【第十三話】『暗雲低昂』
・・
『うぁあああ・・・あ?』
ガン!
『あだっ❗️』
ドカッ!
『いっ❗️』
ドン!ガン!ガン!ガン!ガン!
『いでででで❗️』
ドサッ。『ぐへっ』
スキー場さながらの急斜面に作られた段差バラバラの階段を転げ落ちた。
そんな感覚だ。
『いってぇ〜・・』
『おおっ❗️来問じゃないか❗️お前もここに来たのか❗️』
『ああ、お前にお届け物があってな。』
右手に握りしめたカギ束を縁に見せた。
『カギか❗️そういや確か来問がカギを手に入れる事が俺のミッションに関係あるんだったな❗️』
この異常な状況で、よく日常レベルのメンタル保っていられるな。尊敬するわ。
にしても、僕が体をあちこちぶつけながら転げ落ちたあの坂は何だったのかと、振り返ってみた。
『何だこれ⁉️』
『ハッハ❗️俺も驚いたが、どうやら記憶というものは、こんなにも豪快に積み上がるものなんだな❗️』
大小色々な形の窓がブロックの山のごとく積み上がっている!
音無先生の記憶は確かに少なかったけど、深層領域にはそれなりの数の扉があった、と思う。それと比べても数が段違いに多い。
『縁、お前の記憶どうなってんだ?』
『むむっ⁉️やはりこれは俺の記憶だったんだな❗️どうりで中身が知ってるものばかりだったわけだ❗️』
(・・2人とも聞こえる?)
『ハイッ❗️しっかり聞こえてますッ❗️』
おいおい、また本井さんの調子崩すなよ?
(来問くん、到着した?)
『はあ、何とか生きてる感じですよ〜』
思い切り打った腰をさすりながら答えた。
(ひとまず何とかなりそうね。それじゃ、縁くんにはこれから自分の記憶探しをしてもらうわ・・って、何この量❗️)
あ、この状況、本井さんも見えるんだ。
さすが「あっち側」の人だな。
『ですよね?縁の記憶の窓、多すぎないですか?』
(想像してたのと全然違う・・縁くん、そもそもあなたまだ16歳でしょ?それでこの量・・・普通、8歳くらいまでの記憶は約80%が深層領域に押し込まれるのに。)
『ハッハ❗️本井先輩❗️俺はもう17歳ですよ❗️』
相変わらずの脳筋め、今そこの問題じゃないんだよ!
本井さんも流石に聞き流した。
『縁くんは、記憶がいい人なの?今回に限っては頼もしい反面、仕事量が増えすぎて残りの反面で絶望してるんだけど・・』
『いや、俺はむしろ忘れがちな方だったんですよ❗️だから、何かあるごとに日記に書いてたんですッ❗️』
まさかの繊細ぶり!
『そして、日曜日には日記を読み返して楽しかった事を思い出してるんですよ、ハッハ❗️』
(ん〜どうしよう、この量じゃ時間内には見切れない・・)
(いや〜良かったね!縁くんが几帳面で!これは、ピンチの影にチャンスありだよ、さっちゃん♪)
確証は無いが、逆転できそうな期待感を引っさげて、サングラス男が介入した。
(この記憶の山がどうやってチャンスになるんですか!)
本井さんは、サングラス男の陽気な態度と発言とは裏腹に低いテンションで返した。
(縁くん、君は何かある度に日記を書いて、毎週のようにその内容を読み返していた、って事であっているかな?)
『ん⁉️さっき音無先生の側にいた黒服の人か?その通り❗️俺は、毎日のように日記を書いていたし、読み返して思い出を楽しんでいるッ❗️今も続けているしな❗️』
そういえば、縁はサングラス男とは初対面なんだよな。しかもほんの一瞬だけの出会いでよく覚えてたな、縁。
記憶力悪いって話が疑わしくなってくる。
(その日記はこの状況において唯一、逆転のトリガーになり得る希望そのもの)
(希望って・・そもそも日記なんて今ここには無いし、あったとしてその日記がどう関係してるっていうんです?)
(現実的な可能性があるチャンスなんですか!)
本井さんは焦り気味に質問を重ねる。
(その答えは、この山のように積み上がった大量の記憶の窓を見ればわかる。本来、記憶の窓はそこら一帯に不規則に散在しているものだ。)
たしかに、考えてみたらこの記憶の山から離れた場所に窓は見えない。
音無先生の記憶は、数こそ少なかったがバラバラに宙に浮いていた。
(それが、彼の日々の積み重ねにより、日記を基点として個々の記憶が結集されたんだ。)
結集?ひとつにまとまったって事か!
(日記を見ている彼の記憶、それが基点であり、ディクショナリー(辞書)となって他の記憶へのアドレスと結びついている。)
・・‼️
(つまり、「日記を見ている記憶の窓」から、行きたい記憶の場所へアクセスできる!)
(そんな事が・・・でも、その日記の窓を探すのにも時間がかかってしまう・・)
本井さんは、うつむき加減で言葉を発しているのではと思うほどに、声量が弱々しかった。
(そこは若い男子高校生2人の頑張りにかけるしかないね。)
そこは丸投げかよ!
一番大事な部分がノープラン⁉️
本井さんの態度にも納得だよ!
何かコツとか、アドバイス必要なトコ❗️
(・・・)
・・流石の僕も、ちょっとダメかもって思い始めた。
『日記を見ている記憶と言ったな。
その思い出が覗ける窓なら、さっき俺が見つけているッ‼️』
(えっ・・⁉️)
縁ィ〜‼️お前ってヤツはぁ〜❗️
まさかの頼りになる男、降臨。
(縁くん、ホント⁉️)
『さっき全力でこの山をクライミングした時、偶然ですが見つけましたッ❗️』
(縁くん、グッジョブだよ!頼りになるね❗️)
いつもの声量にもどった本井さんからのメッセージを受け、縁のテンションはMAXになった。
『縁夏実ッッ、全力解放だぁ〜ッ‼️』
『それで、具体的に俺は何をすればいいんですかッ⁉️』
・・それだ!
僕達はまだ指示をもらってなかった。
(まず来問くん、カギ束を縁くんに渡して!)
そうだ、僕はそれが目的だった!
(そして縁くん、あなたが見つけた「日記の窓」に向かって!そのあとは・・)
(・・・)
ん?
(その後は・・)
ん?本井さん?
(・・・)
おいおい・・
(どうすれば良いんですか?)
(その言葉を待っていたよ!やっぱり僕が必要みたいだね!)
構ってちゃんかよこのサングラス!
(さあ縁くん、「日記の窓」に触れて、頭の中で念じるんだ)
「音無萌音との思い出」と。
言うが早いか縁は足元にあったモノクロ調の古そうな窓をガッシリ掴み、力任せに持ち上げた。
瞬間、縁が持ち上げたその窓から無数の光が四方に向かって走り、さながらスイッチングハブから伸びるLANケーブルのごとく、山のあちこちにある窓へと繋がった。
(その光の先にあるのが縁くん、君と音無萌音の思い出だ!)
しかし、サングラスの男が放った言葉を否定するかのように
『窓が・・』
日記を映す窓に変化が起きた。
窓の中に映し出されていた思い出の映像は静止画のように止まり、暗転する。そしてその暗闇の中心に「鍵穴」があらわれた。
鍵穴!となるとここはカギの出番か!
でも、本井さんは「扉とカギ」って言ってたはず。これは扉じゃなくて窓じゃないのか?
窓にカギ・・
これで本当にあっているのか?
『縁ッ❗️』
『おう❗️俺に任せろ❗️』
僕は縁にカギ束を手渡した。
縁は持ち上げていた「日記の窓」を足元に置いた。そこから伸びている光の線はかなりの数だ。これを一個ずつカギ合わせしていくのは大変だぞ。
そんな心配をよそに、縁は足元に置いた、先ほどの「日記の窓」の前で立ち止まり、その暗闇を見下ろしていた。
縁はその扉の中心にあるカギ穴を見つめる。
と同時に、カギ束の中のひとつが淡く光り始めた。
それはカギが手元にある縁にしか気づけないほど弱々しい光だったが、本人はそれが答えであるのだと直感した。
そのカギを束から外し、暗闇の中に差し込んだ。
カギはそのまま、すうっと暗闇に飲み込まれていく。
次の瞬間、その扉は全てを塗りつぶすかのような黒い光を放ち、その光はカギもろとも縁を飲み込んでいく。
『縁っ❗️』
僕の呼び声に反応することなく縁は闇に飲まれて消えた。




