頭の回るやつじゃない
同じ頃、男子寮を出て食堂へと向かう二人影があった。
「いくよ蒼!」
「ようやく食べられるって! ルビーの体調も良くなってきてるってことだよね。本当によかった」
「あぁ。昨夜は本当にこたえたが……今は何故か、謎のやりきった気分だ」
歩調を合わせながら進む二人の口から、ふと同時に言葉が漏れ出た。
「…………ねぇ!」「なぁ、」重なった声に、蒼が小さく笑って譲る。
「あっ、蒼からいいよ」
「……あのルビーの『愛してる』発言だがさ。あれ、どう考えても本気だよな?あいつが嘘つけるとも思えないし、第一そこまで頭の回るやつじゃないだろ」
「だよね!? 私も同じこと言おうとしてたの!!!」
手を叩いて笑い合う。桃はフフンと胸を張った。
「ささやかな、二人だけの時間のプレゼントか……。桃らしいな」
「まあね! えっへん!」
「おーい、入るよー。コンコン」
ノックと同時に扉が開き、お粥のトレーを抱えた桃と蒼が入ってきた。
「あれ、なんでトパーズ真っ赤なの???」
入ってくるなりトパーズの顔を見るやいなや、桃がニヤニヤと意地悪そうに目を細める。すかさず蒼と目を合わせ、二人して「やっぱりな」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「なっ!! なんでもありませんわ!!!」
トパーズは弾かれたようにルビーの手をパッと離すと、大慌てで立ち上がり、何でもない風を装おうとする。もちろん桃と蒼はテレパシーの存在なんて知らない。けれど、二人がいなかった数十分間に「ナニか」があったことくらいは察しがついている。
「あっ! まだ薬飲んで無い!!!」
トパーズが机の上の薬に目をやり、声を上げた瞬間――ベッドの上のルビーはすっと目を閉じ、あからさまに「寝てます」アピールで無視を決め込んだ。
「な!! まさかルビー、薬を飲みたく無いからって私の事利用してました!? 利用してましたの!?!?」
必死で脳内告白のフリをして時間を稼ごうとしていたのかと勘違いし、トパーズがキーッと声を張り上げる。するとルビーは閉じた目のまま、プイッと明後日の方向へ顔を背けた。その不敵で図々しい態度に、トパーズの口元が妖しく吊り上がる。
「……私が責任持ってお薬もお食事も食べさせますわ。うふふ」
その低く静かな「うふふ」という笑い声に、さっきまで勝ち誇っていたルビーの体が、びくっと大きく跳ね上がった。
トパーズはそのまま身を翻すと、廊下に向かって声を張り上げる。
「来なさい人形!!!!」
(げっ!? いくらなんでもそれは反則だろ!? そこまでのことやってねーぞ!?)
脳内でのルビーの悲鳴に応えるように、ぬるりと現れたのは先ほど去ったはずのジノだった。
「へいへいマスター様ぁ。あー、こいつまだ朝の薬飲んでねーのか。やだなぁ、良薬は口に苦しってね。あんなバカみたいな真似やって、苦い薬だけですんでるんだから、感謝してほしいくらだよ〜」
ジノはだるそうに首を鳴らしながら、手慣れた手つきで薬の瓶を傾ける。その不躾で容赦のない視線に、ルビーは顔をしかめた。
(お前のせいでこうなってるんだろうが……!!)
声に出せない叫びも虚しく、トパーズは冷ややかな、しかしどこか満足気な笑みを浮かべたままでジノに向き直る。
「私は上手くお薬飲ませられませんの。……お前が苦痛なく飲ませてやりなさい、ふふ」
「はいはい、お安い御用で。普通科の雑魚…じゃなかった稚魚くん、口開けてくださーい」
ジノの手によって容赦なく苦い薬を口にねじ込まれていくルビーを横目に、桃と蒼は南無三と見守るのだった。




