【第三十四話】『雪上加霜』
急なプチ家出まがいの「旅行」という名の隠密生活。
その準備のための買い出し先でまさかの警戒相手に遭遇。
からのお昼ご飯で気絶。
予定外の連続の結果、僕はホテルで引き篭もり生活をする羽目になり、早くも2日が経過している。
法綱さんは、
「向こうに戻って確認したいことがあるからちょっと席を外すよ〜」
と言って初日に帰っていった。
本井さんは、
「あとは私に任せなさい❗️」
と言わんばかりに胸をはっていたが、引き篭もる以上は特段やることもないので、そのうち無音状態に耐えかねてか、一人でテレビを見始めていた。
同じく、特にやることもない僕は、ベッドに大の字に寝転がって、天井を見つめる。
なんかこういう時って、無意識に天井のシミとか探しちゃうんだよな。
思えばこんな事になって、普通なら不安で何も手につかない心境だと思う。
不安と恐怖を燃料に、心臓が存在をアピールせんとばかりに音量マシマシになってさ。
でも、今の僕はそこまであたふたしてないし、深刻に考えてもいない。
法綱さんに出会ったあの日から、信じられない光景ばかり目にしてきたし、体験してきた。人の記憶の中にまで入り込んだからなぁ。
深層領域に落っこちた時、自分が消えてなくなるんじゃないかってマジで思った。
そんな異常な世界を何度も目の当たりにしてからだと、今自分にも何らかの危険が迫っていたところで何も不自然に感じない。
むしろ、よく今まで普通に生きて来れてたな、とも思う。
そんな事を天井を見ながらぼーっと考えていたら、ベッド脇のテーブルに放置していたスマホが鳴った。
ん?
僕は遠目に画面を覗いたが、その表示を確認し即座にスマホを掴み取った。
『縁かっ❗️』
その声に本井さんが振り返る。
『来問、無事か?』
『あっ、ああ。まあ無事といえばまだ無事だ・・と思う。』
『そうか。
今、お前のそばに本井先輩か、法綱という人はいるか?』
『本井さんならいる・・けど・・⁉️』
本井さんは体全体で「NO❗️」と言え!と伝えていたらしい・・
見るの遅れてごめんなさい・・
本井さんはめっちゃ顔真っ赤になって後ろ向いちゃった。
『それなら、本井先輩に聞いてほしいことがある。』
『何だ?』
『今のSMS管理部長の名前は誰か聞いてくれ。』
『SM・・え?何の部長?何の話?』
本井さんがピクッと反応した。
『「今のSMS管理部長の名前」だ。今はお前がわからなくてもいい。いずれ改めて知る事になるだろうからな。』
『ん?ああ、わかった。聞いてみる。』
僕は本井さんに向き直って話しかけた。
『本井さん、今のSMSの管理部長の名前ってわかります?』
本井さんは僕に背中を向けたまま、無言で頭の上にバツを作った。
『知らないみたいだぞ?』
『そうか。予想通りの返しだ。
ではもうひとつ。次の質問には、おそらく本井先輩は絶対返事してくれないと思うが、反応を教えてくれ。』
『何か意味深だな。わかったよ。』
『・・・・・ ・・・・』
『何だそりゃあ!?それが名前か?』
『ああ。聞いてみてくれ。』
『本井さん、もう一個質問みたいなんですけど・・ミョウモン ト・・』
いい終わる間も無く、もの凄い勢いで振り返った本井さんにスマホを奪われた。
『あなた❗️その名前どこで❗️』
『本井先輩ッ❗️お久しぶりですッ❗️
お元気でしたかッ⁉️』
『そんな事はどうでもいいのッ❗️
あなた達の耳には絶対入らないその名前❗️誰から聞いたの⁉️』
『本井先輩。
来問は今のままでは廃人になってしまう。
具体的な対策はあるんですか?
音無姉さんの時のような無策は許しませんよ。』
縁の声が急に小さくなったのか、聞き取れなかったが、本井さんは深刻な表情だ。
『それは・・・。
あなたには何かあるとでも⁉️』
『少なくともアイツを、来問を救う為の対策を準備しているヤツはいる。
だが、あなたはそこで「その名」を言ってはいけない。』
『やっぱり・・』
『そういう事です。
おそらくもう来問には時間がない。
そちらで打つ手がないのなら、来問は
近いうちに連れ戻させてもらいますよ』
『・・そんな、ちょっ』
本井さんは話を続けようとしたが切られたらしい。
『本井さん、縁と何を話したんです?』
僕にそっとスマホを返してきた本井さんの顔は真っ青だった。
少しの沈黙の後
『・・教えてあげたいけど、今はダメ・・
ちょっと法綱を呼んでくるから待ってて』
バタン。
とドアの音がしたと同時に
『ハッハァ❗️やっぱりあのお姉さんはポンコツだね❗️全く護衛のごの字も見つからないよ♪』
急に後ろから高らかな笑い声が耳に突き刺さり慌てて振り返る。
『マッ・・❗️』
『その驚いた顔、変わらないねぇ昔から。
とりあえず、積もる話は移動してからだね!
さぁ行こうぜ、兄貴』
もう何度目かわからないブラックアウトに僕は視界も意識も奪われた。
こんなあっさり捕まってしまってごめんなさい、本井さん・・




