やけにファンタジーだね
「おはようー!」
朝の柔らかい光が差し込む食堂に、明るい声が響く。いつもの席に集まった4人の顔には、昨日のどんよりとした疲れは綺麗さっぱり消え去っていた。
「みんな、顔色が良いね! ふたりとも本当に休んでくれたみたいで嬉しいよ、えへへ。トパーズもね、いつもの勉強も特訓もお休みしてくれたんだ」
桃が満足そうに目を細めてニコニコと微笑むと、トパーズは優雅に紅茶のカップを傾けながら、ふっと小さく微笑んだ。
「桃の言う事に従わないわけにはいきませんからね、ふふ」
「なぁ? なんでそんなに桃と親しいんだよ??」
トパーズのどこか誇らしげな態度に、ルビーがパンをかじりながら不満そうに眉をひそめる。
「まあ? 女の子同士なら当然のことでしょう?」
トパーズがフッと口元に笑みを浮かべ、少し得意気に胸を張ると、ルビーは「ちぇっ、なんだよそれ」と面白くなさそうに頬を膨らませた。
「でも、本当に桃のおかげで頭がすっきりしたよ。ありがとう」
蒼が眼鏡の位置を直しながら、穏やかな笑顔で感謝を口にする。
「さあ! 体調も万全になったことですし、本題に入りましょう。今日は……もう一棟の図書館をしらみつぶしに探しますわよ!」
トパーズが力強く宣言し、4人は一気に気合を入れ直すのだった。
「ではオルゴールの方は任せましたわ!」
「任されました! では新棟図書館の調査よろしくお願いするであります!」
桃が胸を張り、ぴしっと綺麗な敬礼をしてみせる。その可愛らしい姿に、トパーズはクスクスと上品に微笑んだ。
「ふふ、お調子者ですわね」
手分けをして、トパーズとルビーは新棟図書館の調査へ。そして蒼と桃のふたりは、作業用テントへと向かった。
テントの中には、木片を削る刃物の音や金属同士が触れ合う規則的な音が静かに響いていた。蒼と桃は、クラフト大会に向けたオルゴールのパーツを手際よく組み立てていく。
そんな中、蒼がふと手元に視線を落としたまま、静かに口を開いた。
「……実はちょっと、引っかかる事があるんだ」
「え? なに?」
桃が削っていた手を止めずに、不思議そうに首をかしげて尋ねる。
「……魂って、本当にあると思うか?」
「やけにファンタジーだね」
「そもそもここ自体がファンタジーだろ」
「あはは、確かにそうだね!」
かちゃかちゃ、と小さな工具や歯車を弄びながら、会話中もふたりの手は止まらない。繊細なパーツが、不器用ながらも少しずつ組みあがっていく。
一息置くように、蒼が少し声を潜めて問いかけた。
「あっちの世界でも見覚えのあるやつ、トパーズとルビー以外にも見たか?」
桃は削っていた木片をそっと撫で、遠くを見るような目でポツリと呟いた。
「他人の空似なんだと思ってたよ、でも……そっくりな人、たくさんいる」
「だよな……」
蒼は眼鏡のフチを指で静かに押し上げ、深く溜め息をつく。
「近所の子とか、クラスの子とか……みんな他人の空似だと思ってた。でも違う気がする……。もしかしてみんなも、私達みたいにそっくりなのかな?」
「……」
桃のその問いに、蒼はすぐには答えられなかった。
かちゃかちゃ、と規則正しく鳴り響くオルゴールの歯車の音だけが、ふたりの間に広がる重い沈黙を埋めていく。自分たちが立っているこの世界の足元が、静かに、けれど決定的に揺らぎ始めているような――そんな得体の知れない不気味さが、小さなテントの中に満ちていた。




