魔法のお茶
―トン(ノック1回、こっちに来ての合図)。
ルビーがベッドの木枠を、指先で小さく叩いた。
「どうされました?」
近づいたトパーズはルビーの手をぎゅっと握る。
『トパーズ今日は桃連れて部屋帰れ。桃にもずっと看病してもらってて昼もオルゴール作業だ、休ませてやってくれ……』
「桃が疲れていらっしゃるのでしたら、私が夜通し残りますわ!」
即答するトパーズに、ルビーは呆れたようにかすかな息を吐き、トパーズに伝えた。
『はぁ……こうでも言わなきゃトパーズ、お前休まねぇだろ。休まなきゃ作業効率が落ちるって前に自分で言ってたじゃねぇか……それに蒼もいるしな』
―トン(ノック1回、こっちを見ての合図)。
音が鳴り、蒼とルビーの視線がすっと交差した。
トパーズが話していた内容とルビーの態度から、蒼は一瞬でルビーの真意を察する。
「正直、いくら看病のためとはいえ女子が部屋にいるのは僕も落ち着いて休めないからね。任せてよ桃、トパーズ」
「えっ!? 私残るってば! 夜中だって薬を塗らなきゃい……むぐぅ」
主張し続ける桃の口を、蒼がすかさず後ろから手で塞いで桃のおでこにそっと手を当てる。
「……ちょっと熱いぞ。重症患者がいるんだ、こんなところに置いておけないな。さあ、出ていってくれ」
半ば強引に蒼によって部屋から追い出されてしまう桃とトパーズ。
「桃!? 熱がおありなのですか!?」
2人の部屋の前で、トパーズが悲鳴のような声を上げた。
「ち、違うって!! あれは蒼が――」
扉の向こうから聞こえる喧騒を、蒼とルビーは室内で静かに聞いていた。
「……というわけで、今夜は久しぶりにむさ苦しい男だけの夜だな」
――トントン(ノック2回、イエスの合図)。
動かない体で目元をゆるめ(仕方ねぇなぁ……)とでも言いたげな目でルビーが応えた。
「大変ですわ、一刻も早く横にならなければ……!」
廊下で焦惑したトパーズは、すぐさま移動魔法と自身の身体強化魔法を同時に展開した。
「きゃっ!?」
桃を軽々と姫抱きで抱え上げると、廊下を爆走して一瞬で自分たちの部屋へと駆け込む。そしてベッドへ強引に桃を寝かせつけた。
「さぁ! 寝てください!! あなたにまで何かあったら私は……!!」
「だから待ってって!!! 嘘だから!!!」
「へ……?」
「あれは蒼の嘘だよ! 私とトパーズを休ませるための嘘!!!」
「う、嘘……?」
緊張の糸が切れたトパーズは、その場にへにゃへにゃと崩れ落ちた。
「く……ふふっ、あはは! 男子たちに一本取られたね!」
慌てふためくトパーズの姿と男子組の仕掛けた優しい嘘に、桃は泣き笑いのような声を上げた。
「……寝る前にさ、お茶淹れさせて。よく休めると噂の茶葉があるの!」
桃はお湯を沸かし、温かいお茶を用意してトパーズに差し出した。自分も一口口に含み、ふっと表情を緩める。
「うーん……トパーズが入れてくれるような美味しい味がしないなぁ……」
「いいえ、美味しいですわ。とってもとっても優しい味がします……魔法のお茶ですわね」
トパーズは湯気の立つカップを両手で優しく包み込み、心から愛おしそうに微笑んだ。




