【第二十三話】『暗雲低迷』
バスから降りると、雨はだいぶ小降りになっていた。
学校から最寄りのバス停は、残念な事に直線距離で300mぐらいは離れている。
この距離を歩かされるのが面倒だから、普段は自転車で来るようになった。
『そういえば、本井さんいつまでウチの学生でいる予定なんですか?』
『え〜冷たいですね来問くん!用が済んだら私はもう学校に来ちゃ行けないの?』
ん、いやそこまでは・・
『そんな事は微塵もありませんッ❗️
ありえませんッ❗️
ずっと学校にいてくださいッ❗️
来年もお願いしますッ❗️』
筋肉が乱入してきた。
『えっ⁉️あ、ありがとう・・でも留年はちょっと・・』
縁、お前のタイミングよ・・
『え〜っと、おはよう縁くん、体の調子はどう?』
『もうバッチリ元通りですッ❗️これも本井先輩のおかげですッ❗️』
『あ、えと、そ・・そう?なら良かった・・』
本井さんは会話のリズムを崩されてポンコツ先輩になっている。
『今日はどんなミッションがあるんですかッ❗️』
あんな出来事があって何とも思ってないのか?
というか、体何ともないのか!?
流石鍛えてるやつは余裕があるな。
縁よ、お前は将来絶対に自衛隊だ。
『あっ、今日は無いよっ・?
・・というか、しばらく無いというか、
多分もう無いと・・思う』
あんなイベント、毎日あってたまるか。
『それは残念❗️また何かあったらいつでも声かけてくださいッ❗️
それでは、自分はこれで失礼しますッ❗️』
ん?何だこの爽やかな引き際。
そしてその後の全力ダッシュぶり。
何か用事でもあるんだろうか。
・・⁉️
『ウソでしょォ‼️』
学校のチャイムが鳴った。
『いや〜来問、良かったな!
クラスじゃ満場一致で俺とお前がクラスの2トップだ!』
遅杉の距離が近すぎる!
嫌だ〜っ!やめて!遅刻常習犯とか、今までの僕のキャラじゃないのに!
『そんな期待のホープにいい事を教えてやろう!
なんと、4月から今月までに遅刻した回数が5回に到達する度に特別補習が受けられる事になったぞ!』
『何その情報!役に立つ人いないじゃん!もっといい情報集めてこいよ!』
『フッ・・甘いな、来問よ』
・・なんだ?この話には裏があるのか?
『調べたところ、俺は既に24回、つまり4回ぶんの補習を既にストックしている。さらに後1回遅刻すれば5回目までゲットだ!』
『それ、普通にペナルティだからな!特典とか報酬みたいに言うのやめて?』
『そんな事言ってももう遅いぜ、相棒。
俺の調べによると、今日獲得した分を入れてお前は既にリーチ、つまり4回遅刻している。
2年になってから急激に頭角を現してきたな!』
何だとぉ!
『さあ!俺と一緒に特別補習を受けようぜ!』
『塾の特典みたいな誘い方すんな!僕はもう絶対に遅刻しないッ!』
・・
・
そんなことより縁だ!
あいつ俺を見捨てて1人遅刻を逃れるとはっ!
しかし、本井さんまで置き去りは想定外だったな・・
『ん・・あれ?縁は?』
『ああ、縁ならさっき教室にかばん置いたあと、すぐ出て行ったよ。保健室に用があるとかで。』
半次が答えてくれた。
『そうだ!僕も保健室に用があったんだ!遅刻のせいで忘れてた!』
『来問〜、もうホームルーム開始だから時間切れだな〜。怪我したんじゃないなら後で行って来い。』
いつの間にか渡河先生が教室に到着していた。
くっ・・何だこの展開・・。
次から次へと後手にまわっていく感が・・
・・・昼休み。
僕は混雑してる学食は後回しにまっすぐ保健室へ向かった。
『あらどうしたの?来問くんまで。』
ん?まで?
『おう。来ると思ってたぞ、来問。』
『縁!』
縁が仕切りカーテンから、のそりと顔を覗かせた。ベッドで寝ていたようだ。
『体の調子悪いのか?』
『いや、ちょっと音無姉さんに話があってな。』
・・ん?
『・・縁、前まで音無先生って呼んでなかったか?』
『ん、ああ。ちょっとな。それも含めて、お前に話しておきたい事がある。』
昨日、縁の記憶の中に入った時か。僕の前から消えた後、やっぱり何かあったんだな。
『ちょっと夏実〜、私を巻き込むつもり?
男同士の大事な話なら保健室でしないでくれる?』
『ん・・あ〜、そうだな。来問、場所を変えていいか?』
さすが親戚というか、急に距離近くなったな、2人は。これも記憶が戻った事に関係してるんだな。
僕達は、秘密の話といえばの屋上に向かった。
ウチの学校の屋上は体育館の屋根上に位置する。とにかく広いと噂だが、用事がないので行ったことはなかったりする。
さっきまで雨も降っていたし、わざわざ屋上に行く変わり者はいないだろう。
屋上のドアを開けると、そんな予想を粉砕する勢いの賑わいを見せており、秘密の話なんて出来そうもなかった。
なんか女子が集まってお昼ごはん食べてたり、昼寝してる奴もいる。
『屋上って、こんな混んでるものなのか⁉️不良がタバコ吸うための秘密の空間じゃなかったのかッ❗️』
縁よ、情報が古い。
そんな感じで密談の場を探し回ってグダってるうちに昼休みが終わってしまった。
あ、昼ごはん・・
結局、学校帰りに近くのカフェで待ち合わせる事になった。
放課後、僕は掃除当番なので、縁は先にカフェへ行き、席をキープして待ってるという事になった。
そういえば、掃除中また本井さんが来るのではと内心警戒していたが、連絡はおろか姿を見ることすらなかった。
まあ僕としては、昨日のことについてまず縁と2人だけで話したいって思ってたから都合が良かったけども。
そんな事を考えながらあっという間に掃除が終わり、そそくさと学校を出る。
見上げると雲一つない青空となっていて、自然と足取りも軽く約束のカフェへと僕は向かった。
信号を渡り、すぐそこの角を曲がればカフェだ。と思った瞬間
『・・ドカッ!』
『いっつ・・』
誰かがカフェの方から飛び出してきて思い切りぶつかり、僕は尻餅をついた。
『・・・!』
『・・あっ、おい❗️』
去り際に振り返ったそいつの顔を見た。
あれは朝見たフードの奴だ。
雨は上がっているのにフードを被ったままだった。
『待てッ❗️
ん、来問❗️
大丈夫かッ❗️』
縁が後を追うようにやってきた。
『縁、アイツと何かあったのか!?』
『いや、学校からここに来るまでの間、後をつけられている事に気づいてな。捕まえて理由を聞こうとしたら逃げられた。』
『マジか・・いてて』
縁に手を引っ張ってもらって立ち上がる。
『今のやつ、朝僕も見たんだよ。』
『今のやつ・・?やはり』
『ん?どうした?』
『いや、何でもない。』
『とりあえず、場所は変えたほうがいいかな。』
『そうだな。来問、どこか良い場所はあるか?』
ん〜、考え事する場所なら答えはひとつしかない。
僕達は丘の上公園に向かった。




