先客がいるんで
トパーズと蒼のふたりは、静かに部屋を後にし、昼食を調達するため食堂へと向かった。
いつもなら賑やかな歓声と喧騒に包まれている食堂だが、扉を開けるとどこか張り詰めたような、けれど心地よい熱気が漂っていた。クラフト大会の提出期限が迫っているラストスパートだからだろう。テーブルのあちこちで、魔法科と普通科の生徒たちが真剣な表情で設計図や試作品を囲み、議論を交わしながら食事をとる姿が見えた。
その光景を目にしたトパーズは、胸を撫でおろすようにふっと表情を緩めた。
「ふふ、皆さま、このイベントの真の目的が達成されていますわね。開催した甲斐がありますわ」
「え? トパーズが特別列車を欲しがってるだけだって聞いてたけど……」
蒼が不思議そうに首をかしげると、トパーズは少し寂しげに、けれど温かい眼差しで遠くを見つめた。
「ローズが戻ってきた時に、険悪な普通科と魔法科のままでしたら、また昔の排他的な関係に戻ってしまうではありませんか。この交流も、私の大切な目的のひとつですのよ」
かつての友を思い、学校全体を動かすトパーズの思いの深さに、蒼は感心したように息を吐いた。
「……昔の友達のために、よくやるよ」
そんな二人の真面目な会話をよそに、周囲のテーブルからはひそひそと下世話な噂話が聞こえ始めていた。
「あっ、あのサファイア……噂の男子寮に女子連れ込んでるやつじゃん。ヒソヒソ……」
「今、中で看病されてるんだってよ。えー、お熱いじゃんヒューヒュー!」
「トパーズ様も看病してんのかなぁ、いいなぁ……」
「ヒソヒソ……ローズちゃんって聞いたぜ。いいなー、俺もあんな白衣の天使みたいな子にあーんしてもらいてーわ」
「俺もあっちの素朴な元気っ子に看病されてぇわ。ヒソヒソ……」
ニヤニヤとした視線と下世話な噂話がトパーズの耳に届いた瞬間――先ほどまでの高貴で温かな微笑みは影も形もなく消え去った。
トパーズの額にぶちりと青筋が浮かび上がり、周囲の空気が一瞬で凍りつくほどの凄まじい殺気が膨れ上がる。
「私の……私の桃になんて目を見ていますの……!!!?」
トパーズが杖を握り締め、今にも下衆な生徒たちを丸焼きにしそうな勢いでブチギレかけた――その時だった。
スッと無言で進み出た蒼が、噂話をしていた生徒たちのテーブルの隣に腰を下ろした。
「お隣、失礼」
「へ? あ、あぁ……」
突然割り込んできた蒼に生徒たちが気圧される中、蒼は冷ややかな、けれどどこか蔑むような視線を彼らに向けた。
「ローズには生憎、先客がいるんでお引き取り願えるかな? それに……瀕死の人間を下世話のネタにするのはどうかと思うよ。君たちの人間性に関わることだ。……では、失礼する」
感情を一切交えず、淡々と、けれどぐうの音も出ない正論で一砲を叩き込むと、蒼はサッと席を立ってトパーズのもとへ戻ってきた。言われた生徒たちは顔を青くして縮こまっている。
嵐のように去っていく蒼の背中を追うように立ち去りながら、トパーズは毒気を抜かれたように息を吐き、クスリと口元を緩めた。
「……蒼も、ルビーと同じく熱苦しいやつでしたのね……」
冷静に見えて下衆を許さない蒼の秘めた熱さに、トパーズはふふっと笑った。
この件があってからローズちゃんは男子人気の高い子になりました




