準備はぜんぶ整ったよ
トパーズが穏やかな寝息を立て始めると、ルビーはそっと毛布を首元まで掛け直し、作業台へと戻った。
ランプの小さな灯りが、広げられた学園の構造図を淡く照らし出す。
「……でさ」
ルビーが声を極限まで小さくし、地図の一点を指でトトンと叩いた。
「俺たちが最初の1週間、中央図書館に通い詰めて調べ回った時のこと覚えてるか? 結局普通の蔵書じゃ収穫ゼロだったけど……よくよく思い返すと、あの図書館の奥に地下の『旧保管庫』へ繋がる古い扉があったよな」
「うん、覚えてる……!」
桃が小さく声を弾ませ、トパーズのノートをそっと開いた。
「あの時のあの扉……トパーズのメモにも、同じ地下の旧保管庫に何度も重なるようなチェックがしてあるの。……トパーズもあそこに答えがあるって分かってたはず。でも、あそこは鍵もかかってるし、立ち入り許可も持ってなかったから……彼女一人じゃどうすることもできなかったんだね」
「……えっと、ちょっと待ってくれ」
ふたりのやり取りを横で聞いていた蒼が、困惑したように眼鏡のブリッジを押し上げた。
「僕はこっちに着いてすぐだから、その1週間の探索のことも、学園の構造自体もさっぱり分からないんだ。……つまり、どういうことだい?」
右も左も分からない蒼に向けて、桃は優しく言葉を添えた。
「そっか、蒼は着いてすぐだもんね。……この地図を見て。私たちが探し回った図書館の地下と、トパーズが追っていた場所が、あの『旧保管庫』でぴったり重なるの。……場所は分かってたけど、鍵も許可もないから誰も入れなかったんだよ」
「なるほどな……!」
ルビーが手をポンと叩き、ニッと不敵で頼もしい笑みを浮かべた。
「場所は分かってたのに、鍵も許可もねぇから手が出せなかったってわけだ。……だが、今の俺たちなら鍵を破って潜り込める。あの医務官の監視だって、俺たちの『魔力なし』とのペア戦略なら完全に欺けるはずだ」
事情をようやく理解した蒼は、真剣な瞳で頷いた。
「なるほど……僕が着いてすぐで何も状況を知らなくて申し訳なかったけれど、そういうことか。過去の探索の記憶とトパーズのメモから目的地が『旧保管庫』だと特定できていて、あとはそこに潜入する手段を固めるだけ、というわけだね」
「おう! 蒼も理解してくれて助かるぜ」
ひそひそ声で頷き合う男子ふたりを見つめながら、桃はクスクスと小さく笑い、力強く頷いた。
「ふふ……。トパーズが起きたら真っ先に伝えようね。『準備は全部整ったよ』って」
「おう! あいつが目を覚ました時には、完璧な突入プランを叩きつけてやろうぜ!」
深夜の静けさの中、ランプの光に照らされた3人の瞳には、もう迷いも恐怖もなかった。




