蒼
席に着くやいなや、桃は身を乗り出して蒼の顔をのぞき込んだ。
「ごめんね蒼! 体調は大丈夫……?」
心配そうに声をかける桃に、蒼は少し面食らったように体を引く。そして、どこか冷静かつ理知的な眼差しで、目の前にいる3人をじっと見回した。
「……あぁ、体は問題ないよ。心配してくれてありがとう、桃」
蒼はそう言って軽く笑った後、ふと視線をルビー、そしてトパーズへと移し、眼鏡のない瞳を細めて言った。
「――っ、と。僕の予想が合っていればだけど、ここはローズがいた世界だね? そして君はルビーだ」
「おう、そうだけどよ……。なんかお前、いつもと雰囲気違くねぇか?」
ルビーが怪訝そうに眉をひそめると、蒼はふっと小さく息をつき、トパーズの方へ向き直った。
「そして、君のことは……どうやらローズの話からは出てこなかった。少なくとも、僕の知る限りでは初対面だ」
蒼は恭しく、しかしどこか飄々とした態度で頭を下げてみせる。
「私のことは存じてないようなので自己紹介をさせてもらいますわ、魔法科のトパーズと申します。桃とはこの1ヶ月の間で仲良くなりましたのよ」
トパーズは背筋をぴんと伸ばし、気品あふれる態度で洗練された挨拶を返した。
蒼は「1ヶ月……」と小さく反芻し、顎に手を当てて思考を巡らせる。いつものサファイアとは微妙に異なるそのしぐさや佇まいに、ルビーと桃は息をのんでその様子を見つめていた。
「では情報交換と参りましょうか」
「待て待て待て待て!! どういうことだ全然話がわからない!!!」
ルビーが頭を抱えながら、勢いよくテーブルに身を乗り出した。目の前で繰り広げられる「蒼」の不穏な言動と、平然と会話を進めようとするトパーズのやり取りに、頭の処理が追いつかないらしい。
「『ローズがいた世界? 僕の知る世界線??』 お前、さっきから何ワケ分かんねぇこと言ってんだよサファイア! 魔法の衝撃で頭でも打ったのか!?」
「あはは、ルビーは相変わらず元気だなあ」
そんなルビーのパニックぶりを、蒼はどこか楽しそうに、けれど人事のように眺めている。
「……私も、蒼が無事でいてくれてすっごく嬉しい……! 本当に嬉しいんだけど……」
桃もぎゅっと自分の手を開き締めしながら、困惑と不安の混じった瞳で蒼を見つめた。
「嬉しいけど、私も……それしかわからないの。蒼、どうしてローズって呼ぶの? 『ここがローズがいた世界』って、どういう意味なの……?」
目の前にいるのは、間違いなく自分が会いたかった大好きな蒼だ。
けれど、その言葉の意味も、サファイアとしてここにいたはずの彼の変化も、桃には謎だらけで胸が締め付けられるようだった。




