【第十九話】『一簣之功』
幻の「記憶の映像」から、一冊のノートが僕の足元に届いた。
ノート全体に纏った虹色はやがて収まり、やや年期を感じさせる装いの日記帳となって僕にその姿を現した。
手に取ってみると、懐かしさを感じる昔ながらの日記帳のデザイン。その右下には名前を書く欄がある。
そこには、お世辞にも上手いとは言えないが、元気いっぱいの字で「えにし かじつ」と書かれていた。
『・・・縁の日記帳⁉️』
なぜここに・・⁉️
その理由が答えのように思えてならないんだが、ピンと来ない。
まずは頭の整理が必要だ。
縁の記憶の中に入った時、縁が数ある記憶の窓の中から見つけ、その後吸い込まれた「日記の窓」。
その後、窓の爆発と共に帰ってきた縁が、その付近で見つけた黒いカギ。
そして、それは音無先生の中に虹色の粒となって吸い込まれていった。
・・よく思い出せ!
あの時のことを。
縁は日記の窓に吸い込まれる時、何をした?
鍵穴もドアノブも無かったはずだ。
窓に直接カギを差し込んでいなかったか?
そしてそのまま縁は吸い込まれた。
その時のカギが、あの日記の窓に奪われた可能性はないか?
そして、窓が爆発した時に落ちていたカギは、その時に縁が手にしていたカギ・・
だとすれば、こう考える事はできないか?
縁が一番最初に開けようとした「日記の窓」は実は偽物で、その時に使ったカギはその偽物の窓に奪われ、さらに縁も吸い込まれた。
どうにかして縁が帰ってきた時、偽物の窓は爆発し、その時に奪ったカギが付近に転がった。
本来「日記の窓を開けるカギ」はまだ役目を果たしていなくて、再び縁の前にカギとして出現し、拾われた。
縁がそのカギを僕に託そうとして落とした時に、そのカギは虹色の粒になって音無先生の中に消えた。
音無先生の深層領域には、前回は無かった無数の蜃気楼のような映像がゆらめいていた。
あのカギが、虹色の粒が音無先生の記憶を甦らせた。
あのたくさんの虹色の粒が音無先生の記憶のカギだったのか⁉️
その結果が、この揺ら揺ら漂う記憶の映像の正体か!
でも、この状態はあまりにも、儚い。
夢と共に消えてしまいそうなほどだ。
まだだ。
これがゴールじゃない。
何かあるはずだ。
そしてこれから必要なのがこの「日記帳」なんだ!
・・ゴゴゴ・・・
なんだ?
地面が、地震のように揺れ出した。
揺れは次第に大きくなっていく・・!
『わわっ⁉️』
立っていられないほどに揺れが強くなってきた!
さらに、辺りも明るくなったり暗くなったりし始めている・・!
まるで、この世界が終わりを迎えるかのようだ!
(・・・うう・・頭が・・)
音無先生!?の声が空間に響く・・❗️
目が覚めようとしている・・⁉️
まずい、時間がない!
答えは目の前にあるんだ、何か、何かあとひとつ、答えを導き出すカギがあるはずだ!
カギ・・!
そうか!
この日記帳こそが「真実の記憶の扉」なんじゃないか⁉️
そう思った瞬間、日記帳の中心が歪み、鍵穴が出現した!
やっぱりそうか❗️
あとはカギだ❗️
カギはどこにあるんだ!?
その時、背後に何かを感じた。
振り返る間も与えず僕の脇を通過したそれは、「虹色に輝く一本の矢」は、日記帳の中心に迷うことなく突き刺さった。
これは・・・
僕がさっき穴から落ちてきた時、窓から助けてくれたものと同じ気配がする。
その矢を凝視すると、やがて虹色の炎に変化した。
ゆらめく炎は次第にすうっと消え去り、後に残ったのは・・カギだ!
ゴゴゴ・・‼️
『うわっ⁉️』
揺れの影響で足元が真っ二つに割れ、僕は日記帳を手にしたまま、その地割れに落下する
『・・・のおおッ❗️』
僕は咄嗟に右手で日記帳に刺さっているカギを掴み、そのまま手首を捻った。
『ガコォォォン・・・』
日記帳から出たとは思えない地鳴りのような音が辺り一帯に反響する!
そのまま僕は闇の中に意識を手放した。
(助けてくれてありがとう、来問くん)
・・・
・・
その音を合図に、ゆらめく映像はみるみる色濃くはっきりとしたものとなり、ひとつひとつが額縁のようなものにおさまっていく。
そして、それらは来問が落ちてきた穴に向かい、次第に見えなくなってゆく。
それは、新しい地へ飛び立つ渡り鳥の群れを連想させるものであったが、来問を含めこの情景を見たものはいない。




