道種 熊次郎④
熊次郎視点です。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
千鶴に種を注ぐこと2時間とそこそこ……。
全てを出し尽くしたワシは心地よい疲労感と下半身から満ちる達成感に包まれていた。
いつの間にか日も傾き……病室にぼんやりとした闇が生まれていた。
結局千鶴は股を開く以上の協力はせず、物言わん人形を抱いているようで”熱”を高めるのに苦労したわい。
全く……癌になったくらいで苗床としての義務を放棄するとは情けない。
道種家の人間としての自覚が足りん。
「これ、千鶴……呆けていないでさっさときれいにせんか」
せめて最低限の後始末くらいはしてもらわなくては困る。
ワシは千鶴の頭を軽くはたき……ベッド脇の棚に仕舞われていたタオルで体中にこびりついている汗や体液をふき取らせた。
すでに種は尽きているが……汗と熱にまみれた若い女の体と言うものは目で見るだけでも実に尊い。
しかも今……柔らかい女の手で体中を隅から隅まで拭わせている。
何度味わってもこの尽くされているような感覚はたまらん。
「ククク……」
ワシはたまらず千鶴の体を舐めるように撫でまわした。
この程よく育った乳に安産型の尻……何度味わってもたまらんな。
それになんだか今日は妙に興奮が収まらん。
病室という聖域で子作りという禁忌を犯したことで……背徳感という奴が刺激されたのか?
味わいつくした千鶴の体であるというのに……性を覚えたばかりの小童のように夢中になって子作りを続けられたのもそのおかげか?
まあ何にしても……実に良い。
ある程度体が回復したら……またここで千鶴の体を貪ろうか?
どうせワシ以外に尋ねて来る人間などおらんだろうし……看護婦が来れば千鶴に追い返させれば良い。
おぉ……そうだ!
今度は窓から千鶴の上半身を突き出して種を注いでやろう。
さらなる背徳感でより濃厚な快楽が期待できるやもしれん。
ククク……今から楽しみだ。
※※※
「おじいちゃん……」
後処理を終えて寝そべっていた千鶴が物欲しそうな声音でワシを呼ぶ。
「なんだ? まだ足りんか?
ごうつくばりめ……ちと休ませろ」
全く……若い人間は回復するのが早いのは良いが、その分発情するのも早い傾向がある。
そもそもこれは日本と道種家を救う崇高な儀式であって……性欲を満たすだけの下劣な行為ではないのだぞ?
それをはき違えおって……助平な娘だ。
などと千鶴を内心哀れんでいたその時……。
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
何が起きたのかさっぱりわからなかった……。
下半身から伝わる今まで感じたことのない……激痛などという言葉では言い表せない何かを感じた。
”気持ち悪い”
強いて挙げてもそんなあいまいな表現しか出てこない。
体に異常が起きたことはわかるが……一体何がどうなったのか全くわからない。
「あがぁ……」
視界がグラついたと思ったら……一気に暗くなり、ワシは意識を失った。
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「ぬぅぅぅ……」
意識が戻ったワシの体は病室のベッドで寝かされていた。
腕には点滴から垂れる薬品を体の中へと入れる注射針が刺さっている。
千鶴に種を注いでいたベッドとは向きが違うようで……さっきとは違う病室のようだ。
「うぐっ!」
どういう訳か……体が鉛のように重くなって上手く動かせん。
これではベッドから起き上がることも難しいではないか!
いや、そんなことより……なんなのだ?
下半身についているワシのモノに伝わる鈍い痛みは……。
そもそもワシはどうなったのだ?
一体なぜ……こんなところで寝かされている?
ポチッ!
頭の中に浮かぶ大きな謎を払拭させたい思いで、ワシは手元にあるナースコールのボタンを押した。
たったそれだけのことだと言うのに……思った以上の体力を使ってしまった。
※※※
「気が付かれましたか……」
しばらくすると……看護婦を連れた50代ほどの男性医師が病室に入って来た。
「ワシは……どうしたんだ?
なぜこんなところで寝かされているんだ?」
「道種さん……落ち着いて聞いてください。
あなたはお孫さんの道種千鶴さんにボールペンで精巣を刺されてしまったんです」
「なっ何!?」
「すぐに手術を施したので……命に別状はありません。
ただ残念ですが……あなたの精巣は機能を失っていました」
「どっどういうことだ?」
言葉の意味が理解できなかった訳ではない。
ただ……脳が理解するのを拒否したのだ。
あまりに……あまりに非現実的な言葉ゆえに……。
「つまり……あなたはもう子供を作ることができないということです。
いえ……今後の経過によっては普通の生活そのものができない可能性もあります」
「なん……だと……」
子供が作れない?
この医者は何を言っている?
そんな馬鹿なことがある訳がないだろう?
ワシはこの日本を救う救世主だぞ?
「ふっふざけたことを言うな!!」
「受け入れがたいと思いますが……事実です」
「だ……だったら治せ、今すぐ!!」
「それはできません」
「かっ金ならいくらでも……」
「お金の問題ではありません。
どんな治療を行ったとしても……あなたの生殖機能が回復することはありません」
ワシは体中の血の気が引いた……。
そして心にジワジワと膨れ上がる”不能”と言うなの恐怖。
救世主として……1人の男として……それは死よりも恐ろしい事実だ!
100歩譲って事実だとしても……そんな事実は到底受け入れることはできん。
「ならば世界中の名医を片っ端から当たれ!!
ワシを治せる医者が1人くらいいるはずだ!」
「はっきり言いますが……仮に100人の名医を当たったとして、全員が私と同じ結論を述べるでしょう。
あなたの体は今、そういう状態なんです」
「もういい!!」
ワシはケガ経過を見るためにしばらく入院することになった。
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「ええい……ヤブ医者なんぞ相手にしておれん!!」
ワシはある程度動けるくらいに体が回復してからこれまでのコネを使って世界中を名医を当たろうと思った。
ところが医者を探すどころか……誰1人としてワシに協力してくれる人間はいなかった。
『あなたとは関わりたくない』
どいつもこいつも……口を揃えてワシを突き放した。
これもあのネットでの炎上とやらが原因だろうが……これまでワシが良くしてやった恩を忘れおって!!
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ケガのことばかりですっかり頭から抜けていたが、ワシをこんな目に合わせた千鶴についてはすでに身柄を警察が預かっていた。
ボールペンについていた千鶴の指紋……第一発見者である看護婦の証言……
立証するには十分な証拠がワシの知らぬ間に揃っていた。
無論ワシは千鶴を訴えることにした……当然だ。
あの女はワシの種を奪い……日本の未来と道種家の安寧をその手でつぶしたのだ!!
これは傷害罪などではない……国家反逆罪だ!!
もはやあの女はワシの孫でも苗床でもない……ただの忌むべき反逆者だ!!
「死刑だ! あの女に死刑をぉぉぉ!!」
後日開かれた裁判にて……ワシは千鶴に死刑を求刑した。
これはワシだけでなく……日本国民全員の総意だ!!
”ワシの言葉と態度が癪に触って刺した”……
そんなくだらん理由でこのワシの種を奪いおって……あいつには”理性”というものがないのか?
※※※
『判決を述べます』
裁判の流れはワシの方へと傾いていた……千鶴の有罪も確実だと弁護士から聞かされた。
だがそれは聞くまでもない……ワシが期待しているのは千鶴への罰だ。
散々ワシの期待を裏切って来た法であっても……さすがに今回ばかりはワシの意を汲んでくれるはずだ!
そう期待するも……法はまたしてもワシを裏切った。
『主文……道種千鶴を傷害の罪で有罪とする』
有罪判決が下ったのは良かったが……いやそんなものは当然だ。
だが千鶴への罰というのが……懲役3年というあまりにも軽いものだった。
しかも……執行猶予まで付くというもはや罰として成立しないレベルのものだった。
「なっなぜだ!? なぜそんな刑罰が軽いのだぁ!?」
ワシの問いに……裁判官は淡々と答えた。
最も大きな理由として挙げられたのが……千鶴の精神状態だ。
「被告は癌宣告を受けた直後、あなたに性行為を強制されたと証言していました」
「だからそれは強制ではなく……合意で……」
「強制であろうと合意であろうと……癌と診断された人間と行為に及ぶなど……非人道としか言いようがありません。
そもそも身内の人間が癌だと診断されたら……普通は心配するでしょう?
ですがあなたは心配するどころか病室で性行為に及ぶと言う奇行に走りました。
被告人からすれば……これ以上の裏切りはないでしょう。
だからと言って人を刺して良い訳ではありませんが……此度はあなたにもいくらか原因があると思いますが?」
「なっなんだと!?」
種を奪われ……人生の意味すら失って絶望しているワシに……原因があるだと?
ふざけたことを言いおって……法はどこまで腐っているんだ?
どこまでワシの期待を裏切るんだ?
そんなことだから……日本の政治は無能だと若い国民が笑うのだ!!
その上……。
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「なっなんだこれは!?」
裁判が終わってから間もなく……ワシが入院している病院側から雇われたという弁護士が病室を訪ねてきた。
そして問答無用でワシに突き出してきたのは……損害賠償請求だった。
ワシが子作りの際に汚したベッドのシーツや枕等の弁償だけでなく……病室で性行為に及んだことで病院側に多大なる損害を与えたとして……目を疑う額がそこに並んでいた。
「ふっふざけるな!! なぜワシがこんな金を払わねばならんのだ!!」
「請求を受け入れてくださらないのなら……裁判に発展することになりますよ?
どうしてもというのであれば止めませんが……はっきり言って時間とお金の無駄です」
「うぐぐぐぅぅぅ……」
結局ワシは請求に応じることにした。
もはや法や裁判など信用できんからだ。
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『ねぇあのおじいさんでしょう? 病室で身内に手を出したってやつ……』
『そうそう……身内に手を出すだけでも気持ち悪いのに……病室でヤルとかサルかっての』
『ちょっとそんな言い方をしたら失礼よ? サルに』
病院内を歩けばワシを見た看護婦共がひそひそとワシを非難してくる。
耐えきれずに病院を移ったが……そこでもひそひそと言われる。
黙れと罵ってやろうと思っても……目が合った瞬間にそそくさと逃げていく。
どうしてだ……ワシは被害者だぞ!?
そのワシがなぜ……責められなければならん!!
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裁判から2ヶ月後……種を失って意気消沈するワシに、さらなる恐怖が舞い込んできた。
「なっなんだと!?」
「ですから……生殖機能を失った後遺症で、あなたは不能の体になったんです」
「そっそれはつまり……ワシのモノが立たんということか?」
「ありていに言えばそうです」
「ばっバカを言うな!! 種を失ったばかりか男としての機能そのものまで失うなんて……そんな残酷な話があってたまるか!!」
「信じられないと言う気持ちはわかります……。
ですが……事実です」
「なっ治らんのか!?」
「はい……これも生殖機能同様、治療法はありません。
幸いにも……排尿の機能だけはなんとか無事でしたので、退院して日常生活に戻ったとしても、不自由はないと思います」
「なっ何が不自由はないだ!!」
ワシは生きた心地がしなかった……
種も出せん……性も発散できん……男にとってこれ以上の生き地獄はあるまい。
女を抱いてこそ……女を孕ませてこその男だろう?
そのどちらもできなくなったワシは……一体なんなのだ?
尿を出すだけのモノに……一体なんの価値があると言うのだ?
老い先短いとはいえ……こんな死ぬよりつらい生き地獄をこれから味合わなければならんのか?
「ちっ千鶴ぅ……」
ワシは今まで感じたことのない感情に支配された。
そう……いわゆる殺意という奴だ。
このワシから男としての価値を奪い去ったあの悪魔……見つけ出してなぶり殺しにしてやらなければ気が済まん!!
退院したら……真っ先に千鶴を探してワシが正当な裁きを下してやる!!
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そして迎えた退院の日……。
千鶴への復讐心で支配されたワシの耳に、ワシの種で孕んだ苗床2人がそれぞれ子供を出産したという朗報が届いた。
偶然にもワシが入院していた病院にいるらしいので、ワシは我が子の顔を見に行くことにした。
これから日本の未来を正し……ワシの汚名を返上してくれる貴重な子だ。
この目にしっかりと焼き付けておかねばな……。
「こちらです……」
苗床達の出産をサポートしたという助産師にワシの子達がいるNICUに案内された。
「さあ我が子達よ……ワシに可愛い顔を見せ……!!」
保育器の中で眠る我が子の顔を見た瞬間……血の気が引いた。
なぜなら……その子達の容姿が異様だったからだ。
異常なほど出っ張った顎……歪んだ鼻……あり得ない方向に曲がった腕……欠けた指……。
なっなんておぞましい……これではまるで……妖怪ではないか!!
「おっおい! これがワシの子だと言うのか!?」
「はい……その2人は紛れもなくあなたの血を引いた子供です」
ワシの問いかけに対し……助産師は驚くほど冷淡な声音で肯定した。
「こっこんな醜い妖怪がワシの子だと?
バカも休み休み言え!!」
「事実です……。
それと……その子達には知的障害もあります。
これから先……色々なサポートが必要になってくるでしょう」
なっなんてことだ……。
容姿が醜い上に……知的障害だと?
そんなもの……ただの欠陥品ではないか!
「なっなぜこんなことに……貴様、何かミスでも犯したのではないのか!!」
「いいえ……ミスなどしていません。
そもそもこの状況は……あなた自身が理解していたのではないのですか?」
「なっ何を言っている……」
「道種さん……ニュースであなたの”事情”のことは拝見しました。
わざわざ言うほどのことでもありませんが……近親者同士が子供を作れば……高確率でなんらかの障害を持つことになります。
あの子達のように……」
「ばっ馬鹿な……今までワシの子供達に障がい者など……」
「それは……神が与えた奇跡としか良いようがありません。
今までがどうたったかは知りませんが……これが当然の結果です」
「ちっ違う!! これは何かの間違いだ!!」
よく考えたら……子は天から授かりしもの……。
偶然、障がいを持った”異物”が紛れ込んでいただけに過ぎん。
全く……まともに子供すら生めん無能共めが!!
「偶然だ……偶然に決まっとる!!」
この時はまだ……そう自分に言い聞かせる余裕があった。
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ところがその数日後……また別の苗床達が同じ病院で子供を生んだ。
今度こそワシの期待を背負ってくれる優秀な子をと……そう思っていた。
「ばっ馬鹿な……」
ところが生まれたきた我が子達は……またもや妖怪だった。
しかも前回同様……知的障害まであるという。
その上皮肉にも……その中に今まで待ちに待ってた待望の男児がいた。
だが……いくら待望の男児とはいえ、まともな思考回路も身体も持ち合わせていないガラクタでは……なんの意味もない。
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それから間もなく……残りの苗床達が急に体調を崩し……腹にいた我が子は流産してしまった。
種を出せなくなってしまった以上……この醜い出来損ないの妖怪共が……ワシの最後の子供であると言うことにある。
「あり得ん……あり得ん……」
この道種熊次郎の子供が……ワシの汚名を晴らしてくれるはずだった最後の希望が……こんな駄作に終わるなんて……。
もしも今までがあの助産師の言った通り……神のなせる奇跡であったのだとしたら……神はなぜ、ワシに奇跡を与えてくださらないのだ?
誰よりも日本のことを考え……道種家の栄光を守るために頑張ってきたこのワシに……なぜ神は助けてくださらぬ?
「……」
絶望に打ちひしがれ、病院のソファで愕然とするワシの前を……あの助産師が偶然通りかかり、足を止めた。
顔を上げると……助産師はひどく冷たい目でワシを見下していた。
「あなたが絶望しないでください……。
誰よりも深く絶望しているのは……ほかでもないあの子達なんですよ?
あなたが……あなた方がもっと子供の将来や人生を考えてくれていれば……こんなことにならずに済んだんです!!」
「うっうるさい!! 部外者の分際で知ったような口を……」
「あなたこそ……”教育者”だったくせに、子供のことを何1つ理解していなかったんですね。
ニュースで散々、自分は救世主だのなんだの言ってたみたいですが……少なくとも私からすれば、あなたはただのケダモノです」
「きっ貴様ぁ……」
「すみません……できすぎたことを言いましたね。
それでは仕事があるので失礼しますね……救世主様」
そう言うと……助産師はせっせとワシの前から姿を消した。
何も知らん……たかだか助産師の分際で……舐めたことを……。
「……」
だが……今のワシには怒る気力すら湧いてこない。
これでワシの血を引く男児を苗床共に生ませるというワシの輝かしい目標が完全に失われた。
「これから一体……どうすれば良いのだ?」
だがこの時……ワシは想像すらしていなかった。
ワシの”地獄”はまだ……幕を下ろしていないということを……。
次話も熊次郎視点です。
なんだか書いてておぞましくなってきたのでところどころ結構端折ってます。
(端折るのはいつもやっていることですが……)
次で熊次郎視点を終わらせたいと思います。




