【第二十六話】『安心立命』
『警戒しなくていいよ。
俺は味方だからね。』
『味方って・・何に対して敵味方の話してるんだ?そもそも誰なんだ?お前は』
そいつは少しだけ寂しそうな顔をして、
『変わってないね。そういう・・』
言いかけて、何かに気づいたように僕の横を走り抜けた。
『またね!』
何を慌てていたんだ?
『あら、来問くん。今から帰るの?』
『あ、本井さん、今から帰るところです。
お昼はごちそうさまでした!』
『気にしないで。この前のお礼もまだだったしね。』
少し一緒に歩いて、本井さんが
『この近くにカフェあるよね。寄って行かない?』
と誘ってきた。
この辺だと、縁と待ち合わせしたあのカフェだな。
『いいですね。僕も寄り道して帰ろうと思ってたので。』
『おっ、もしや寄り道常習犯ですか?高校生っぽくていいね〜』
学生ライフを楽しんでるな、本井さん。
まあ、結果として『あの謎の子』の思惑通り丘の上公園には行かなくなったわけだが。
あいつは一体誰なんだ?
明らかに僕より年下なんだが、何か向こうは親しみのある様子だったな。
近所の子かな。
とはいえ、昨日の事情を知っているあたり、油断はできない。
カフェに着くなり本井さんはお店の女性に何か耳打ちしていた。
『じゃあ、席につきましょ!』
『あ、はい。』
もしかして注文してくれたのかな?
・・
『ドンッ❗️』
・・❗️
急に店員が巨大なものをテーブルに残置して一言。
『お待たせしました、マーベラスパフェです!』
なんと!
ラーメン丼よりも大きい器に、本井さんの顔が見えないほどの山が聳え立っている・・!
『わあ❗️
前から気になってたんですよ、これ!
でも、1人で頼むのちょっと気が引けちゃって・・
来問くんが一緒に来てくれてよかった♪』
山の向こうから本井さんの声が聞こえた。
『・・お役に立てて何よりです・・』
学食であれだけ目立ってるのに今更な気もするが、嬉しそうにパフェを頬張る本井さんを見れたのは良かった。
・・実際はパフェがデカ過ぎて表情はよく見えてないが。
モグモグしながら本井さんが話しかけてきた。
『それで、音無先生の件なんだけど・・』
・・ついに来た、この話題が。
『来問くんや縁くんが、多分記憶の「深層領域」に入ったところからだと思うんだけど、連絡が全く取れない状態になったの。』
『あ〜、確かに』
『実は、人の記憶の領域に入る任務自体、初めての事だったのね。』
『やっぱり。途中からそうだと思ってました。』
『結果として、行き当たりばったりの危険な任務をさせてしまって申し訳ないと思ってるわ。』
『まあ、大変でしたが貴重な経験ができたと思ってます。普通は出来ない体験ですし。』
『ありがとう。』
すごく感謝されてるのが伝わる笑顔ではあるんだが本井さん、ほっぺにクリームついてます。
『あ、ほらほら来問くんも一緒に食べましょ?』
なんですと!
『じ・・じゃあ少しいただきます。』
ちゃんとスプーンを2人分置いていくとは・・あの店員さんなかなかやるな。
『話を戻すけど、覚えてる範囲でいいから、深層領域で何が起きたか、私に教えて欲しいの。』
そこは気になるよな。
『うまく言葉で伝えられるかわかりませんよ?
非日常ここに極まれり、みたいな出来事ばかりでしたから。』
『大丈夫、私も非現実の中に生きてる人間だから♪』
パフェを頬張りながら自信満々の表情を見せる本井さんが、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
そんなゆるい空気感で始まった記憶の中の体験談だが、話が進むにつれ本井さんも真剣な表情に変わっていった。
『・・そう。そんな事になっていたのね。』
『はい。ただ、今でもはっきりわかるのは、やっぱり僕だけでは記憶の中の展開は完成してなくて・・』
『・・縁くんね。』
僕はこくりと頷いた。
『それを聞こうと思っていたんですが、縁には拒否された感じ、ですね・・・』
『その答えを知ってはいけないと彼は判断した・・』
『多分、縁は全ての答えを知ってるんだと思います。だから、僕の身に起こった事を聞くまでもなく、その判断をしたんだと・・』
『それほど深刻な事態を引き起こすって、一体縁くんは何を知ってるんだろう・・』
『法綱さんならわかるでしょうか?』
『ん〜・・どうでしょうね。肝心な時に頼りになった事があまりないからなぁ、あの人』
辛口評価!
『まあでも、いないよりはマシだから、聞いてみるね。
あ、来問くん手が止まってるよ!』
話しながらもパフェをしっかり攻め続ける本井さん、流石です。
・・・
・・
『それじゃ来問くん、またね!』
『ごちそうさまでした!』
本井さんはバス停に向かっていった。
・・さて、僕も家に帰るか。
自転車にまたがり、夕陽を背に走り出した。
・・
『来問くんにしては平和な日常だねぇ。
さっちゃんもしっかり学生をエンジョイしちゃって。
それに比べて僕は今日も残業確定さ。
大人はいつも大変なんだよ。
で・・君は一体何者なんだい?』
『そんなふうに、知らない未成年に声かけてたら不審者だと思われるよ?』
『ロックしてるのに平然と歩き回る未成年にはおじさん、声かけちゃうよ♪』
『まだそんな年じゃないくせに・・とは言ってもこれからちょいちょいお世話になると思うから、自己紹介しておくかな。
・・改めてね。
僕の名はマサシ。』
そう名乗った後、そのまま夕陽と共に路地裏の闇に消えた。
『・・こりゃ、悩みと白髪が増えそうだねぇ』
法綱は頭をワシワシとかいた後、ため息をついた。




