師匠
「ごちそうさまでした!!! さぁ今日の作業を始めようか! 師匠、ご指示お願いします!!」
元気よく器を片付け、桃が作業台の前に勢いよくついた。
すでにオルゴールの内部機構(中身)は完璧に組み上がっている。今日やるべき作業は、その大事な中身を包み込む「外側の木箱の装飾削り出し」のみだ。
ベッドの上にしっかりと身体を起こしたルビーは、静かに桃の手元を見つめると、隣に腰掛けたトパーズの手をぎゅっと握りしめた。
『さっそく始めるぞ。外側の飾り彫りは木目に沿って、刃を少し寝かせて削れ』
「桃、角度が高すぎますわ! 少し寝かせて、すっと手前に引くように刃を滑らせなさい!」
トパーズがルビーの感覚と指示を、そのまま迷いのない言葉にして伝える。
「了解! 少し寝かせて……手前に……!」
「あ, すごい! 木がスッと綺麗に削れる!」
『そうだ。角の飾りは深く彫りすぎると形が崩れる。力を抜いて、撫でるように彫れ』
「角の飾りは力を抜いて撫でるようにですわ!」
「力を抜いて……撫でるように……!」
ルビーの職人ならではのイメージがトパーズを通してダイレクトに伝わり、桃が迷いなく彫刻刀を滑らせる。横では蒼が静かに全体のラインやバランスを見守り、必要に応じて次のケガキ線を提示していく。
作業がすっかり軌道に乗った頃――ふとトパーズが作業台の端へ視線を向けた。
そこには、昨日ジノから投げ渡された不気味な砂時計が置かれている。細いガラスの中で、赤い砂がさらさらと静かに落ち続けていた。
(これが落ちきってしまったらまたあの拷問のような薬を……気をつけなければ…)
トパーズは一瞬だけ胸を締め付けられたが、手に込める力はゆるめない。ルビーの精神的な負担を最小限に抑えるためにも、今は一刻も早く、正確に指示を通訳することに全力を注ぐべきだ。
シャリ……シャリ……と、心地よい木削りの音が部屋の中にひたすら響いていく。
「ルビーの指示がトパーズの言葉で直接頭に入ってくるから、すごく彫りやすいよ……! 蒼が描いてくれた模様が、どんどん立体になっていく!」
桃は額に汗を浮かべながらも夢中になって作業に没頭し、ひとつひとつ丁寧に優美な模様を木箱の表面に刻んでいった。
やがて――砂粒がわずかになった。
それと同時に、ルビーが「くっ…」吐息をもらしトパーズの肩にもたれた。
「桃!!砂時計!今日はここまでです!」
トパーズがすばやく手を離し、体を優しくベッドへ倒してやる。
「ありがとうルビー、トパーズ! 砂時計の限界まで集中できたおかげで、外側の飾り彫りがすっごく綺麗に形になったよ!」
桃が嬉しそうに掲げた木箱の表面には、タイムリミットの中で4人が心を一つにして彫り上げた、繊細で美しい彫刻がくっきりと浮かび上がっていた。




