【第十七話】『画竜点睛』
僕が入り込もうとした日記の窓は、無数の窓をケーブルごと飲み込んで沈黙した。
そして僕はその場にドッとヘタレ込み、しばらく呆然としていた。
本井さんも沈黙している。
サングラス男からも指示はない。
頼みの綱だった日記の窓にも入れなかった。
打つ手が見つからず、いよいよ「諦め」が思考を覆い隠そうになった時、目の前のそれが突然爆発した。
『ドガァン‼️』
爆発と共に生じたドス黒い煙幕があっという間に辺りの視界をゼロにする。
そして、スプリンクラーのごとく水滴を打ち上げ、辺り一帯をびしょ濡れにした。
ドサッ
・・何の音だ・・?
雨のおかげで、次第に暗闇の壁を形成していた煙がおとなしくなっていく。
窓のあった場所のそばに何か・・あれは⁉️
『縁ィッ‼️』
一目散に駆け寄り、うつ伏せの縁をそっとひっくり返した。
『縁ッ❗️大丈夫かっ⁉️』
縁は僕の呼びかけに薄っすらと目を開けたが、僕に気付くと安心したのか、再び目を閉じた。
一応生きてはいる、と思うが、医者じゃないから安心できない!
『本井さん❗️
縁が戻ってきたけど気を失ってる❗️』
(わかった!
2人ともすぐにこっちへ呼び戻すからっ❗️)
・・
・
『とりあえず、無事に帰って来れたようで良かった。僕は今から現状の報告をしにいかなきゃいけない。あとは頼んだよ。』
『・・わかったわ。』
サングラス男は保健室を出て行った。
縁は、音無先生が寝ているベッドの向こう側にあるベッドに寝かせている。
まだ目が覚める気配はない。
縁が戻ってきて安心はしたが、正直モヤモヤが頭に巻きついて離れない。
縁はあの後どうなったのか。
何があったのか。
任された仕事は達成できたのか。
縁に渡したカギ束は無くなっていた。
音無先生にもこれといった変化はない。
『本井さん、』
『わかってるわ、あなたの聞きたいこと。
今の状況がどうなっているか、でしょう?』
『僕達は、失敗したんですか?』
音無先生を助ける事が目的だった。
でも、僕達がやってきた結果がどうなったのか、音無先生を見ても僕には判断できない。
判断できる材料は、本井さんの表情だ。
もし成功していたなら、あんな沈んだ表情はしていないはずだ。
僕は本井さんの答えを静かに待った。
本井さんは、ややしばらく目を閉じ、音無先生の方を見つめながら口を開いた。
『まだ結果を語る時ではないわ。』
『えっ?』
『だって、まだ私達はやり遂げていないんだから。』
本井さんの表情が力強くなった。
『縁くんが私達の前から姿を消していた間、彼の身に何が起こったのか、私達は知らない。
まずは、彼に聞かないと。
でも、そう長くは待っていられない。
音無先生が意識を取り戻した時、それがタイムリミット。
それが答えを出す時よ。』
割と絶望寄りな立ち位置ではあるが、まだ諦める時では無い、という事か。
『・・こ・・こいとぃっ』
『縁❗️』
縁は起こせない体をこちらに捻って手を伸ばしてきた。
何かを渡そうとしている・・?
その時、縁の手から黒いカギのようなものがするりと抜け、音無先生の上に落ちた。
その瞬間、カギが虹色の粒となって音無先生の体の中にすうっと消えて行った・・
『縁っ❗️これは・・・』
体をこちらに向けて少し深呼吸した縁は少し辛そうにしながらも話し始めた。
『最初に・・日記の窓に使ったカギだ・・
さっき探しに行ったら、爆発したあたりに落ちていた・・』
『お前、さっきって・・』
『自分の記憶だ。好き勝手に入れるだろ・・』
そんな事ができるのか!?
本井さんの手引きがきっかけで、自分の記憶領域に入るコツでも掴んだのか!?
『音無姉さんの記憶は、彼女の中にある・・
後は・・・頼む』
本井さんが目を輝かせながら僕を見た。
『彼はやってくれたわ❗️最後のチャンスよ、来問くん❗️』
縁の手から落ちたカギは、虹色の光の粒となって音無先生の中に吸い込まれた。
縁にはそれが何を意味しているのか、わかっているんだな。
そしてその先を僕に託した。
やるしかない!
でも、ここから先どうすれば・・
本井さんが音無先生のベッドに駆け寄る。
頭の方に立ち、あの時サングラスの男がやったのと同じ仕草を始める・・!
『本井さん!記憶に入るには手続きが必要だって・・』
その手続きがないと入れないのでは・・
『そんな事言ってる暇ないわ!
後でいくらでも怒られてあげるから、来問くん!行ってきて❗️』




