【第四十二話】『春愁秋思』
廃校から始まった一連の出来事を、僕はどこか他人事のように思っていた。
でも、ほんの少しだけど世界の構造を聞いた時からわかっていたんだ。僕も今まで記憶を改ざんされてきていたんだって。
もしかしたら大切な記憶も失っているかも知れない・・そう思うと「失った真実」を知るのが怖かった。
今僕は、いつから失っていたのかわからない、一番身近にあった真実を取り戻した。
記憶を取り戻してくれた正史と縁には、心底感謝してるし、でっかい借りができたなと思っている。
と同時に正史が今までどうしていたのか、当然僕は聞かずにはいられなかったが、本人は今ここにはいない。
『悪いけど今からちょっとの間、兄貴達には会えなくなる。1週間くらいしたら顔出すから待っててくれよ。』
と言ってすぐどこかに消えてしまったからだ。
縁には
『俺が正史から聞いた話を後で教えてやろう』
と言われ、今日は解散となった。
僕が本井さんと一緒にいたホテルから連れ去られた先が、まさか亀高の保健室だったとは思わなかった。そして今日が日曜日だったという事も。
ひとまず、家に帰って明日からまた学校だな。
本井さん達は心配してるかな?
スマホを見たが着信は無かった。
ただ、今の僕は何故かすぐに連絡を取ろうとは思わなかった。
・・
・
『真〜、ご飯だよ〜』
『はーい』
『真、合宿って、何やってたんだ?お前何か部活に入ったのか?』
父さんから至極当然な質問が飛んできた。
『ああ、まあ・・ね。帰宅部には変わりないんだけど、お試し合宿というか・・』
『帰宅部は部活じゃないだろ❗️帰宅部合宿とは、中々面白い学校になったな亀高も。』
『えっ?父さんも亀高出身なの!?』
『まあな。あえて言うほどの学歴じゃないから誰にも話さないけどな。ハッハッ!』
謙遜したつもりで息子の学歴にさらりとケチついたのわかってるか?父さん・・
『・・で、何か収穫はあったのか?』
『まあね。想定外の回収ができたよ』
『回収だあ?・・何か商売でもしてきたのか?』
『それは父さんには秘密』
『黙秘か!ようし、そのうち吐かせてやる!』
このやり取り、いつも通りだな。
・・まあ、いつも通りではあるんだけど、父さんと母さんは正史の事、記憶にないんだよな・・
もとの4人家族として、また生活できるようになるんだろうか・・
正史はその答えを知ってるのか・・?
直接聞きたいところなのに、1週間は会えないらしい。会えないって、一体どういう理屈なんだ?
しばらく旅行に行く予定があって・・みたいな緩い話じゃないだろう。
今まで俺の前に姿を現さなかった事と関係あるんだろうか。
疑問が無尽蔵に湧いてくるけど、今すぐ答えは望めない。
まずは縁から話を聞くとしよう。
あれ?
何か忘れてることないか?
・・・
・・
ま、必要な事なら思い出すだろう。
・・
・
『真!何ぼーっとしてるの!早くご飯食べなさい!食器いつまでも片付かないでしょ!』
『あっ、ごめん。
ああっ❗️
やばい遅刻するっ❗️』
急いでご飯をかきこみ、家を出る。
そういえば、忘れてた記憶ってのが戻ってくるっていうのは、思い出したくなかった事まで当然ついてくるよな。
実は遅刻常習犯で、中学の頃は僕が独占首位だったんだよなぁ。
高校入ってからは1年間、遅杉とずっと2トップだった。
・・ということは、その記憶の境目・・。
2年になったあたりで記憶を失っていた可能性が高いな。
そんな事を考えながら、僕は自転車を走らせた。
『おっすー』
教室に到着すると、
『来問〜、遅杉の真似はしなくていいんだぞ〜。』
余裕の遅刻だった。
『すいません先生、ちょっと調子悪くて・・』
『遅杉より早くても遅刻は遅刻だからな〜。間違えるなよ〜。』
『わかってます!』
クラスのみんなに笑われた。
僕をネタにする計画は前からあったな。
まあ遅杉には勝ったから良しとしよう。
教室を見渡すと、縁が席についていた。
『おう、来問、調子はどうだ?』
『ああ、おかげさまで頭がスッキリしてるよ!』
『生活習慣もしっかり思い出したか?』
『ほっとけ!』
縁が軽く笑った後、少し真剣な顔をして
『・・その後、本井先輩から何か連絡あったか?』
・・・!
『・・あああソレだっ❗️すっかり忘れてたっ‼️』
『・・まあ、あまり急ぐ事はないが、連絡するならよく考えて慎重にすることだな。』
・・ああ、そうか。
本井さん達は正史の正体を知らないし、今までのやり取り次第じゃ関係が変わるかもしれない。
『来問〜、遅刻の次はホームルーム妨害かぁ?』
あ、そうだった。
『すいません、すぐ黙ります!
縁、後で例の話聞かせてくれよな。』
『ああ、もちろんだ。
しっかり伝える必要があるからな、放課後にした方がいい。』
『わかった。じゃ、放課後な。』
『お〜う。それじゃホームルームの続き始めるぞ〜』
・・・
・・
眠さ爆発しがちな歴史の授業。
しかし、毎度の事ながら脱線の積み重ねで試験範囲が消化不足になってしまうため、皆真剣に先生の話を聞いている。
いい授業なんだよ、ほんと。
・・脱線しなきゃね。
『・・という風に、人々の「どうにも出来ない物事」への不満や怒りは「より身近な対象」へと向けられやすい。そして、その思いによって動くものを求めるのが世論というものだ。
そしてそれこそが歴史を動かす原動力となり得るわけだな。
黒船の来航から、日本がどう考え、どう動き、どう変わって来たのか、これは未来の縮図にもなると私は考える。
・・次の中間テストでは、諸君らがこの開国という史実についてどう思うかを問う問題を用意した。
皆、思いの丈を存分に綴ってほしい。』
・・なんだとォ!
歴史のテストで作文だとっ!
みんなそんなに歴史について深く考えてないから!
『皆の気持ちを存分に受け止める為に400字詰めの原稿用紙を3枚用意してある。
中間テスト、楽しみにしているぞ』
先生、そんなのもう歴史のテストじゃないよ!
みんな赤点とっちゃうよ?
『先生、その問題についてですが、原稿用紙3枚にびっしり書いて満点の場合、時間的に間に合わないと思います。
さらに、他の問題もあるのであれば、試験問題としては一問にかかる時間が長過ぎます。
検討をお願いします。』
『『『おお〜!』』』
教室内がどよめいた。
いいぞ半次❗️
『むぅ・・。確かに、試験時間を考えると全45問は厳しいかも知れん。』
45問!作文のほかに44問もあるのかよ!
厳しいじゃなくて、無理!
わかれ!先生!
『仕方ない。作文は試験問題から除外する。』
『おおお〜‼️』
歓声が上がった!
『作文は提出課題に変更し、内申点に加点するものとする。』
『おおぉぉぅ』
歓声が止んだ。
先生〜!
・・・
・・
放課後・・
縁とは丘の上公園で待ち合わせる事になった。
前回、縁とはここで口論の末に気を失うという思い出したくない過去を作った。
でも、やり直しには絶好の場所だ。
ここからやり直す。
色々な意味で。
『待たせたな。』
『今日は僕の方が早かったな!』
『フッ・・』
『フッ・・って何だよ!何の余裕!?』
『思った以上に元気だったもんでな。』
『おかげさまで!
ちゃんと思い出したよ。
正史の事も、縁が「音無姉さん」って呼ぶ事もな。』
『それなら大丈夫そうだな。』
『教えてくれよ、正史について。』




