何のことかな
【ぐっ、すっ……ひっく……】
【あら、また泣いているの? トパーズ】
【おばあちゃまぁ……! ……おなじくらいの子に、一緒に遊びたいって勇気を出して伝えたの……。でも、『インペリアル様だ!』って、また……っ】
【トパーズ。あなたを大切にしてくれるお友達、一緒に笑えるお友達を大切にしなさい。あなたも大切にされたなら、それをお返しするのよ。魔力が有っても無くても関係ないわ……ほら、おばあちゃまの魔法のお茶よ。笑顔になれるでしょう? ふふ、いつかできるわ。あなたにも、大切にされて、大切にしたいと思える人たちが……】
――……。
そっと重い瞼を開く。
暗がりの中、目の前には規則正しい小さな寝息を立てて眠る桃の姿があった。
(おばあちゃま……)
トパーズは胸元の衣類をぎゅっと強く抱きしめた。
もう、二度と誰ひとりとして傷つけない――。
コンコン。
「おはよう! きたよー!」
扉が開き、全員分の朝食を抱えた桃とトパーズが賑やかに入ってくる。
「やあ、おはよう。今は楽しい楽しい朝の投薬中なんだよ〜。マスター様と無能力くんも、そこで稚魚くんが苦しんでるところを見学しててよ」
「……相変わらず嫌な奴ですわ! せっかくの爽やかな朝が台無しですわ!!」
トパーズが露骨に嫌悪感を露わにする中、ジノは容赦なく激痛と苦味を伴う薬をルビーの喉奥へ流し込んだ。
ごくん……。
ルビーは表情ひとつ変えず、静かにそれを飲み込む。
「はぁ〜〜? 君、これ慣れちゃったの?? つっまんないの。医務室戻るわ。あ、そうそう――」
ジノは扉に手をかけたところで、振り返りもせずに意地悪くくすりと笑った。
「患部の癒着を防ぐためにも、そろそろ座ってリハビリでもしたら? いつまでも甘えて寝てないでさぁ。あっ、マスターさまぁ? 魔力供給頼みますよー?」
ボコん、と軽薄な捨て台詞を残し、ガチャリとドアを閉めてジノが出ていく。
――ーーートントントントントン(ノック5回、SOSのサイン)。
ジノの姿が見えなくなった瞬間、ルビーの顔からダラダラと冷や汗が噴き出した。動かせる範囲で全身を硬直させ、ベッドの上で必死に悶絶している。
「はいはい、ルビー。よく頑張りましたわね」
トパーズがすぐさま駆け寄り、ぎゅっとその手を包み込んだ。
触れ合った手から意識が繋がり、ルビーの叫びのような心の声がトパーズの中に直接流れ込んでくる。
『慣れるわけねぇだろうが!!!!! あいつ絶対、苦いだけの味増やしてやがる!!!!』
「反応しない。それが一番効くってわけか」
傍らでその様子を観察していた蒼が、冷静に分析してみせる。
『お前もふざけんじゃねぇぞ! なーにか「僕は経験が乏しいからジノに任せる」だ! だったら2人を待ってからでもよかったじゃねーか!!!!』
ルビーは半泣きになりながら、テレパシーで必死に訴え続けた。
『あいつに一語一句間違えずに言ってくれ! 「治ったら覚えてろ」って!!!!』
「蒼、だいぶルビーがお怒りですわよ?? 「覚えてろ」って。ふふっ」
トパーズがルビーの言葉をそのまま代弁すると、ルビーは殺気立った涙目で蒼をギロリと睨みつける。
「さぁ? 何のことかな」
蒼は眼鏡のフチをくいと押し上げたが、その肩は笑いを堪えて細かく震えていた。
「今日はもっと味のあるものでいいって!、ジノが食堂で用意してもらってたから! これ食べて味を上書きしよう!」
桃が元気よくトレーを広げると、重苦しかった空気は一気に吹き飛び、部屋の中に温かい朝の匂いが満ちていった。




