【第十八話】『起死回生』
言うが早いか本井さんは音無先生の頭の横で手首を捻った。
眼前が真っ白に染まる・・・
・・・
・・
目を開けた時には、またあの窓がある空間に立っていた。
記憶領域に入ったようだ。
一瞬、背筋がぞくっとした。
続いて背中に氷柱を突っ込まれたような悪寒が僕を警戒させる・・!
・・何だ?
何かいるのか!?
気を張って辺りを見回す。
・・遠くに何か気配が・・
目を凝らしながら近づく・・
・・⁉️
・・何だあれは❗️
地面にでっかい穴が空いている!
確か前に来た時はアリ地獄に捕まって深層領域まで落っこちたはず。
でもその場所は砂地ではなく、断崖絶壁のように切り崩されている。
そして、その穴の中から何かの気配を感じる。
恐る恐る穴まで近づき、覗きこんだが深すぎて見えない。ただ、何かがこの崖を滑り落ちるような音が聞こえる。
僕の勘が、急いで下に降りろと猛烈に警鐘を鳴らしている⁉️
どの道、ここで黙っていても解決はしない。
ノーヒントなら現場で答えを探すだけ。
考えるのは僕の得意分野だ!
ひと思いに崖に突っ込む。
きっと何とかなる!
縁ッ!
僕に任せろッ❗️
・・
飛び降りてほんの一瞬で光がなくなった。
何も見えない闇の中。
あの時を思い出す。
大丈夫!
これはもう経験済みだッ❗️
恐怖を退け、薄っすらと周りが見え出した瞬間、何かが僕の体に巻き付いた。
『うわっ❗️なんだ⁉️』
目の前には、『あの時の』日記の窓そっくりなヤツがいた!
窓の中からケーブルを伸ばして、自らも落下しながら僕を拘束した。
しっかり巻きつかれてしまっている上に、宙に浮いているから踏ん張ることも出来ない。
『くっそ・・離せ!』
僕をただただ押さえつけようとしているところを見ると、殺意はないらしい。
・・が、僕にとっては障害以外の何ものでもない。
はやくコイツから逃れないと!
こんなことしている暇はないんだ!
その時、背後に何かを感じた。
振り返る間も与えず僕の脇を通過したそれは、「虹色に輝く一本の矢」は、黒い窓の中心を迷うことなく貫いた。
そして、矢が貫いた場所から虹色の炎が吹き出し、ケーブルにまで火の手が上がる。
みるみる根元が焼き切れていき、ケーブルは締め付ける力を失いほどけていく。
窓は特に悲鳴をあげるでもなく灰となって散っていった。
日記の窓を貫通した虹色の矢は、そのままの勢いで、さらに奥へと飛び去っていった。
何かわからないけど、縁が持っていたカギと関係があるんだろうか。
あの時、音無先生の体に吸い込まれたカギは、虹色の粒になっていた。
縁は言っていた、音無先生の中に失われた記憶はあると。
早く見つけないと。
しかし、このまま落下していけば、着地はどうなるんだ!?
何とかなる・・よな?
そう思った瞬間、急に体がぐるんと回った。
『うおっ!?』
縦に落ちていたはずの穴が急に横穴に姿を変えた。
というか、重力の向きが90度変わったみたいな感じだ。
慣性なのか反動なのかよくわからない力に僕の体は地面とは横向きに飛ばされ、幸か不幸か斜めに地面に着地し、そのまま数十メートルを転がった。
『うぉぉぉあああ❗️』
『あだっ❗️』
・・・ようやく到着か。
ここに来るのはホント命懸けだな。
目がチカチカする。
急いでるってのに、視界がバチバチしてよく見えない。
とりあえず深呼吸だ、回復しろ。
・・ふぅ。
まず、前回を思い出そう。
前に来た時はランプがあった。
今回は見当たらない・・が、暗いながらも一定の明るさを保っている。
そして、あらためて辺りを見渡して驚いた。
砂漠っぽくはあるのだが、明るさは夜ぐらいであるのにも関わらず、辺りは意外にもはっきりと見える。
その暗い中にある静かな世界に、蜃気楼のように浮かび上がる映像が無数に宙を漂っているのだ。
ゆらゆらと。
見えては消える、オーロラのように。
まるで、窓枠のない記憶の博物館のようだ。
ここに来るまでは時間に追われ焦っていたが、この不思議な空間に心が安らぎを覚え、気づけば落ち着きを取り戻していた。
この蜃気楼が何かのヒントに違いないと考えながら、歩きはじめ、そのゆらゆらを見て回る。
『ん?』
目につく映像に共通している事を見つけた。
それは『縁と音無先生が一緒に映っている』という事だ。
前回はこんなものは無かった。
この幻が音無先生の『真実の記憶』という事なのか。
きっと縁が何かをやり遂げたことで起きた奇跡なのかも知れない。
思えば本井さんが縁を起用したのも、共通の思い出、つまり音無先生との記憶のつながりをアテにしていたのだろう。
もしそうなら――
今起きている事は、本井さんにとっては想定通りなのかもしれない。
それは今、ここにいる僕にしかわからないことだ。
そんな事を考えながら歩き回っていた僕は、幼い縁と、学生であろう音無先生が手を繋いでいる映像に目が止まった。
肩掛けの小さいカバンを背負って、縁は楽しそうに音無先生の手を引いて、こちらに向かって走ってくる。もちろん僕の事を見てはいない。
音無先生が縁を心配しながら声をかけている素振りを見せた瞬間、
縁は転んだ。
その拍子にカバンが開き、中からノートが飛び出した。
『バサッ』
『え?』
それは、宙を舞い、虹色の光を帯びて僕の足元に着地した。




