よんだ???
トパーズが差し出すランプの灯りが、旧保管庫の薄暗い室内を橙色に揺らしている。
「意味ないかもしれませんが……こちらルビーの杖です、私がルビーのために調整しましたの、あのくそ医務官がいるかもしれませんしね」
トパーズはそう言って、ポケットから取り出したルビーの杖を差し出した。
「お、サンキュ! ったく、あいつがいつ影から湧いてくるか分かんねぇからな。助かるぜ、いざとなったら殴ってやる!」
ルビーは受け取った杖を軽く回しながらニッと不敵に笑い、しっかりと手に握り直す。
書架には幾重にも埃が積もり、不気味なほどの静けさが広がっていた。
「げっ……マジで蜘蛛の巣と虫ばっかりじゃねぇか! おいトパーズ, ランプ近付けるなよ, 変な虫が飛んできたらどうすんだ!」
ルビーが顔をしかめながら、足元をうろつく小さな虫を追い払う。
「……っ!? ……いま, 足元でカサッと音が……っ」
その横で, 蒼が完全に固まっていた。
眼鏡の奥の瞳を見開き, 背筋をぎこちなく伸ばしている。
「あははは! 蒼, 虫苦手だもんね〜! ほらほら, 足元に何か黒い影が……」
「も, 桃……! 冗談でもそういう脅かしはやめてくれ……ッ! 駄目なものは駄目なんだ……!」
ニヤニヤとからかう桃に対して, 必死に抗議する蒼。
「もうっ! 二人ともふざけている場合ではありませんわよ!」
トパーズがパンと手を叩き, 場を仕切り直す。
「2人といますから魔力感知はされませんわ! 期限は新月の波動が残る今のうちだけ……とにかく例の魔力と同じ資料と、手がかりになる資料を片っ端から読みまくりますわよ!」
「はいはい, 分かったよ。……おい蒼, お前は虫の出なさそうなあっちの棚探せよ」
ルビーの指示に従い, 4人はランプの光を頼りに古い羊皮紙やバインダーを調べ始めた。
埃っぽい紙の匂いの中, ページをめくる音だけが響く。
やがて, 蒼の手が奥の棚に置かれた一冊の重厚な記録集に触れた。
「……みんな, これを見てくれ。『魔法革命戦争史』だ」
4人がランプの元に集まり, そのページを開く。
そこに記されていたのは, 綺麗事など一切ない, 血塗られた戦争の生々しい実態だった。
人間の脳髄を焼き切って即死させる残酷な殺人魔法の呪文, 標的の精神を蝕み逃げ場のない悪夢を見せ続けて廃人にする呪術, さらには敵対する人間を効率的に粛清するための凄惨な処刑リストや拷問の手順……。直視するのもはばかるようなおぞましい呪文や魔術記録, これでもかと綴られていた。
「っ……なんだこれ, グロテスクすぎるだろ……。人をこんな風に……」
ルビーが思わず顔を背け, 桃も青ざめた顔で小さく息を呑む。
そんな重苦しい空気の中, 蒼がページをさらに送り, 世界の根幹に関わる項目にたどり着いた。
1. 二分された世界: かつての魔法革命軍と産業革命軍戦争により, 世界とそこに生きる存在が「ふたつ」に分断されたこと。
2. 入れ替わりとインペリアル: もう片方の世界から間違って入れ替わってきた人間たちが存在し, その管理システムを統括する最高権力者が「インペリアル一族」であること。
「な……なんですの, これ……!? 私の家が…!?お父様が……この仕組みの頂点……!?」
トパーズの手が震える。
しかし, 蒼がページをめくっていくと, 肝心のプロセスや術式のデータは, 記録に存在していなかった。。
「……待ってくれ。肝心の戻る方法や仕組みに関する記述が, どこにも見当たらない。」
「封印されてますの?………違いますわ…」
トパーズはそう言って, 掌をかざして旧保管庫内の微弱な魔力を鋭く検知する。残留しているのは古い魔力の残滓だけで, 隠し封印や術式を隠蔽するような細工は一切反応しない。
「……この資料自体にそんな情報は最初から載っていないんだどういうことですの!? それじゃあ, お父様がすべてを知っているんですか???」
トパーズは困惑に胸を騒がせながらも、何かに引き寄せられるようにさらに奥の暗い棚へと視線を向けた。
乱雑に積まれたバインダーの奥、一冊がはみ出たように押し込まれている。
「……? あれは……」
トパーズが手を伸ばし、その冊子を引き抜く。
表紙には掠れた金文字で刻印が打たれていた。
『校内転生者管理一覧』
「……な、なんですの……この本は……?」
トパーズの呟きに、ルビーと蒼、桃が弾かれたように覗き込んでくる。
ページをめくると、そこには学園内に紛れ込んでいる転生者たちの名前、元の世界の詳細、属性、気味が悪いほど緻密に記されていた。
「これ……学園の中の転生者を全員記録してあるのか……!?」
ルビーが目を見張る。
トパーズは息を呑み、震える指先でパラパラと最後のページまでめくっていった。
そして――その最下部に書かれた記載を目にした瞬間、4人の動きがピタリと止まった。
そこには、太い黒インクで明確にこう記されていた。
【校内異世界転生者管理人:20代名 医務官 ジノ】
トパーズはその文字を穴が開くほど覗き込む。
「なん……でこのおっさんが……」
ルビーが信じられないといった様子で声を漏らした。
「校内異世界転生者管理人……ジノ……!? あのくそ医務官が……管理システム者「なぁに??よんだ??」
「〜〜〜〜〜っっ!?」
言葉の途中で、頭上すぐ近くから降ってきた気やすく不気味な声に、4人は飛び上がらんばかりに跳ね返った。




