【第十四話】『晴天霹靂』
俺は、日記の窓にカギを差し込み、暗闇の中から広がる光に飲み込まれた。
気づけば目を閉じていて、脱力状態でゆらゆらと空中に漂っている感じだった。
ここは、どこだ?
目を開けた瞬間、水の中に飛び込んだ感覚に包まれた。どんどん底に向かって落ちてゆく。
苦しくはない。
水の中にいる感覚なのに、何故だか呼吸できているようだ。
そして、水中なら多少の浮力を受けるものだが、地上から数千メートルの高さから落下しているかのごとく、ものすごい勢いでどんどん加速していく。
水中なのに、落下の勢いで息ができなくなっていく・・!
『・・ッッッ‼️』
このまま地面に激突するのか!?
そう思った瞬間、空のプールから弾き出された。
例えようがないが、とにかくそんな感触で地面に落下した。
ドサッ・・
『ぐぉ』
不思議なことに、1メートルほどの高さから落ちた程度の衝撃で済んだ。
ゆっくり立ち上がり、周りを見渡してみる。
目の前には果てまで続く緑豊かな草原が広がっている。
振り返ると新緑の木々が成長真っ只中という様相で立ち並んでいた。
空には一点の曇りもない、真夏のような日差しが大地を照らしている。
そんな中に、不自然な人工物があちこちに埋まり、そして横たわっている。
『これが・・扉?』
その多くは草やコケに浸食され、少しずつその姿を終わろうとしていた。
そのひとつに近寄り、草を払おうと触れた瞬間、ボロボロだった扉がたちまちのうちに新品のような艶と輝きを取り戻した。
縁は、半分地面に埋まっているその扉を力任せに引き抜いた。
『うりゃあッ‼️』
ザザァッ❗️
扉の全貌が姿を現すと、その裏側にのみ、ドアノブがついている事がわかる。
扉を側の木に立てかけ、腰に取り付けてあるカギ束に手を伸ばした。
するとさっきのように、ひとつのカギが光り出す。さっきよりも、もっとずっと強い光だ。
迷わず鍵穴にカギを差し込み、手首を捻るようにまわした。
ガチャリ
まだ引いてもいないのに、扉は自分から開き始め、その身の奥に閉じ込められたものを曝け出す。
そこには縁の幼い頃の生活が映し出されていた。
おそらく4歳前後だろう。
公園の砂場で山を作って遊んでいる。
砂だらけでベンチに駆け戻り、体の汚れを落としてもらっている。
そこには、寄り添って縁の面倒を見ている若き日の音無萌音の姿があった。
縁は目を見開いてその映像に食い入る。
『何だ、これは・・❗️
こんなの知らないぞ⁉️』
俺は、小さい頃に砂場で遊んだ記憶はないぞ?
それどころか、公園にも行ったことはない。
俺は幼い頃に名前のことでイジメられていたから・・
だから引きこもってずっと家にいた・・
・・はずだ
なのに、ここに映ってる俺は、偽物なんかじゃない。
何故?
理由はわからないが、これは俺の記憶から消えた真実なんだと。
俺の魂がそう言っているッ❗️
幼き自分を見つめる目が、それを真実と認めた。
『ぐああッ⁉️』
なんだ!?頭が割れるように痛い!
この映像を忘れろと、今ある記憶が本物だと、何かが俺の頭をかきむしってくるッ❗️
『ぐっ・・うぅぅ』
『誰だッ❗️
・・・こんな事をするのは・・ぁぁあああ‼️』
痛みの限界を超えた縁は、意識を闇に連れ去られた。
言葉もない。
文字もない。
感情もない。
ただ、それは訴え続ける。
扉の記憶を忘れろと。
それはつまり、今ある記憶が偽りである事の証
なんて理不尽な・・
・・こんな、人が嫌がる事を
相手の気持ちも聞かずに強制する
そんなものは・・
正真正銘の・・
『悪』だぁッ‼️
暗闇が割れ、縁は扉の前に舞い戻った。
頭の痛みを忘れる程に激昂した縁は、目の前にある扉の中の映像に手を伸ばす。
縁の中の直感が、そして見えない何かがそうしろと彼の背中を後押しした。
すると、映像の中の幼き自分もこちらに気づき、手を伸ばしてきた。
その手が触れた瞬間、扉は虹色の光の粒となって弾ける。
そしてその光の粒は縁の中に吸い込まれていき、半分は空に向かいながら虹色の矢となり、そのまま空高く飛んでいった。
自分が偽りの記憶に欺かれていたこと、そしておそらく音無萌音にも記憶による辛い事象が起きている事を察した縁は、烈火の如く赫怒した。
『ぐぬぬううぅぅッ❗️』
だが、どれほど怒ろうともどこに矛先を向ければ良いのかわからない。
俺がこのままここで暴れ散らかしたところで、結局何ひとつ解決はしないだろう。
ひとまずここはやるべき事をやらなければ。
落ち着くんだ。
怒りを沈め、いったん冷静になるため深呼吸したいが、中々深く息を吸い込めない。
『はぁッ、はぁッ❗️』
『ふぅぅうぅッ・・はぁぁぁあッ・・』
・・・
『ふぅぅ〜・・』
落ち着きを取り戻した縁は、ある事を考えていた。
ここはおそらく「真実の記憶」が幽閉されている場所ではないか。
自分達は、先程見た山のように積み上がっていた記憶を真実と思わされて暮らしてきたのか。
どれが本物でどれが偽物かは、今は見分けられないが、少なくともこの場所にあるものは「本物」だという確信が縁にはあった。
どんな理由で人の記憶を欺いているのかは知らないが、それで泣く人がいるなら俺は許せん❗️
危うくまた怒りに火がつくところだった、気をつけなければ。
今俺がここにいる理由はただひとつ。
本井先輩に協力して音無萌音を救うこと。
その為には何をするんだったか。
そうだ、扉を開くことが俺のミッションだった。
そうとわかれば、後はどんどん開けていくのみだ❗️
・・・
・・




