【第六話】『茫然自失』
さっちゃんは自分の要件だけ済ませてとっとと退出した。
さっちゃんがフラッシュ事件の噂を流した張本人というのは意外・・か?
・・いや、その線での予想はあのバーベキューの時に思いついていた。
彼女は、自分は僕と同じ境遇だと言っていた。
それなら思いつくパターンはいくつかある。
彼女はあの白い光に記憶を弄ばれて友人・知人とのやり取りの食い違いにストレスを感じていたかもしれない。
そして、ある日彼女しか認識できない『真実』を誰かに主張した事で、からかい半分に噂を流された、というパターン。
もうひとつは、この白い光で街を改変していく存在への『挑戦状』として。
噂を流すことで、最初は『そんな話、誰も信じねぇよ』って最初は思ってる奴らも、繰り返し色んな形の噂をあちこちから聞くようになったら次第に『もしかして』が生まれてくる。
そうする事で、みんなが知らない事実を自覚させていくという、ある意味では反乱行為だな。
そして、どちらの場合もサングラスの男に出会う事で、『管理側』っていう立ち位置へのパスポートを手に入れたと。『管理側』が何なのかは未だに何もわかっちゃいないが。
そうしてさっちゃんは、あのサングラスの男側の存在として生活・・してるのかな。
まあ、あくまで僕の推測でしかないから、彼女の『真実』はわからないが。
問題は僕自身だ。
この先、どうして行くのがいいのか。
今後も気づけば「記憶違い」がいたるところから出てくるのだろう。
白い光を感知できる僕は、記憶の改ざんはされない。みんながどういう記憶を埋め込まれたかは聞くまでわからない。
そのうち僕の身近な人達が僕のことを忘れてしまうなんて事も起きるのだろうか。
あの光で、何がどこまで改変されているのかを知るべきなのかもしれない。
ただ、空が白く光ったところで、どこで何が起きたかまでわかるわけじゃない。
夜中に見晴らしの良い場所で廃校並みに大きな建物が白く光って、やっと気づけたような話だもんな。
光るのを待って、街中を捜索して変化を確認すればって、僕は何を考えてるんだ?
それなら、普段から街中をまわって昨日と違ってる街並みを探すか、遅杉に噂を聞きまくって情報通になるほうがまだいいか。
とにかく、さっちゃんからは詳しい情報を聞けなさそうだから、自分から動いて取りに行くしかないな。
明日からやってみるか!
・・・
唐突にヘビィな人生のルートに入ってしまったが、これでも高校生なもので。
学生には平日の朝から暇なんてないんだよ!
遅杉に次ぐ遅刻魔のレッテルを早々に獲得してしまった僕には、もう後がない。
2度と遅刻なんてしないと心に誓って今8時28分、廃校跡地にいる。
もう無理だよ、遅杉と同格の遅刻野郎に認定されてるよ絶対!
廃校跡地とは、まさに僕の人生を捻じ曲げたあの日の廃校があった場所。
なぜこんな場所にいるのか。
それは、朝学校に行く途中に通るあの橋から、見たくはない景色が見えたからだ。
跡地とは言ったが、それも正しく表現しているとは言い難い。
廃校だった場所が、なくなっている。
そこに踏める土はない。
海になっていたのだ。
いつから?
今までに何度か白い光を感じた事があった。
その毎回、何が起きたかまではわからなかったし、おそらく気づく場所ではなかった。
そして今日、橋からあの日見た、廃校のない景色はさらにその先の海と一体化していた。
地震があったわけでも爆発事故があった訳でもない。
ただ静かに崖となっていた。
それも、まるで大地震によって崩れ落ちたような、人工的とは程遠い景色だった。
同じ場所に何度も改変される事があるのか!
冷静に考えたら、そんなルールがある方がおかしいよな。
もし同じ場所には改変が起きないルールがあったなら、原因も順序もわからないが改変には気づく僕にとっては区画ビンゴみたいなものだ。
それにしても、この改変は建物が消えるだけではないんだな。
大地そのものまで影響するなんて、もう世界のどこで起きてもおかしくない。
ん?待て待て。
あの廃校があった場所と海の間には、曖昧だけど100mくらいは土地があったぞ。そこには何軒か家も建ってたはず。その人達はどうなったんだ?
まさか・・・
『おや、誰かと思えば来問くんじゃないか。今日も華麗に遅刻決めちゃったねぇ。』
今日は都合のいいタイミングだと思ったサングラスの男の出現に、
『この海になっちゃってるの、何が起きたんですか!?絶対あの光の仕業だってわかりますけど!あと、ここに住んでた人はどうなったんですか!
・・・もしかして人も消えちゃったりするんですか?』
質問ラッシュが無意識に炸裂した。
『何だか初対面の時を思い出すよ。あの時も君はそんな感じだったな。』
軽い空気から一息ついて、一旦地に足がついたように落ちついた後、
『人が消えたりはしない。君が認識している事象は、結果として人を守るためにある。』
サングラスの男は廃校があった海を見下ろしながら答えた。
人を守るために建物や土地が消えたり記憶改ざんしたりが本当に必要な事なのか?
『さっちゃんにもきつく言っといたけど、今はまだ君に教えることはできない。』
『真実を知りたいのはわかる。君は、バカでも気づくほどの知りたがりだからね。ただそれは対価無しでは手に入らない。』
決断する時を待っているよ、と言い残してサングラスの男は去っていった。
『カッコつけたがりはホント面倒臭いですね〜。』
息つく間もなくさっちゃんが来た。
『普通に話せる内容なのに、言い回しが面倒くさいです。それは秘密だから話せないよって、なんで言えないかなぁ』
まあ、秘密厳守なんだろうな。
こんな常識で考えられないことに関係してるんだから。
『私の時は色々教えてくれたんですよ?』
なんと!
『でも、その時に機密事項までうっかり話しちゃったものだから、後で相当怒られたらしいです』
それで僕には詳細を話してくれないのか・・
『それを知った上でさっきのセリフを聞いたら笑っちゃいますよ♪』
やめてくれ。
僕の中のサングラス男が爽やかクール担当からギャグ担当になってしまう。
想像させるな!
『それで、その時本井さんは、例えばどんな事を教えてもらったんですか?』
平静を装って話すのは忍耐だ。
『それは内緒です♪』
『だって、今度は私が怒られちゃうじゃないですか』
確かに。
『まあでもせっかく立ち寄った事ですし、ひとつだけヒントを授けましょう。』
またヒントか、この人多分Sだ。
『私は今、どっち側でもあるんですよ。あなたもそうなれる可能性がある。』
・・・?それじゃわかんないぞ!
『それでは、ご機嫌よう〜♪』
本井さんがご機嫌に去っていった。




