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魔法のない普通科で。    作者: ワイ
オルゴールの音と桃
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釣り合う?

不気味な砂時計が、作業台の端でさらさらと静かに砂を落とし始めた。

「……さあ、始めますわよ」

トパーズの掛け声とともに、部屋の空気は一気に引き締まった。作業台の上には、蒼が描き上げた精密な設計図と何枚もの真鍮板、工具類が並んでいる。

「まずは外装の土台となるベースプレートの切り出しと、ギアを固定するための軸穴あけです。桃、一番厚みのある3ミリの真鍮板を」

「おっしゃ、任せて!」

桃が万力に真鍮板を固定するが、慣れない手元は力が入りすぎて刃先がブレる。ガリッと嫌な音が響き、表面に傷が入った。

「うわっ、ごめん! 滑った……!」

「焦らなくていいわ。……ルビー、桃の手元を見て指示を出しなさい」

ベッドの端に腰掛けたトパーズがそっとルビーの手を握ると、直後に言葉ではなく「完璧な力加減と角度の感覚」がダイレクトに流れ込んできた。

「桃、角度が急すぎますわ! 30度に寝かせて、ハンマーの重みだけでトントンと叩くように!」

トパーズがルビーの脳内イメージを即座に言語化して伝える。

「こう……!? あ、本当だ! すっごい綺麗に刃が通る!」

ルビーの指示をトパーズが通訳し、桃が削り、蒼が次のケガキ線を引く。無駄のない連携で作業は順調に進んでいった。

だが、触れ合う手を通じて、ルビーの不器用な本音も流れてくる。

『……無理だってしたくなる、こうやって2人で話すの図書館以来じゃねーか』

『今その話は関係ないじゃないですかっ!』と心の中で毒づくトパーズ。

『……トパーズって髪綺麗だよな、勉強も魔法も完璧で容姿まで完璧じゃねーか、そんなら普通科のオレが多少でも無理しなきゃつり合わねぇだろ』

「っ!??!?」

その瞬間、トパーズの脳内で乙女心が大爆走を起こした。

(つり合う……!? それって私とルビーが恋人としてお互いに見合う存在になるために無理をしてるって……そういう意味の……っ!?)

あまりの衝撃と羞恥に耐え切れず、トパーズはバッと弾かれたようにルビーの手をパッと離してしまった。

通信がブツリと途切れると同時に、トパーズは作業の手を完全に止めて大きな声を張り上げてしまう。

「つ、つり合うってなんの話ですの!?!?!?」

突然の大声に、万力を締めていた桃が「うわわっ!?」と跳び上がり、コンパスを握っていた蒼も目を見開いて振り返った。

「ト、トパーズ……? 釣り合う……? なにが……?間違えてたかな?」

「どうしたんだいきなり……ルビーの容態でも悪化したのか……!?」

「な、なんでもありませんわ!!! 作業を続けなさい!!!」

二人の視線を強引に逸らしながら、トパーズは顔が破裂しそうなほど真っ赤になっていた。勝手に膨らませた甘い脳内妄想で一人で爆発しそうになる。

しかし、手を離されたベッドの上のルビーは、ポカンとした顔で(え……?)とトパーズを見つめていた。

(? そんなに深い話しじゃ……あっ………)

ルビーのその表情から、トパーズは自分が勝手に深読みして一人で暴走していたのだと瞬時に察した。一気に血の気が引き、次に猛烈な恥ずかしさが襲いかかってくる。

(なっ……!! 勘違い……!? 私が、勝手に……っ!?!?)

手を離しているため声は届かないが、ルビーもトパーズの赤面を見て(変な捉え方された!?)と遅れて理解し、急速に顔を真っ赤にし始める。

(ち、ちが……っ! 変な深読みすんなよ!! オレだってそんな風な意味で言ったわけじゃ……あっ、いやでも、嫌なわけじゃなくてだな……っ!!)

口から声が出ないルビーは必死でトパーズの手を握ろうとするが、トパーズは自分の恥ずかしさを誤魔化すように、冷やした両手で自分の熱い頬をぎゅっと押さえた。

桃と蒼からは「急に一人で顔を真っ赤にして暴走しているトパーズ」と「急に顔を真っ赤にしてワタワタしているルビー」という謎の光景しか見えない。

「〜〜〜〜っっっ!!! 無駄口叩いてないで、早く次の指示を出しなさいバカ!!!」

声を出してルビーを怒鳴りつけ、トパーズは無理やり手を取り直す。

しかし、触れた手のひらから伝わってきたのは、ルビーの限界を迎えていく荒い息遣いと重い頭痛の感覚だった。

(……くそっ……頭が、グラグラしやがる……)

強がりなルビーの状況を察したトパーズは、繋いだ手をそっと離すと、きっぱりと立ち上がった。

「今日はもうおしまいです!!」

「えっ!? トパーズ、まだ砂時計の砂は残ってるよ!?」

「残っていようが関係ありませんわ! ルビーの限界を超えてまで作業を続ける気はありません! 今日はここまでです!」

トパーズは毅然と言い放つと、ルビーに冷やしたタオルを優しく当ててやった。言葉が出ないルビーは、悔しそうに、けれどどこか安心したようにフッと目を閉じる。

「……ですが、時間を無駄にはしませんわ。桃、あなたには今日削り出した真鍮板のヤスリがけと、パーツのバリ取りをお願いします。指示がなくてもできる下準備ですわね?」

「おっしゃ任せて! ピカピカに磨き上げておく!」

「そして蒼。あなたは私と一緒に禁書庫へ来なさい。」

「……了解だ。ルビーが休んでいる間に、全ての手がかりを見つけ出そう」

不気味に砂を落とし続ける砂時計を横目に、4人はそれぞれの行動へと移るのだった。

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