうした来問。食い過ぎで腹壊したか?』
『そんなにヤワじゃないわ!』
『ここは元気な人には無用の場所だよ〜』
音無先生に正論で刺される。
『そういえば、音無先生彼氏いたんですよね?』
2人の首が45度に傾く。
『何言ってんだ?音無先生はもう結婚してるじゃん。』
ん?
『え?じゃあ最近結婚されたって事ですか?』
『おいおいしっかりしろ来問真ォ!俺達入学した時には音無先生、もう既婚者だっただろ?』
いやいやだって僕の知ってる話だと、2年前から彼氏とこっそり付き合ってて、って遅杉お前の情報だぞ?
『じゃあ、名字は変えてないんですか?』
『何言ってんだよ、来問。今更だろ。
で、名字はやっぱり旦那さんの名字なんですか?』
お前も知ってねえじゃん。
『そうね、今の名字は旦那のほう』
ということは、元々音無先生は音無って名字ではなかった?そんなはずは・・
もしかして、記憶が変わってる?
しかも、最近どころか2年分の事実ごと書き換わっている・・・?
『来問、今更ガッカリすんなよ!お前、そんなに年上好きだったか?』
『違うわ!』
ん・・待てよ?
『そういや遅杉!お前こそ入学式の次の日、朝イチ音無先生にいきなり告白して、誰かに殴り飛ばされてたろ❗️』
朝のHRのチャイムと同時に、遅杉が漫画みたいに廊下を転がっていったのを覚えてる❗️
それがトラウマになって毎朝遅刻するようになったんだよ、コイツ。
『・・は? 何言ってんだ?』
『え?』
『俺は入学式の次の日は遅刻して昼ごろ学校に着いて、トカちゃんにめっちゃ説教されてんの!忘れもしねぇわ。』
・・なんだそれ?
『トカちゃんじゃなくて、渡河先生でしょ!』
『へいへい』
・・・
午後からの授業は全然頭に入ってこなかった・・
・・・
・・
『真〜、ご飯だよ〜』
『わかった〜』
母さんからのいつもの「呼び出し」だ。
『そういえば真、あんた最近遅刻してるんでしょ?担任のナントカ先生から連絡きたんだよ』
『渡河先生だよ!「ナン」はついてないから!』
まあ、今の僕は色々な意味で「難あり」だが。
『どこかに寄り道してるのかい?』
『まあいいじゃないか、母さん。真もバカじゃない。』
何かと理解を示してくれる父さんがこっちを見て言った。
『何かあっての遅刻なんだろう?
お前はバカでもわかるくらい知りたがりなところがあるからなぁ。ハッハ!噂話でも追っかけてるんだろ!』
『フォローするならちゃんと最後までして!?』
前言超撤回。
いや、でも父さんの言葉、何か引っかかるなぁ
誰かに同じ事を言われた気がする。
・・・
いつだったっけなぁ・・
部屋に戻ってベッドに転がった。
変わり映えのない真正面を見つめていると、横から遮光カーテン越しに外が光ったのがわかる。
既視感。
『私が来ましたよ〜♪』
『部屋に入る時はノックしてくださいよ、本井さん』
『おっと失礼』
『来問さん、その後の調子はどうですか?』
『診察室の看護師さんですか』
『あはっ♪そんなところです』
相変わらずマイペースだな。
そう言えば、前に来た時だ。本井さんが言ってたのは。
「フラッシュ事件」の噂を流したのは「私」です
よく考えてみたら、これの何がヒントなんだ?
『本井さん、前回ここに来た時、フラッシュ事件の噂を流したのは自分、というのがヒントだって言ってましたよね?』
『あぁ、そういわれると言ったような・・』
記憶大丈夫?
『あれ、ヒントになってました?』
やっぱりか!ホント他人を振り回す人・・
『わかんなかったですね。わからな過ぎて、今日は他の事考えてましたし・・』
『へぇ・・どんな悩みごとです?恋の悩みとかですか?』
僕をおもちゃにしないでくれ。
『うちの保健の先生が、色々矛盾した記憶違いになってて、あ〜いや僕の記憶と比べてって事なんですけど。それについて考えてたので・・』
『えっ!?それなんて名前の人です?どんな風に記憶変わってました??』
『え!?えっと、音無 萌音だったと思います。え?何かあるんですか?』
『ありがとう!ちょっと急ぎの用事が出来たので、ご機嫌よう』
カーテンが捲れるほどの風を起こすドア閉めを披露して本井さんは出ていった。
間違いなく音無先生に何かあったな・・しかもトラブル的なやつ。
結局、本井さんからのヒントじゃ何もわからなかったな・・
まあ、思い詰めても解決しないから、明日は息抜きのためにも一旦考えるのはヤメにしよう。
・・・あ、今日は(丘の上公園に)行く日だったぁ〜
まあ、行かなくてもノルマとか無いし、別にいいか。
・・・
『真〜、ご飯だよ〜』
『今行く〜』
「トントントン」と軽快に降りていく階段に差し込む光が天気を伝えてくる。
今日も朝日が眩しいな。自転車日和だ。
リビングと一体化したダイニングルームにスルッと入る。
『父さんおは・・ぁああっ!?』
『おはよう、来問くん!今日も良い天気だね!』
4人がけテーブルの父さんポジションにサングラス男が!
油断!すっかりこの男の警戒を忘れていた!
そして自宅のようにくつろぐなよ!
『毎朝ちゃんとご両親に挨拶してるんだな、君は。偉い偉い』
『あの・・あ、おはようございます・・』
『今日は遅刻しないでちゃんと学校に行ってもらおうと思ってね。』
『そんなに自由に時間止めてやってこれるものなんですね』
『自由ではないよ。たまたまこっちに来る用事があったからさ。
社畜は24時間、休みなしってね。僕も大変なんだよ〜。』
僕が口を挟む前にサングラス男の言葉が続く。
『今日は挨拶に来たのさ、君に協力をお願いする事になりそうだから。』
『?』
『詳しい話は、さっちゃんに会って聞いてくれ。僕はもう時間がないから行くよ。それじゃ来問くん、またね!』
さっちゃんに丸投げして去っていった。
あっちの人達は自由が過ぎる!
『何ぼーっとしてるの。早くご飯たべちゃいなさい!』
『あ、うん』
こんな落差に慣れてしまいそうだ。
まったく、人の日常にコンビニ感覚で立ち寄ってくるよなぁ。
もしかしたら世界の運命を握ってる人達かも知れないけど、そんな雰囲気あまりないし。
今日は天気がいいから自転車での通学は気持ちいい。当然今日は遅刻せず余裕の到着だ。
それにしても、サングラス男はまあまあ気になる事を他人任せに消えていったなぁ。
本井さんに聞けといっても、またピカッと光らなきゃ出てこないだろう。
そうピカピカ光ってもらっちゃ、こっちの身が持たないし。
特に記憶の取っ替え引っ替えなんて、頻繁にやって大丈夫なんだろうか?
橋を渡りながら海の方向に目をやる。
あそこに廃校があった事、覚えてるのは僕だけなんだな・・
自転車置き場に到着し、愛車にカギをかけて校舎に足を向けた。
靴を履き替えていると、ん?
誰かが玄関をウロウロしてる。
本井さんに似ている。というかあれは学生コスをした本井さんだろう。
あれ、でも違和感ある。
『あ!来問くん!探しましたよ〜。おはようございます♪』
僕らの空間が周りのヘイトを集めている。
『本井さん!今止まってないですけど時間!』
『ん?
ああ、だから言ったでしょ?私は
「どっち側でもある」
って』
そういう事!?
にしても・・
『来問くんって呼び方は・・』
『いいでしょ?同じ学校の生徒なんだし、このくらいの距離感でいきましょう♪』
ホントにマイペース、この人。
『そんな事よりも、今日は遅刻しないようにお願いしてたでしょ?もうずっと待ってたんですよ?』
遅刻までまだ20分以上あるから、充分早いんですけど・・
『ん?お願いされてないですけど?』
『朝会ったでしょ?あのカッコつけサングラスに』
ああ、あれ?そういう意味だったの?
つまり、協力して欲しいのは本井さんで、学校で待ってるから遅刻しないで早く行けって話だったのか。
わかんないから、あれじゃ!
『それで、来問くんに助けて欲しい事があって、特例でここの学生にさせてもらっちゃいました!』
なんか学生になったことが嬉しそうだ。
『わざわざウチの学生になったって事は、学校内に何か問題ごとでも?』
『ご名答♪朝から冴えてますね!』
そりゃ、朝から家で脳が活性化したからな!




