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嫁が優秀な子供ほしさに義理の祖父と托卵を企てやがった! 俺は嫁一族と縁を切り、托卵された子供を育てる決意を固める。  作者: panpan


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道種 熊次郎⑤

熊次郎視点です


「……」


 病院を出たワシはひどく重くなった足を引きずりながら少し前に引っ越した別荘へと帰宅した。

2週間前……家が放火され半焼するという事件が起きた。

生き残っていた防犯カメラの映像ですぐさま犯人は特定され、犬都という男が逮捕された。

その男はワシの苗床の元旦那で、大河と共にワシを貶めた輩の1人だ。


『俺と家族の人生を台無しにしておいて……謝罪も反省もせずに金だけ払ってのうのうと生きているあのクソじじいが許せなかったんだ!!!』


 動機についてはそんなことを言っていたが……ワシには謝罪することも反省することもない。

まあ所詮は放火などという汚らわしい犯罪に手を染めた狂人の言葉……理解する価値もない。

だがその狂人のせいで……ワシは家を失い、別荘に引っ越さなければならなくなった。

つまらん理由でワシの家を焼きおって……とっとと死刑になってしまえば良いわ!


-------------------------------------


「クソッ!! なんと惨めな……」


 日が沈み……寝室のベッドへと腰かけたワシは理不尽な現状を呪った。

理事長の地位を失い……種を失い……男を失い……残った子供すら欠陥品という最悪の結末を迎え、さらには家までも失ったワシは深い絶望に涙を流した。

もうこの先……ワシの優秀な血を受け継ぐ子が世に出ることはない。

道種家の血が絶えることはないものの……ワシ以外の男はどいつもこいつも女と交わることしか頭にない低能なサルばかり……血が衰えることはもはや火を見るよりも明らかだ。

そしていずれは……日本は自分が絶対に正しいと勘違いして常識もわきまえない無能な下衆共が荒らしまわることになるだろう。


「どうすれば……どうすれば良いのだ?」


 思わず口から漏れ出た心の声に……応えてくれる者など誰もいない。

ワシのそばには……誰もおらん。

わずかに残っていた使用人達も……放火事件をきっかけにワシから離れた。

金を積んで引き留めようとしたが……。


『これ以上巻き込まれたくない』


 そう言ってみなワシに背中を向けて行ってしまった。

新たに人を雇いたくとも……人脈を失ったワシにはそれすらも叶わん。


「どいつもこいつも……血も涙もないクズばかりだ!!」


-------------------------------------


 翌朝……。


 ドンドン!!


 リビングで宅配サービスを使って届けられたみすぼらしい朝食を口に運んでいた最中……入口のドアを叩く音が部屋中に響き渡った。

ノック音にしては……かなり乱暴に聞こえる。


「誰だ……こんな朝っぱらから……」


 人と会う予定などはない……。

急な訪問とうるさいノック音にイラつきながらドアを開くと……そこにはワシがこれまで種を与えてやってきた苗床達が鬼のような形相で立っていた。


「おっお前達!? どうしてここに……」


 こいつらにはこの場所は教えていないはず……。


「あんたの居場所なんてSNS使って調べたらすぐにわかるわよ!!

特定班が面白がって調べてくれているからね」


 無礼な物言いでワシに言葉を返してきたのは千鶴の姪に当たる若い苗床だった。


「あっあんただと!? 一体誰に向かって……」


「うるさいっ!! それよりどうしてくれんの?

ここにいるみんな全員……あんたのせいで”性病”にかかったじゃない!!」


「せっ性病だと!?」


 性病という言葉に……ワシは背筋がゾクリとした。

その単語には……実は身に覚えがある


※※※


 あれは理事長の座を追いやられたばかりの頃……ワシの体は不調を起こしていた。

体にいくつかの赤い斑点ができたり……たまに下腹部から鋭い痛みが走ったりと……放置できん症状が体を巣くっている。

奇妙になったワシが病院で検査を受けた所……ワシは性病だと診断された。

医者によるとかなりやっかいな病らしく……治療法はあるもののそれなりの根気と時間を要すると言う。


『それと……これ以上病を広めないように、女性との性行為は控えるようにお願いします』


 その上……医者は病気が完治するまで妊活を控えるようにと馬鹿げた釘を刺してきおった。

むろん、ワシは医者のそんなくだらん注意喚起など無視した。

優秀な子供を作るという義務があったワシに子作りをするななど……日本よ滅びろと言っているようなものだ……。

そもそもたかが性病……治療さえしっかりしていていれば良いのだ。

そう楽観視したワシは性病のことを苗床達に伏せたまま子作りに励み、こっそりと通院を続けた。

おかげで体の不調自体はここ最近すっかりと収まった……が。


※※※


「そうよ! ここにいる全員、性病にかかって体中がボロボロなの!!」


 まさかワシの体に巣くっていた性病が苗床達にうつったというのか?

そんな馬鹿な……20人あまりいるんだぞ?

それだけの苗床全員に性病がうつったなんて……そんなオカルトじみた話がある訳……。


「ふっふざけるなっ! ワシが病気をうつしたと言う証拠でもあるのか!?」


「あんたとヤった女全員が感染してんのよ!? あんた以外誰がいるって言う訳!?

それに……あんたが病院で性病の治療を受けていたって話まで聞いたんだけど?」


「自分が性病であることを知った上で、私達との妊活を続けていたってこと?

マジでありえないんだけど……」


「しっ知らん! ワシは知らん!!」


 ワシは知らぬ存ぜぬで自分の非を認めなかった。

何もかも失って絶望の底に沈んだ今、さらに恥の上塗りなど……そんなこと耐えられるわけがない。


「ふざけるな爺!! 治療費と慰謝料払え!!」


 だが苗床達は完全にワシがうつしたと確信しきっており……金を要求してきた。

性病をわずらった苗床達のほとんどが重症化していき……今後一生、病院通いをやめることができなくなるらしい。

中には千鶴のように子供が生めなくなった苗床もいたとか……。

だがそんなことはどうでもいい!!

ワシは……ワシはもう……これ以上傷つきたくない!!

それに……さすがのワシもこれだけの苗床に慰謝料だの治療費だのを払い続けてしまえば……ワシの蓄えはあっという間に尽きてしまう。


「帰れっ! 帰れぇぇぇ!!」


 ワシは勢いよくドアを閉め、強制的に苗床達との会話を終了した。

当然、苗床達は帰るはずもなく……。


『おいコラッ! 出てこいこの卑怯者!!』


『責任取れ!! ヤるだけやって逃げるな!!』


 力任せにドアを叩きながら糾弾してくる。

女とはいえ、あれだけの人数がいれば薄いドアを破るのもそう難しくないだろう。


「クソッ!!」


 当然ワシはそんなものは無視し……貴重品だけを持って窓から逃走した。


-------------------------------------


「……」


 それから2時間……行き先も考えずに全力で走り、どうにか町に出ることができた。

だが苗床達が警察や弁護士にこのことを話してしまったら……保釈金を支払う余裕もないワシは今度こそ刑務所に送られる。

ワシを治療していた病院に警察が問い合わせれば……証拠はいくらでも出てくるだろう。


「もう今度こそ……おしまいだ」


 ワシの耳に人生の歯車が崩壊する音が聞こえた……はっきりと。

ワシにはすでに何も残っていない。

そしてこのまま生き続けていても……いずれ警察に捕まって前科者となる。

いや……きっと刑務所の中で天寿を全うすることになるだろう。

それだけは嫌だ……。

この道種熊次郎が……日本の救世主になるはずだった男が……そんな無様な最期を遂げてたまるか!!


「せめて……せめてこの命……華々しく散らせたい」


 誇り高い最期を遂げるべく……ワシはそれにふさわしい場所へと赴くことにした。

心なしか……鉛のように重くなっていた足が軽くなったような気がした。


-------------------------------------


「……」


 誇り高き死を決意してから数時間後……ワシはかつて理事長を務めていた道種学園に足を踏み入れていた。

理事長の座を追いやられて以来……学園を訪れたのは久方ぶりだ。

ここは教育者として日本に尽くしてきたワシの愛国心と正義が詰まったワシの城……ワシの最期を飾るのにふさわしい場所だ。

無論、すでに部外者であるワシは堂々と正門から入ることはできん。

だが、長年理事長を務めてきたワシだ……学園の抜け穴くらいは把握している。


「んっ! いっ!」


 ワシは売人に金を握らせて購入したタンクの中身……ガソリンをぶちまけながら学園内の廊下を全力で走った。

自分でも驚くほどの速さだ……極限まで追い詰められた人間は信じられない力を発揮すると聞いたことがあるが、真だったようだ。

ガソリンの購入など本来はできんが……金が全てのこの時代……多めに金をバラまけばある程度の融通は利く。

授業中ということもあり……廊下ですれ違う人間はいない。

この学園のセキュリティに安心しきっている面もあるやもしれんがな……。

そしてガソリンを撒く理由……もちろん、この学園を焼き払うためだ。

この学園はワシが育て上げた我が城……ワシと共に朽ち果てるのが当然だ。


-------------------------------------


『では佐野、この公式を解いてみろ』


『ほら田中君、もっと腕を振って走って!!』


 廊下を走る最中……耳に入ってくる教師達と生徒達の声……。 

あの騒動からそれなりに時間が経ったからか……人の出入りや活気こそ減ったが、学園は以前とあまり変わらぬ平穏を取り戻しつつあった。

理事長もすでに新しい人材が居座り……ある程度機能を取り戻しつつあるようだ。

ワシの絵画や初代理事長であったワシの父の胸像といった、道種家に関わる物は全て取り払われていた。

そして偶然、耳にした話だが……近々学園の名前も変わるらしい。


「ふざけるな……ここはワシの学園だ。

優秀な生徒達……生徒の手本となるべき教師達……最高の教育環境……全てワシが整えてやったものだ!

ワシがいたからこそ……この学園は誰もが認める学園へと名を轟かせることができたのだ!!

このワシを失ったまま学園が続くなど……道種家を忘れた学園など……許されん!!」


 ワシは……怒りで身震いした。


-------------------------------------


 ガソリンを撒き終えたワシは空になったタンクを捨て、学園の屋上へと出た。

全身から汗が噴き出し……息も荒く、膝がガクガクと笑っている。

体も鉛のように重いが……まだ倒れるには早い。


「ククク……」


 カチッ!


 ワシはポケットから取り出した安物のライターと取り出し、火を付けた。

これをガソリンでできた花道に投げ入れれば……全てが終わる。


「……」


 走馬灯というやつか……ふとこれまでのことが頭を過ぎった……。

思い返せば……ワシは道種家当主として……1人の教育者として……日本の救世主として……本当によくやってきた。

日本の未来に関心すら抱かない愚か者共ばかりの中……ワシと言う最高の人材がこの世に降り立った。

ワシは自らに課された使命を全うするため……どんなに困難な努力も惜しまなかった。

いつかワシの功績が日本の歴史に名が残ると信じて……ワシの血を受け継いだ優秀な子供達が日本を救うと信じて……。

だが……その結果がこれだ。

ワシはこれまで何1つ間違ったことはしていない……断じてだ!

だが1つ……ワシは過ちを犯していたことに気付いた。

それは……。


 ”この日本に忠義を誓ったこと”だ。


 この日本は腐っている……腐りきっている。

日本人はどいつもこいつも……良識の欠片も持ち合わせない無能な輩ばかり……。

それ自体は最初から理解していたが……それでもワシの”義”に同調してくれるまともな人間もいると思っていた。

だが現実は同調するどころか……誰もかれもがワシを狂人だと罵り、法でさえワシを否定した。

その上、これまで尽くしてきた苗床達までもが……ワシへの恩を忘れて暴徒と化した。


「そうだ……この国は狂っている」


 ようやくわかった……この国はもう救いようがない。

この国にはワシ以外……まともな思考や良識を持っている人間はいないのだ。

そうでなければ……ワシがこんな目に合う訳がない。

この国はとうの昔に終わっているのだ……。

そうとも知らず……こんな腐った日本のために人生を賭けていたとは……ワシはなんて愚かなのだ。


「いや違う……ワシは正しい」


 そうだ……愚かなのはこの国で……間違っているのもこの国だ。

ワシはただ……生まれてくる場所を誤ってしまっただけだ。

ワシに非はない……ワシは日本に人生を狂わされた被害者だ。

被害者には加害者に罰を与える権利がある。


「ワシと共に……この学園にいる生徒達を道連れにしてやる!」


 この学園に入学できるほどの優秀な人材……失えば日本もそれなりに打撃を受けることになるだろう。

これは放火などと言う卑劣な犯罪ではない……ワシを裏切ったこの日本への制裁だ。


「こんな国……滅びてしまえぇぇぇ!!」


 ボッ!


 日本への呪言を空に向かって叫び……ワシはライターを持つ手から力を抜いた。

ライターがワシの手を離れて地面に堕ちた瞬間……一気に周囲は火の海と化した。

なんとも美しい……炎とはこんなにも美しいものだったのか。

これがワシの見る最期の光景か……悪くないわ。


「ハハハハハ!! アハハハハハ!!」


 日本よ……後悔しろ!!

ワシと言う今後2度と生まれることのない最高の人材をお前は手放したのだ!

そして神よ……。

あなたに慈悲と言うものがあれば……今度こそワシを救世主と称える国へと生み落とすのだ!!


-------------------------------------


 その日……日本中にとあるニュースが流れた。


『本日……〇〇県××市にある道種学園で放火とみられる火災が発生しました。

消防によりますと……学校は全体の3割ほど燃えたものの、2時間に及ぶ消火活動で鎮火しました。

学校内にいた教師や生徒達は全員校庭に避難し、けが人はいないようです。

また、学校の屋上で放火犯と思われる男性の焼死体が発見され、警察は事件の詳細について捜査を進めています』


次話は千鶴視点です。

本当はあれで終わるつもりでしたが、結末が悲惨過ぎた気がしたので急遽予定変更して少し話を加えることにしました。 急な路線変更なのでいつもより無理が祟るかもしれません。

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