ダメだよ
コンコン。
「戻ったぞ、2人とも」
「あ、おかえり蒼! トパーズのことありがとう!」
桃はドアの方へ振り返りもせず、ベッドのルビーを献身的に介抱し続けている。
「まさに白衣の天使ですわね……」
その光景を目にしたトパーズが、ポツリとうっとりとした声を漏らした。
(はっ!? トパーズ、なんで今来るんだよ……!)
手当てを受け、背中まで赤くしていた姿を見られたルビーは、自分の恥部を見られたような心地になり、焦って桃の手のひらを叩く。
――トントン、トン(ノック3回、拒否の合図)。
「っえ!? あ、!! 何でトパーズここにいるの?! 部屋で休んでなきゃダメじゃないの!!」
トパーズの来訪に心底驚いた桃は、ルビーの意図を素早く汲み取り、焦りながら急いで彼にシャツを着せつけていく。
服を着せ終えた桃がバッと振り返る。トパーズの足取りは弱々しかったものの、その瞳には確かな意志の光が宿っていた。
「私のことより、皆様に報告したいことがありますの」
静まり返った部屋の中で、トパーズは禁書庫で突き止めたすべての真実を語り始めた。
お父様の日記を見つけたこと。
大規模な救援を何度も繰り返しても、どうしても元の世界へ連れ戻すことができなかったこと。
この世界に落ちてきてしまった者は、元の世界のそれと同じ『魂の役割』を強制的に押し付けられてしまうこと。
この世界の人間は入れ替わりの人間に違和感を感じても記憶を操作されこの状況を当たり前として過ごすこと。
――祖母をはじめ、自分たちの他にも大勢の人々がその犠牲となり、同じように役割を背負わされ続けていたということ。
「つまり僕たちは、このままいけば僕は【サファイア】、桃は【ローズ】の役割をさせられる……。別にとって食われるわけではないのか、最悪ここに居続けても……」
「だめだよ!」
蒼の淡々とした整理を遮るように、桃が強い声を張った。
「ここでの友達も家族も、すべて【ローズ】の物だよ!…全部、全部!【ローズ】の物だから……! だから、諦めたくない……!」
「何も諦めたなんて言ってないぞ」
蒼は苦笑しながら眼鏡のフチを押し上げた。
「まだ禁書庫をすべて調べ終わったわけじゃないだろ?」
「ええ、そうですわ。インペリアル家は諦めが悪いですからね。生きてる限り、私は桃とローズ……あと蒼とサファイアのためにやりますわよ」
トパーズが誇らしげに胸を張る。
「おいおい、僕たちはついでか」
「ふふ」
「はは」
蒼の呆れたような呟きに、小さく笑い声が漏れた。ベッドの上のルビーも、呆れたように目元を緩めている。
絶望的な真実を突きつけられてもなお、誰ひとりとして折れてなどいなかった。




