監視役
【わたしもトパーズみたいな立派な魔法使いになるんだ!見ててね、いくら魔力が低くても、思いは魔力を超えるんだよ!】
「……ローズ。久々に夢に出てきてくれましたのね」
夢の中で見るのはいつも、幼い頃に二人で遊んだあの日の記憶。
ひっそりと行っていた魔法の練習を見られ、恥ずかしくて身を隠していたトパーズに、ローズは【もっと見せて!!私も同じようにできるかな!?】と瞳をキラキラと輝かせ、いつかトパーズのようになりたいのだと夢を語っていた。
この学園に入学してから見なくなっていた夢。……いいえ、あの「桃」という少女に出会った時から、見なくなっていた幼き日の幻影。
(私が必ず、ローズを取り戻してみせますわ)
トパーズは心の中で強く誓い、禁書庫の静けさの中へ意識を戻した。
薄暗い禁書庫の中、トパーズと蒼は棚に並ぶ古文書や記録を片端から捲り、しらみつぶしに手がかりを探していた。羊紙の擦れる音が静かな部屋に響く。
「……ルビーの様子はどうですか?」
本を閉じたトパーズが尋ねると、隣で背表紙をなぞっていた蒼が短く息を吐いた。
「お昼を食べたら寝ちゃったよ。できれば自然に目覚めるまでほっといてやりたいな」
「ですが、そろそろ夜の投薬時間ですわね。……かわいそうですわ」
「あいつの禁術に、僕たちは護られたんだ。……あいつ一人に負担をかけさせているのは、どうにも心苦しいよ」
蒼はそう言って眼鏡のフチを指で押し上げた。自分たちを助けるために無理をした少年の姿を思い浮かべているのだろう。
「ルビーのあの純粋な魔力で、あれほどの規模の禁呪を発動させたこと……そして、あの程度の代償で済んだこと自体が奇跡ですわ」
「……そういえば、ルビーはもともと魔力が低いんだろ? なんで発動できたんだ?」
蒼の素朴な疑問に、トパーズは手を止め、静かに微笑んだ。
「『大切な友を絶対に護りたい』という、自分の身を顧みない無私の願いがありましたから」
「……なるほどな。『思いは魔力を超える』、か」
蒼の呟きに、トパーズは胸の奥が一瞬小さく跳ねるのを感じた。
幼い日にローズが口にしたあの言葉が、目の前でルビーという一人の少年――そして大切な友によって証明されている。「ですが……ここにある禁書をめくっても、完全な答えまでは辿り着けませんわね」
トパーズはため息をつき、テーブルに積み上がった古い羊皮紙や封印の解かれた古書を見つめた。
そこに残されていたのは、インペリアル家が過去に行った「元に戻すための実験」の失敗記録や、歪みを管理するための禁術の断片。だが、なぜ特定の者たちだけにこの現象が起きるのか、そして具体的にどうすれば完全に解決できるのかという真の核心までは描かれていなかった。
「大昔の記録だからな。失敗の事実は残っていても、都合の悪い裏のデータや一番深い解析結果は、父親の手で別の場所に隠蔽された後かもしれない」
蒼は腕を組み、禁書庫の窓から遠くの校舎を眺めた。暗闇の中にぽつんと灯る、医務室の明かり。
「……なぁ、トパーズ。僕たちが探すべきなのは、過去の歴史や実験記録だけじゃなくて、『今まさに現場で異変を観察している奴』の生の記録なんじゃないか?」
「……現場で観察している者……?」
トパーズが首をかしげると、蒼は静かに頷いた。
「ジノ先生だ。入れ替わりで倒れた奴らが真っ先に運ばれるのはあそこだし、あの人はずっと『暇つぶしの監視役』として学園にいる。……あそこなら、父親の検閲を受けていないリアルタイムの観測データがあるかもしれない」
「……言われてみれば、そうですわね。医務官のカルテや手記なら……」
二人は顔を見合わせた。
「ジノが不在の隙を狙って、医務室を探してみよう」




