【第四十四話】『前途多難』
もしやと思った事が現実になる時っていうのは、良くない方に偏るものだと僕は思う。
『いやぁ、こんな形で再開するとは思わなかったよ、来問くん。元気だったかい?』
『その節はお世話になりました。おかげさまでこの通りですよ。』
『冗談抜きでこの展開は予測していなかったけど、ひとまず君が無事で何よりだ。』
『喜んでもらえて何よりです。ただ、この状況を無事と言って良いのかわかりませんけど。』
今僕は、以前法綱さんに連れて来られた「部屋」にいる。今までの情報から推測するにここは「管理課」という場所なんだろう。
今回は気絶させられた訳でもなければ、お客さん扱いでも無い。事情聴取という名目で任意同行・・という想定外の入場だ。
そして僕を捕まえたのは、法綱さんでも本井さんでもない、初対面の人だ。その人も多分、チャネラーなんだろう。
今は縛られてこそいないが、部屋に拘束されている状況だ。これから何が起きるのか全くわからない。
ただ、こんな状況でひとつ気になる事がある。
『・・あの、本井さんはここにはいないんですか?』
『ああ、さっちゃんは今、君関連の仕事にケリをつけに行ってるよ。』
『ケリ・・ですか?』
『そう。君を誘拐した「マサシ」くんを捕まえるよう命令が下達されている。』
『正史を!?』
あいつは今、ちゃんと逃げられてるんだろうか。
ことの成り行きは数時間前に遡る・・・
・・・
・・
僕は、今までその存在を忘れていた場所に向かった。自宅の2階、僕の部屋の前にある長い通路、その横に続くただの壁・・「正史の部屋」だ。
僕の記憶にある正史の部屋の「ドアがあるはずの場所」に手を伸ばすと、空間が歪んでドアノブが出現した。
一呼吸おいて、僕はそのドアノブを握り、右に回す。カギはかかっていないようだ。
ドアを手前に引くと、向こうから眩しい光が溢れ出し、視界が白い闇に呑まれる・・その瞬間、
『・・うおあっ❗️』
『・・・正史⁉️』
握ろうとしたドアノブを握り損ねたように前へ体勢をくずした正史が、ドアの向こうから飛び出して来た。
どすん!
『兄貴ッ❗️』
・・ガシッ⁉️
床に正史が倒れ込んだであろう事は、音と声ですぐにわかった。
しかし、それとほぼ同時に僕は誰かに腕を捕まれ、部屋の中に引き込まれた。
そして、視界が回復しないまま、バタンというドアが閉まる音の後、正史の声は聞こえなくなった。
『おや?掴む腕を間違えましたか。標的を見失いましたね。』
これはヤバいぞ・・縁が言っていた「管理課」絡みの人間か・・
目が眩んで良く見えないが、周りには二、三人いるようだ。
『あなたはこちらのレイヤー住人では無さそうですね。よければ色々と話を聞かせていただけますか?』
こちらのレイヤー?
ここは僕のいた場所とは別の世界ってことか?
まさか、正史の部屋が異世界への扉になっていた・・!?
『まあ、今あなたに選択の余地はないんですがね。素直に同行していただければ危害は加えませんよ。』
僕はまだ何も行動に起こしてないのに、いとも簡単に「敵側」に捕まってしまった。
縁よ、違うんだ!先走った訳じゃなくて、自分の家にある部屋に入ろうとしただけなんだよ!
そして正史よ、タイミング悪過ぎだろ。せめてあと1分早く来てくれれば、そのまま一緒に逃げる事も出来たのに。
そして連れて来られたのは、見覚えのあるいつかの部屋。
・・・
・・
・
そんな事をぼんやり考えていたら、僕を捕まえた人が部屋に入って来た。
『法綱くん、待たせたね。今報告が終わったところだ。
不法チャネリングの現場に居合わせた彼に任意同行で来てもらったが、どうやら君達は顔見知りなようだね。』
『まあね、これも運命のいたずらってヤツかな。』
『後は私の方で対応するから・・』
『おっと、僕もこのまま同席させてもらっていいかな?彼はウチのレイヤー住人だからね、僕が事情を聞く権利はあると思うよ。』
『それは構いませんよ。割と暇なんですね、法綱さんのレイヤーは。平和そうで何よりだ。』
『まあね。ウチには優秀な部下がいるから心配は無用だよ。気にせず始めちゃってよ。』
なんか仲悪そうだ、この2人。
『ほらほら、彼に自己紹介してあげなきゃ。人を任意同行させておいて自分から名乗らないのは失礼だよ。』
そのセリフをアンタが言うのか、法綱さん。
『・・申し遅れました。
私、そこにいる法綱さんと同僚のチャネラー
「和田 引水」
と申します。
よろしくお願いいたします。』
『あ、どうも。来問 真です。』
『来問さんですね。
では、先程の状況について少々確認したい事がございますので、ご協力お願いします。』
『はぁ。わかりました。』
ヘタな事は言えないな。
法綱さんは、なぜ同席したんだ?
この後、身柄を引き取るつもりか?
問題なのは、今の法綱さんが僕の敵か味方かが判別できないことだ。現状の情報が足りなすぎる!
法綱さんは、相変わらずのサングラスで何考えてるのか表情からは読み取れない。
『ではまず、先程の場所であなたと入れ替わりになった人物は、知り合いですか?』
下手に真実を話してもリスクが高い。
かといってバレバレのウソもつけない。
『アイツは・・僕の相棒です。』
法綱さんも、もちろん和田さんも正史が僕の弟だという真実は知らないはず。
特に法綱さんにそれがバレると色々と面倒な事になりそうだ。まあ、「相棒」って答えた時点で何かあった事はバレてしまうよな。
『相棒ですか。ではこれまで彼と行動を共にしてきたという事でしょうか?彼の名前を教えていただく事はできますか?』
予想通り、ガンガン質問してくるな。
自分と対面した人の気持ちがわかる・・かもしれない。
『・・いえ。行動を共にしたことはありません。出会ったのも最近です。』
言ってる事はウソじゃない。
一緒に生活していたという事実はアンタらのシステムに消されてるからな。
『名前は・・マサシです。』
ここは法綱さんにバレてるから隠す必要はない。
『マサシ⁉️
それは本当の名前ですか?』
なんだ?この食い付きは・・
マズイ事になったか?
『本人からはマサシだと自己紹介されましたが、そう言われてしまうと本名かどうかまでは・・』
今はこれが精一杯の返しだ。
『そうですか。
彼が今どこにいるかわかりますか?』
『わかりません。さっきすれ違ったのも偶然です。あのタイミングで会うとは思ってなくて・・』
和田さんはじっとこちらを観察している。
『では、彼の住処はどこかご存知ですか?』
『わかりません。僕もそれをアイツに聞きたかったんです。今どこで暮らしているのか・・ご存じありませんか?』
これは嘘偽りの無い本心だ。
『そうですか、わかりました。
・・ところで来問さん、あなたは何故あの時あの場所にいたんですか?』
『あの場所も何も、あそこは僕の家ですよ?』
『!?そうでしたか・・こちらからは、どこに繋がっているかまでは確認できないもので、失礼しました。』
『とにかく、僕はあそこで何が起きたのか全くわかりません。
それについては説明していただけるんですよね?僕はそちらからの質問に答えましたし。』
和田さんは少し困った顔になった。
『ハッハッ!こりゃ和田ちゃんの負けだねぇ!
仕方ない、ここは僕から彼に状況を説明しておくから、君は業務報告でもしてきなよ。
「事情聴取による成果無し」ってね。』
『・・はぁ、わかりました。
ここは法綱くんに任せます。まだ事後対応の方針が決まってないので、彼を解放しないでくださいよ!』
『大丈夫!僕も彼と話したい事があるからね。しばらく時間をもらうよ。』
和田さんはため息をつきながら部屋を出て行った。
『改めて、久しぶりだね!
・・って言いたくなるほど長い2日だったよ!
どうやら君の症状は完全に回復したようだね。
どんな手段を使ったかは気になるところだけど、きっとさっちゃんも喜ぶよ。』
『・・ありがとうございます。
僕自身の記憶が危なかったというのは正直驚きでしたが、見ての通り無事解決しました。
ただ、僕としては正直何と言っていいか。
・・いや違うな。
今ここで大事なのは、僕が法綱さんと何を話すべきか・・ですね。』
『・・へぇ。
だんだんと貫禄が出て来たねぇ、来問くん。
今回の騒動に関する和田ちゃんの状況報告書、そしてさっきの話のやり取りから推測するに、君は本来のチャネラーにはない「特殊能力」を手に入れた可能性があるね。』
特殊能力?
そんなの使った時あったか?
『それは、この世界において
「結構ヤバい」能力でね、僕ら「チャネラー」が無視できない力だ。』
法綱さんはサングラス越しでもわかる真剣な表情でそう語った。




