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魔法のない普通科で。    作者: ワイ
オルゴールの音と桃
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元気?

桃の背中に冷や汗が吹き出す。

ベッドの上で横向きに寝ているルビーも、声が出せない分、見開いた目で(おい冗談だろ、頼むから庇ってくれ……!)と絶望的に桃へ視線で訴えかけていた。喉の包帯が痛々しいのに、今はそれどころではない。

「ほら重患者、お薬の時間だよ〜。魔力経路の修復をギューッと強制促進する特注品だからね。痛くて朝まで眠れないかもしれないけど、自業自得ってことで!」

ジノは無慈悲な手つきで、抵抗もできないルビーにそのヤバすぎる薬を飲ませていく。

ぐっと飲み干した瞬間、ルビーの体に激痛が走り、声にならない呻きと共に顔が激しく歪んだ。

「う、ルビー……っ!」

「んじゃ、僕はこれで〜。あ、そうそう」

ジノは扉に手をかけ、振り返って桃にニヤリと笑いかけた。

「君が無茶させたんだから、今夜は彼が苦しんで暴れてベッドから落ちないように、朝までずっと付き添って氷嚢を替え続けてあげてね? 治してあげたいんでしょ〜? よろしく〜」

バタン!と容赦なく扉が閉まり、静まり返った部屋には、薬の副作用に悶絶するルビーと、罪悪感と焦りでいっぱいの桃だけが残された。

「ご、ごめんねルビー……! 私が無理させちゃったから……! すぐ氷持ってくるからねっ!!」

喋れぬまま痛みに耐えるルビーの額に、桃は必死に冷やしたタオルを当て、手を握りしめる。

こうして、オルゴール作りの温かい余韻は吹き飛び、二人の嵐のような徹夜の看護イベントが幕を開けたのだった――。


成果が得られぬまま、旧保管庫の重い空気と埃を背負って戻ってきたトパーズと蒼。

「はぁ……1日を無駄にしてしまいましたわ。あれだけ解読したというのに、目ぼしい記述は一つもなし……」

トパーズが疲れ切った溜息をつくと、隣を歩く蒼が優しく首を振った。

「違うよトパーズ、まだ時間はある。あそこ探してダメだったってことが分かっただけでも前進さ」

「……相変わらずですわね、あなたたちは」

そんな会話を交わしながらルビーたちの部屋へ向かう廊下で、向こうからひょっこりと姿を現した人物がいた。ジノだ。

「あれれ〜マスター様じゃないですかぁ。元気? 僕の診察いる?」

含みのある薄笑いを浮かべるジノに対し、トパーズは一瞬で警戒の表情を浮かべる。

「……ここですれ違うということは、しっかり働いているようですわね………………」

「どうどう、抑えてトパーズ」

噛みつきそうなトパーズを蒼が慌ててなだめるが、ジノはどこ吹く風で、ひらひらと手を振ってみせた。

「あっ、そういえばこんなところで話してばっかりでいいんですかぁ?」

「……な、なんの話ですか!?」

「まぁ、考えてみてくださいよ。じゃ、仕事があるので〜、あーーーそうそう、無能力者くんに渡し忘れてたこれどーぞ」

ジノは懐から丸めた清潔なタオルをひらひらと取り出すと、へらへらとした笑みを浮かべてトパーズの手元へ放り投げた。

「コレ噛ませとかないと歯無しになるかも?」

ジノはニヤリと意味深な捨てゼリフを残し、そのまま軽やかな足取りで立ち去っていった。

「……なんなのですか、一体……!」

憤るトパーズと首をかしげる蒼。しかし、ふたりがルビーの部屋のドアを開けた瞬間、ジノの言葉の意味を即座に理解することになる。

部屋の中では、不気味な紫色の薬の副作用で激痛に悶絶するルビーと、「ご、ごめんね……っ!」と半泣きになりながら必死で氷嚢を替え続けているボロボロの桃の姿があった――。

「ルビーーー!!!!!」

部屋に駆け込んだトパーズは、激痛に顔を歪めてベッドで悶絶するルビーの姿を見るや否や、涙目になって叫んだ。

「トパーズ!! 薬の副作用で痛がってるの!!!! 一晩中痛むって……! 無理させたお前が冷やせってジノが!!」

半泣きで氷嚢を押し当てていた桃が、焦りと罪悪感に声を震わせながら叫び返す。その必死な姿に、トパーズは目元を拭いながら即座に駆け寄った。

「桃! 私が代わります!! 私が桃にオルゴール作りを任せたのです! 私の責任です!」

「誰の責任とかじゃない、みんなルビーに救われてるんだ、みんなでやろう、耐えろよルビー」

蒼が静かに、しかし力強い声で二人の肩を叩き、ルビーのもう片方の手をそっと握りしめる。

喉の激痛と全身を駆け巡る魔力の軋みに、ルビーは声すら上げられず、荒い息を吐きながら必死で歯を食いしばっていた。言葉は出せなくても、自分を囲んで必死に手を差し伸べてくれる3人の温かさと、固い決意に満ちた眼差しは、しっかりとルビーの胸に届いている。

「っ……!? ルビー、だめだ噛み締めるな!」

激痛のあまりギチギチと音を立てて歯を食いしばるルビーを見て、トパーズが悲鳴のような声を上げた。顎が激しく震え、このままでは本当に歯が割れてしまいそうだ。

「くっそ!こう言うことかよジノのやつ……!!」

「ルビー、これ噛んで! 頼むから自分の体を壊さないで……!」

冷たいタオルを取り替えるトパーズ、必死に氷を砕きに向かう桃、タオルと口元を抑える蒼、介抱する3人の身体に嫌でも力が入る。

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