本当のローズは!?
夜の深まり始めた学園の道を、ルビーとサファイアの二人が並んで歩いている。
さっきまでの明るく賑やかな空気が少しずつ薄れ、静かな帰り道だった。
歩幅を合わせていたサファイアが、前を向いたまま、眼鏡のブリッジを指で押し上げてぽつりと呟いた。
「なぁ、どう思う?」
「ん? どう思うって、何がさ?」
サファイアの唐突な言葉に、ルビーは片眉を上げて隣を見る。
「ローズのことだよ! 異世界転生なんて馬鹿げたこと言ってさ……!」
その声には、いつもの穏やかさとは違う、どこかざらついた戸惑いや割り切れない感情が混じっていた。
ルビーは足を止め、じっとサファイアの横顔を見つめる。
「え?……お前、もしかして桃を信じてないのかよ?」
ルビーのまっすぐな問いに、サファイアはグラデーションのように揺れる瞳を伏せ、ぎゅっと唇を引き結んだ。
「……信じるとか、そういう問題じゃないんだよ」
サファイアは苦しそうに頭を振る。その瞳の奥には、行き場のない焦りと、どうしようもない切なさが渦巻いていた。
「もし本当に、あいつの言う通り……『別の世界から来て、元の世界に帰りたい』なんて本気だとしたらさ……!」
サファイアは潤んだ瞳をルビーへ向け、声を震わせた。
「それを信じたらさ……じゃあ、今こうして僕たちの隣にいるローズは……元にいたはずの『本当のローズ』は!?いったいどこに行っちまったんだよ!!!!」
ルビーは一瞬、息を呑んだ。
けれど、次の瞬間——ルビーはふっと肩の力を抜き、まったく似合わない真剣な顔から一転、いつものどこまでも真っ直ぐで力強い笑みを浮かべた。
「そんなの本当だったとしたら異世界転生の方法調べればローズだって帰ってくるだろ!!」
「え……?」
「オレはローズだって、桃のことだって信じる!」
迷いのないルビーの言葉に、サファイアは目を見張る。
あまりにも軽やかで、けれど底抜けに温かいその無頓着さに、サファイアの胸につかえていた重たい澱が一瞬でかき消されていく。
(……このバカみたいに真っ直ぐな奴には、敵わないな)
サファイアは思わず乾いた笑いを漏らし、それから少しずつ、表情を和らげていった。
ルビーのその底抜けの明るさと無頓着さに、いつも自分たちが救われていることを改めて思い知る。
「……っはは。そうだな。お前らしいや、ルビー」
サファイアが小さく息を吐き、眼鏡の位置を直しながら覚悟を決めたように視線を上げる。
「仮に……あいつが頭でも打って記憶が混濁してるだけなら、医師に言われた通り今までと変わらず側にいて見守るべきだしさ……でも、もし本当にあいつの言う通りだったら……」
ルビーはぐっと両手を腰に当て、ニッと笑みを浮かべた。
「 なんにせよ3人寄ればなんとやらだ!」
帰る方法を探すこと。あるいはローズの本当の記憶を取り戻すこと。あるいは、目の前の「桃」を全力で支えて笑わせること。
理解の及ばない事を考えたって仕方ない、理由はなんであれ、二人が進むべき道は一つに定まった。




