↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法のない普通科で。    作者: ワイ
オルゴールの音と桃
92/146

ご飯にしようよ

「桃……ッ!!!」

「なっ、ど、どうしたの蒼!!????」

蒼はなりふり構わず桃へと抱きついた。

今まで見せたこともないほど激しく体を震わせ、桃の肩にしがみつく蒼の強い力。桃は戸惑いながらも、ただ事ではない雰囲気を察して、蒼の背中をそっとさすった。

「大丈夫だよ蒼、私はここにいるよ」



「まぁ、そうだよね……こんなにたくさんの人にローズだって言われてて、私とローズが無関係なわけないよね」

蒼の腕の中で、桃はへへっと苦笑を浮かべる。

「ここにいる人が昔から知っている気がしたの。……それに、ルビーだってトパーズだってサファイアだってみんな、私の友達だったんだって確信できて……ちょっとだけ嬉しいよ。あ、強がりじゃないよ! 本当に嬉しかったんだよ!」

桃は震える蒼の背中を、ヨシヨシと優しく撫で続けた。

何があったのか、何を見てきたのか、詳しいことは分からない。だけど——。

「何を見たかわからないけど……私は私だよ。大丈夫、」にこっ

ふとトパーズに目をやると、彼女は廊下での約束を胸に深く飲み込んだまま、固く結んだ唇を震わせていた。

「っ……強がらないでください……っ!!」

トパーズはこらえきれなくなったようにポロポロと涙をこぼし、思わずその場に崩れそうになる。桃は蒼を抱きしめたまま、ぐっと手を伸ばしてトパーズのこともぎゅっと抱きしめた。

「私、美味しいもの食べたら大体のことは忘れちゃうんだ! みんなもそうでしょ? ご飯にしようよ? ね?」

その温かくて無邪気な優しさに、蒼は桃の肩に顔をうずめたまま、子供のように声を漏らして泣いた。

「うん………っ」

——トントン。

部屋の隅、静かに寝ていたはずのベッドから、規則正しい2回の音が響いた。

ハッとしてそちらを見やると、ベッドの縁に預けられていたルビーの指先が、小さく木枠を叩いている。

「イエス(賛成)」の合図

重い傷を負いながらも、ルビーは顔をこちらに向け、屈託のないニッと眩しい笑顔を浮かべていた。

(オレも飯に大賛成だ。美味いもん食って、笑おうぜ)

言葉はなくとも、その頼もしすぎる笑顔に、蒼とトパーズ、そして桃の間に、温かな灯火のような確かな絆が蘇っていくのだった。


「ごちそうさまでした!! こんな時のためにちゃんと缶詰も用意しておいてよかったー!」

「本当に美味しそうにいつも食べますわね、ふふ」

食卓に並んだ缶詰のスープとスコーンを前に、桃は満足そうにお腹を叩く。トパーズもどこか誇らしげに、自分が淹れた紅茶を一口飲んで目を細めた。

「トパーズのこのお茶と、ここのスコーンって最高だよねー」

無邪気に笑う桃だったが。

—トン 

(タップ一回「こっち見て」)

そこには、ベッドの上で動けず、声も出せないルビーが、ジトっとした目でこちらをじつと見つめていた。

「……あ、ルビー。ごめんごめん、目が開いてたの気付かなかった!」

桃は慌ててスプーンとスープを取り分けようとするが、ルビーはぐっと手を伸ばすと、そばにいたトパーズの手を強く引き、ギュッとその手を握りしめた。

『絶対あいつ自分の飯のことしか先に考えてなかった!オレのこと忘れてたって!!…………トパーズの淹れてくれたハーブティーが飲みたい』

「ん、わかりましたわ」

トパーズは握られた手を優しく包み込みながら、小さく頷く。

「桃、変わりますわ」

「へへ、わかった! 嫌だろうけどさっきジノから渡された薬用意しとくね」

桃が手際よく薬の準備へと向かうと、ベッドの上のルビーは一瞬で顔を引きつらせた。声が出ないのをいいことに、彼は全身の気迫で絶叫する。

『うわーーー嫌だー!! あれ苦いとかそういうレベルじゃねぇんだよ!! 頭じゃわかってても体が拒否すんだよ!!』

「頑張ってくれ。早く治すためだからさ」

蒼が苦笑いを浮かべながら声をかけると、トパーズはお茶の準備をしながら、くすりと楽しそうに微笑んだ。

「ふふ、テレパシーなしでも会話が成立してますわよ」

「僕たちの仲だからな」

『まーな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。