【第四十話】『合浦珠還』
【縁サイド:その2】
深層領域と表層領域を隔てる分厚い層を突き破り、出て来たものは虹色を纏った巨大なドラゴンだった。
肘をついた腕だけで俺の身長の2倍を超える大きさ・・
『これが・・このドラゴンが来問の「真実の記憶」だというのかッ⁉️』
(落ち着け縁先輩!記憶の中は実態じゃない!アンタの頭の中で無意識にイメージしたのがドラゴンだっただけだ。何か思いあたる事ないの?)
思いあたる事だと・・?
・・そういえば初めて自分の中から虹色の炎が出て来た時は、炎→ドラゴンのブレスみたいなイメージを持ったら確かにドラゴンのような姿に変化していた・・!
『・・俺は自分の炎を見た時にドラゴンをイメージしたことがあった。』
(間違いなくそれだろ!
虹色という共通点、穴から出てくるのはアンタの炎と同じ「真実の記憶」、ドンピシャにシンクロしてんじゃねーか!サイズは知らねえけど)
『どうすればいい?』
(どうもこうもこっちからは何もできねーよ!縁先輩がイメージを変えるか、腹くくるかどっちかだ!)
『最初から腹はくくってるが、やりようはあるのか⁉️』
(縁先輩、ひとつ言っとくぜ。アンタがでかいと思ったそのサイズは、中の密度とはイコールじゃねえ。そもそも兄貴とアンタは同級生だ。記憶の量にそんなに差があんのかよ?)
『・・そういうことか❗️
正史ッ❗️
今までで一番説得力があったぞッ‼️』
俺はドラゴンに正面からぶつかっていった。
『来問のドラゴン❗️ひとまずここで休憩してもらおうかッ‼️』
【来問 真サイド】
涼しい風を感じた。
目を覚ますと丘の上公園にいた。
いつもの場所、いつもの姿勢。
横にはわざと倒してある自転車。
見下ろせば、ぽつぽつと消えていく街の灯り。
いつも通りだ。
いつも通りのはずなのに、何か足りない。
廃校の方向に目をやった。
ちゃんと廃校がある。良かった。
いや・・違う❗️
・・あるのはおかしいんじゃないのか⁉️
(廃校があったら駄目なのかい?)
・・なんだ?
(存在しているから見えているんだろう?)
声が聞こえてくる・・
聞き慣れた声、だが聞こえ方に少々違和感のある、そして聞こえるはずのない声だ・・
(じゃあ、これはどこにあるんだろうな)
振り返るとそこには、僕が立っていた。
彼・・僕は廃校の方角を涼しげにただ見つめている。
どこか懐かしいそよ風が顎の下を掠めていく。
もう1人の僕が何故現れたのか、何を意味するのか・・一瞬とも永遠とも取れる時を僕は静観していた。
沈黙の中、直接心に伝わってくるような声。
(「廃校がある」という事自体はおかしな事じゃない。
問題なのは今、見えてる理由だ。)
今見えている・・理由・・
(今、君が生きている世界に廃校は無くなった。でも君は、僕は、廃校があった事を知っている。それは何故だ?)
それは・・
『僕が・・覚えているから・・』
(そう、これは僕の・・君の記憶が覚えている景色・・)
街の方に向き直り、見下ろした。
廃校を含む、つい最近まで見慣れていたはずの、そして今は見る事の叶わない景色が、当然のように「そこ」にはあった。
緩やかに風が流れていく。
この風には覚えがある・・・
風の音が、それ以外の音を全て連れ去った。
ふと振り返ると、目の前にいる僕の隣には、マサシが一緒にいた。
マサシは不貞腐れたような、それでいて、しょうがないなぁ、といった表情だった。
風の音が消え、静かに揺れる僕の心音が次第に強く全身に伝わっていく・・
瞬きをした。
次に見つめた世界に、もう1人の僕とマサシはいなかった。
芝生は風になびいているのに、何も語らない。
自分一人、全てに忘れ去られた、そんな感覚に包まれた。
沈黙する世界。
自転車を起こそうと振り向いたその先に、マサシがいた。
『・・ったく、物忘れの良さと寝坊ぐせはまだ治らないかぁ?へっぽこ兄貴よ』
・・・!
・・そうだった。
・・僕はずっと遅刻の常習班だった。
いつも朝ごはんの時間に起こされて、起きれなくて、慌てて学校に向かってた。
《兄貴〜ご飯だよ〜!》
《・・あと5分後に起こして〜・・》
《・・何で起こしてくれなかったんだよ〜!》
《二度寝した兄貴が悪い〜♪》
《俺のベーコン、3枚食っただろ!》
《知らないなぁ〜。早起きは3枚もらっ得》
《全然うまくねーよ!》
《ベーコンはうまかったぜ!》
《兄貴〜夢幻に剣山食いに行こうぜ〜》
《食えるか!あんな量!》
《そんなだから兄貴は体力ねーんだよ》
《何おう!》
《兄貴!雨降って来たぞ!》
《マジ?自転車物置に入れなきゃ!正史、行くぞ!》
《俺は天気予報見てたからもうしまってあるぜ?》
《抜けがけかよ、卑怯者!》
《スマホ有効活用しなよ!ま、電話番号は家族しか登録してないだろうけど》
《うるせー!》
・・・
俺は、今まで何故忘れていたんだ?
いつから・・・
身近な距離でいつも僕をいじってくる弟を・・
こんなにうるさい弟を・・
『まッ・⁉️』
舌を噛んだ。
『おいおい、感動の第一声を噛むたぁどういう神経してんだよ、へっぽこ兄貴』
『ぶるへ〜、がんどうなんでじでだい❗️』
正史はやれやれといった顔して
『へっ・・おかえり兄貴』
って言いやがった。
『「ただいま」はお前が言うセリフだろっ❗️』
『正史ッ❗️』
『兄貴、悪いが今感動の再会やってる暇はねーんだわ。まだ兄貴は完全復活してねぇからな。』
『僕が・・?復活ってなんだ?』
『まっ、ここからは俺と縁先輩に任せて一旦寝てくれや。』
『まっ❗️待て❗️また俺を寝かせ・・』
・・僕はなんて寝かされ人生なんだ・・
正史・・
おかえり
【来問 正史サイド】
『・・今は寝てくれた方がいいんだよ。
さてと、記憶の天地返しもそろそろ終わるかぁ?』
(正史ッ❗️聞こえてるかッ❗️少々マズイ事になりそうだッッ⁉️)
はぁ、やっぱ一筋縄じゃあいかねぇかぁ。
ウチの兄貴のケアは手間がかかるぜ。




