世の中の縮図
「はい、おくすりどーぞ。……は? これさっき飲んで苦かった? あ、薬の味覚えられるくらいの味覚はあるんだ〜よかったなぁ? お前のためにみんなが見守ってんだぞー? 人に迷惑かけるなって母ちゃんに言われなかったかー?」
「くっ……! 普通に仕事(治療)してるだけなのに、心底腹が立ちますわ……っ!」
白衣姿でヘラヘラと苦い薬を突きつけてくるジノ人形に、横で見守っていたトパーズが激しい怒りで震える。
するとジノは、薬の瓶をいじくりながらトパーズの方へヘラヘラと手を振ってみせた。
「あ、マスター? 今日の分の魔力供給してもらわないと僕動けないからね〜??」
「そんなもの、分かってますわ!!!!!!」
ボコんっ!
トパーズは一切の躊躇なく、愛用の杖をジノの頭頂部へ思い切り振り下ろした。鈍い打撃音と共に、強制的に術者からの魔力が人形へ流し込まれていく。
「ちぇ〜……こんな魔力供給だったら、もっと優しい美人のお姉さんからが歓迎なんだけどなぁ」
「だまらっしゃい!!!!!!」
頭を押さえて大袈裟に肩をすくめるジノを、トパーズは般若のような顔で一蹴した。そして、ノートとペンを抱えた蒼に視線を送る。
「蒼! 私たちは例の場所に行ってきますわ!!!! ……人形!!! お前も早くルビーの朝の治療を終わらせたら、とっとと医務室に戻りなさい!!!!」
「はいはい。はぁーあ、だるいなぁ……でも命令だしねぇ」
トパーズと蒼が禁書解読のために部屋を出ていき、ドアが閉まる。
部屋に残ったのは、ルビーと桃、そしてジノ人形の3人。
ジノは白衣のポケットに手を突っ込み、心底だるそうにルビーを見下ろした。「じゃあほら、早く薬飲んだら???」
ジノがだるそうに薬を突き出すが、ルビーは全身の倦怠感と痛みに縛られ、ベッドの上で手すら満足に動かすことができない。
(くそっ……体すら、まともに……っ)
歯噛みするルビーの様子を見て、桃が慌てて寄り添い、優しくその体を支え起こした。
「ルビー、無理しないで。……薬飲むの嫌なのはすごーくわかるけど、ここは私が飲ませるから頑張ろ? 早く治して、一緒にオルゴール作ろ」
桃がスプーンやストローで苦い薬をすくい、ルビーの口元へそっと運んでくれる。
ジノの顔を見ないようにしながら、ルビーは桃の優しさに身を任せ、どうにか薬を飲み干した。
「はー、見舞い客がいちいち介護までしてあげるんだ。優しいねぇ、世の中の縮図みたいだ」
ジノは白衣のポケットに手を突っ込んだまま、呆れたように肩をすくめる。
「……じゃ、僕の仕事はここまでだし、とっとと医務室に戻るよ。マスターの機嫌損ねたらまた杖で殴られそうだしね。じゃ、お大事に〜」
ひらひらと片手を振って、ジノ人形は気怠げに部屋を去っていく。
バタンとドアが閉まり、ようやく静かになった部屋で、ルビーは荒い息を整えながら天井を見上げた。
(……さて、ここからだ……)
指先を微かに震わせながら、ルビーはベッドの脇に控える桃に向かって、不格好ながらも力強く視線を送る。
――声が出なくても、手足が重くても、自分には教えるべき知識がある。桃という最高の相棒がいる。
「よし……ルビー、昨日言ってた設計の続き、どこから始める?」
桃が専用のノートと工具を広げると、ルビーはベッドの上から微かな身振り手振りと、紙に走らせる震える文字で指示を出し始めた。




