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魔法のない普通科で。    作者: ワイ
オルゴールの音と桃
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稀代の魔術師

ー禁書庫ー

「まだ…まだです……!!みなのためなら私は…!!」

視界が赤く染まり、脳を直接灼かれるような激痛に、トパーズの膝がガクガクと震え出す。

昨日と同様月夜の中限界まで本の探索をする。

(……あともう少し……何処かに……決定的な証拠が……っ!)

もう月も見えなくなりそうな刻限。意識が途切れそうになったその瞬間、棚のいちばん奥、闇に埋もれていた革綴じの手帳に分身の手が触れた。

「――っく……!」

分身が一斉に弾けて消え去ると同時に、トパーズは猛烈な眩暈に襲われ、その場に激しく崩れ落ちた。

「トパーズ!!」

素早く駆け寄った蒼が、倒れ込む彼女の身体をしっかりと抱きとめる。

荒い息を吐きながら、トパーズは青ざめた手でしっかりと握りしめていた一冊の手帳を、蒼の胸元へと押し付けた。

「……これ……っ、確認……して…………」

それだけを搾り出すように呟くと、トパーズは疲れ果てて蒼の腕の中でぐったりと脱力した。

「……分かった。僕に任せて、少し休んでいてくれ」

蒼はトパーズをそっと壁際に座らせると、預かった手帳を開く。

表紙にはタイトルすらない。だが、そこに乱雑に書き殴られていたのは、あまりにも身勝手で悍ましい「実験手記」だった。


『ある稀代の魔術師の日記』

『〇月〇日

戦争は我々の勝利に終わった。産業革命派の連中も例の拷問の末すっかり大人しくなった、これからは魔法の時代だ』

『〇月〇日

産業派のものを全て破壊するのはもったいない、仮にも列車や縫製機など便利なものはある背に腹は変えられない

研究機関に打診したところ、魔法のない魔力を奪った人間だけの世界(産業世界)を作って観察することにしよう』

『〇月〇日

問題発生。人間をそのまま放り込むとつまらないし、リソースの無駄だ。

そこで、全人類の「魂」を半分に叩き割って配置することにした。片方はこの魔法世界で生かし、もう片方は魔力ゼロの世界に入れる。

ああ、実に楽しみだ。これは人類史上に残る、最高に贅沢な観察日記になるだろう。』


文字を追うにつれ、蒼の手が静かに震え出す。

そして、ページに走る歪んだ筆跡を見た瞬間、蒼の脳裏に電流が走った。

(――っ……この特徴的な癖のある字は……!)

蒼は急いで記憶を頼りに、ジノとここで遭遇する直前に調べた別の資料――『魔法革命開戦時』を引き合いに出す。

手帳の端に走り書きされた文字と、あのおぞましい記録の筆跡が、完全に一致した。

「まさか……こいつの字は……!」

ページを猛烈な勢いでめくり、過去に見た記録と照らし合わせる。

間違いない。すべて同一人物の筆跡だった。

「自分の魔法に絶対の自信と誇りを持っていた、あの稀代の魔術師……!」

静まり返った禁書庫の中で、蒼の眼鏡の奥の瞳から光が完全に消え去る、凍てつくような冷酷な怒りと、底知れぬ殺意だった。

「……よりによって、その圧倒的な才能を……人間をただいたぶり、痛めつけることにしか使っていなかったというのか……ッ!」


『〇月〇日

追記。どうやら二つに割った魂は、共鳴して呼び合う事があるらしい、魂の入れ替わり現象を確認した。産業革命期の遺産を使うと入れ替わりすることを確認した』


『〇月〇日

異常事態だ。入れ替わりをした人間が魔法革命世界に誰も戻ってきていない。

……これは不都合だ。私の興味本位で全人類の魂を引き裂き、弄んだなどと民衆にバレてみろ、大規模な暴動で支配体制が崩壊する。


「かといって、危険の真の理由を民衆に説明することなど到底できるはずもない……??まさかコイツ逃げる気か…?」


産業革命期の遺産をすべて「邪悪な禁忌」として徹底的に破壊・隠蔽する命令を出した。この観察魔道具も破壊する。歴史ごと抹消し、二度と産業革命と関わることを禁ずる。』  


『〇月〇日

国民に廃棄令を出しても一度手に入れた便利さを知った人間は誰も手放したがらなかった。私の計画はめちゃくちゃだ


「残りはインペリアル氏に押し付けよう……?っく!ふざけるな!自分たちの身勝手な悪行がバレて首が飛ぶのを恐れ、理由も言わずに隠蔽……?挙げ句の果てに、自分の尻拭いを『インペリアル一族』に押し付けて逃げたのか……!そのせいで今でもトパーズ達傷つけているのか…」

蒼の奥歯が鳴る。

手帳から伝わるあまりの蛮行と無責任さに、怒りで血が逆流しそうになるのを、冷徹な理性が辛うじて押し止める。

(……許さない。こんな身勝手な道楽のために、僕たちは……)

限界まで身体を張って手帳を託してくれたトパーズと、部屋で静かに眠っているルビー。

「桃…ローズ…サファイア………」

蒼は手を固く握りしめて居たせいで手の平から血が流れ出ていた。

ぐったりと眠るトパーズを優しく抱かかえて禁書庫をあとにする。

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