ご飯にしようよ
「桃……ッ!!!」
「なっ、ど、どうしたの蒼!!????」
蒼はなりふり構わず桃へと抱きついた。
今まで見せたこともないほど激しく体を震わせ、桃の肩にしがみつく蒼の強い力。桃は戸惑いながらも、ただ事ではない雰囲気を察して、蒼の背中をそっとさすった。
「大丈夫だよ蒼、私はここにいるよ」
「まぁ、そうだよね……こんなにたくさんの人にローズだって言われてて、私とローズが無関係なわけないよね」
蒼の腕の中で、桃はへへっと苦笑を浮かべる。
「ここにいる人が昔から知っている気がしたの。……それに、ルビーだってトパーズだってサファイアだってみんな、私の友達だったんだって確信できて……ちょっとだけ嬉しいよ。あ、強がりじゃないよ! 本当に嬉しかったんだよ!」
桃は震える蒼の背中を、ヨシヨシと優しく撫で続けた。
何があったのか、何を見てきたのか、詳しいことは分からない。だけど——。
「何を見たかわからないけど……私は私だよ。大丈夫、」にこっ
ふとトパーズに目をやると、彼女は廊下での約束を胸に深く飲み込んだまま、固く結んだ唇を震わせていた。
「っ……強がらないでください……っ!!」
トパーズはこらえきれなくなったようにポロポロと涙をこぼし、思わずその場に崩れそうになる。桃は蒼を抱きしめたまま、ぐっと手を伸ばしてトパーズのこともぎゅっと抱きしめた。
「私、美味しいもの食べたら大体のことは忘れちゃうんだ! みんなもそうでしょ? ご飯にしようよ? ね?」
その温かくて無邪気な優しさに、蒼は桃の肩に顔をうずめたまま、子供のように声を漏らして泣いた。
「うん………っ」
——トントン。
部屋の隅、静かに寝ていたはずのベッドから、規則正しい2回の音が響いた。
ハッとしてそちらを見やると、ベッドの縁に預けられていたルビーの指先が、小さく木枠を叩いている。
「イエス(賛成)」の合図
重い傷を負いながらも、ルビーは顔をこちらに向け、屈託のないニッと眩しい笑顔を浮かべていた。
(オレも飯に大賛成だ。美味いもん食って、笑おうぜ)
言葉はなくとも、その頼もしすぎる笑顔に、蒼とトパーズ、そして桃の間に、温かな灯火のような確かな絆が蘇っていくのだった。
「ごちそうさまでした!! こんな時のためにちゃんと缶詰も用意しておいてよかったー!」
「本当に美味しそうにいつも食べますわね、ふふ」
食卓に並んだ缶詰のスープとスコーンを前に、桃は満足そうにお腹を叩く。トパーズもどこか誇らしげに、自分が淹れた紅茶を一口飲んで目を細めた。
「トパーズのこのお茶と、ここのスコーンって最高だよねー」
無邪気に笑う桃だったが。
—トン
(タップ一回「こっち見て」)
そこには、ベッドの上で動けず、声も出せないルビーが、ジトっとした目でこちらをじつと見つめていた。
「……あ、ルビー。ごめんごめん、目が開いてたの気付かなかった!」
桃は慌ててスプーンとスープを取り分けようとするが、ルビーはぐっと手を伸ばすと、そばにいたトパーズの手を強く引き、ギュッとその手を握りしめた。
『絶対あいつ自分の飯のことしか先に考えてなかった!オレのこと忘れてたって!!…………トパーズの淹れてくれたハーブティーが飲みたい』
「ん、わかりましたわ」
トパーズは握られた手を優しく包み込みながら、小さく頷く。
「桃、変わりますわ」
「へへ、わかった! 嫌だろうけどさっきジノから渡された薬用意しとくね」
桃が手際よく薬の準備へと向かうと、ベッドの上のルビーは一瞬で顔を引きつらせた。声が出ないのをいいことに、彼は全身の気迫で絶叫する。
『うわーーー嫌だー!! あれ苦いとかそういうレベルじゃねぇんだよ!! 頭じゃわかってても体が拒否すんだよ!!』
「頑張ってくれ。早く治すためだからさ」
蒼が苦笑いを浮かべながら声をかけると、トパーズはお茶の準備をしながら、くすりと楽しそうに微笑んだ。
「ふふ、テレパシーなしでも会話が成立してますわよ」
「僕たちの仲だからな」
『まーな』




