【第十ニ話】『騎虎之勢』
本井さんだ!
見慣れた景色が視界に駆け込んでくる。
同時に全身に疲労感がのしかかって、その場にストンと尻餅をついた。
何とか無事に保健室に戻って来れたな。
改めて周りを見ると、音無先生はベッドで横になっており、サングラス男は消えていた。
そして、ある程度予想はついていたが、縁は石のように動かない。
今は「止まってる時間」の中なんだろう。
お前には感謝してるよ。
縁を見ていた僕を察してか、
『予定通り、今から彼にも動いてもらうわ。この先はあなたより縁くんのほうが可能性は高いから。』
『動いてもらうって・・どうやって』
『彼のロックを「解除」するのよ。』
「ロック」とか「解除」って言葉、ちゃんとした構造とかルールは知らないけど、つまりは縁だけを「動ける側」にできるって事なんだろう、多分。
『縁は、大丈夫なんですか?動けるようになっても。僕や、本井さん・・みたいな境遇になるとか。』
『大丈夫。彼は「ロック状態にならずに記憶改変の干渉を受ける」事がないよう対応しているから。私が直接見て確認して行うから問題ないわ。
だから、安心して力を貸してもらいましょう!』
本井さんは縁の胸付近に向けて手を伸ばし、サングラス男のように何かを掴んで手首を捻るようにまわした。
瞬間、縁の全身が一瞬だけ白い光に包まれ、その光がおさまった時には何ごともないように縁は「活動」していた。
一瞬の「?」の後、縁は僕に向かって
『さあ、行ってこい❗️俺はお前の帰りを待ってるぞ❗️』
ああ、記憶と時間がずれたらこんな感じになるよね。
そして縁、お前が止まったタイミングもだいたいわかった、サンキュー。
『縁、俺はバッチリやってきたぜ!』
『何ィ❗️本当か⁉️こんな速いとは驚きだが、ナイスファイトだ、来問‼️』
あ、そこは脳筋だと順応できるんだな、流石だわ。
『心の準備はいい?次は縁くんの番だよ!』
『任せてください❗️準備はいつでもオッケーです❗️』
おい縁、テンションの出力が50%くらいに上がってるぞ。
でも、流石本井さん、今は集中していてどう全く動じていない。
『じゃあ、行ってらっしゃい❗️』
ガクン、と縁が揺れたかと思うと彼はまた「停止」状態になった。
『あれ?これ大丈夫ですか?』
『大丈夫よ、来問くん。彼は今、「自分の記憶領域」にダイブしたの。』
ん?・・ということは、さっき僕は音無先生の記憶領域に入っていたらしいから、僕もこんな感じで棒立ちしていたのか・・。
とか考えていたら
『あああっ❗️失敗した❗️大丈夫じゃなかったぁぁぁ‼️』
急に本井さんが縁ばりのボリュームで「やっちまった宣言」をカミングアウトした。
『えええっ❗️何を失敗したんですか⁉️』
安心させておいてからのピンチ到来。
『来問くんが持ち帰ってきた「カギ」を縁くんに持たせるの忘れちゃった❗️』
僕はしっかり戦利品のカギ束を握りしめている・・
『あ、確かに』
僕も気づくべきだったな、これは。
『えっ?これどうするんですか?
縁にいったん戻って来てもらうとか・・』
『そんな簡単な話じゃないの。記憶に関する介入は手続きが必要だから、そう簡単にホイホイ開閉できないのよぅ。
一度入った人が出て来たら、自動的に記憶領域は閉じられてしまうから縁くんは呼び戻せない・・』
『ならこうやって縁に持たせて・・』
絶賛停止中の縁の手にカギ束を握らせてみた。
『そういう問題じゃない❗️』
珍しく声を荒げる本井さんは、余裕がなさそうだ。
『時間も限られてるし、どうしよう・・』
本井さんが珍しく狼狽えている。
目が泳いで縁の周りをウロウロ周回し始めた。
『カギがないと、探しようがないし・・
カギ番号とかあればよかったのに・・』
なんかぶつぶつ言い始めている
僕も迂闊だった。必死にゲットしてきたカギが僕の手元にあっても全く意味がないだろうし。
でも、本井さんならカギだけ縁のところに送り込む事ができそうなんだが。
『本井さん、カギだけ縁のところに送り込む事は出来ないんですか?』
『それは出来ない・・。そのカギは、人の記憶を繋げるために存在しているの。だから人の手から離れたら消えてしまう。』
やっぱり、縁自身が持ち込むしか手段がなかったのか?
縁のところまで他の人が入って届ける、とか・・
そうだ!僕はさっき他人の、音無先生の記憶に入った。だったら縁の記憶にも入れるんじゃないか?
『本井さん!縁の中に僕も入ることはできないんですか?』
『それだッッ‼️』
ビシィ❗️と音がなってそうな指差しを振り返りながら僕に披露した本井さんは、すかさず僕を縁に投入するようなしぐさを見せた。
『あの、僕まだ説明受けてないんですが・・』
『向こうに着いたら2人合わせて説明するから❗️安心してッ❗️』
安心できねえよ!
本井さんは、慌て始めると縁寄りのキャラになることが判明した。
『それじゃ来問くんも行ってらっしゃいッ❗️』
さっき無事に帰還した時の「おかえり」が台無しだ。
その頃、外の出来事を知る由もない縁は、本井さんから何かしらの指示があるまで待てばいいと、マイペースに自分の記憶を片っ端から覗き回っていた。




