道化師どもめ
「いやぁー! お騒がせしてすみませんでしたー!!」
食堂中の視線が一瞬で桃に集まる。桃は大げさに頭をかきながら、へらへらとした笑顔を浮かべて言い放った。
「実はですねー! 私ローズとこのルビーで『オルゴールの音をどこまで大きくできるか』試してたんですけどね! トパーズ様からは『やめなさい』って何度も注意されてたのに、私の好奇心が抑えられませんでしたー! ハハハ!」
(……なっ……!?)
突然の桃の道化芝居に、トパーズも思わず目を見開く。
「テントにいたんだよね、ごめんね本当に怖かったよね、ごめんなさい!」
大声で頭を下げて周囲の納得を誘う桃。
『トパーズの失敗』ではなく『桃たちのバカな実験にトパーズが巻き込まれた』という構図に塗り替えることで、トパーズの名誉へ向けられた好奇の目を力技で自分たちへと逸らしてみせたのだ。
ざわめきが「なんだ、あいつらのせいかよ」「トパーズ様災難だな」という空気に変わりかけた、その時――。
『まあでも、所詮ただの成り上がりじゃねぇか……』
近くのテーブルから、魔法科の生徒のボソリとした負け惜しみが聞こえた。
瞬間、ヘラヘラとしていた場を合わせる空気が消え去る。
ルビーと桃のふたりは、静かにそのテーブルへと歩み寄った。
ルビーは相手のテーブルにトン、と軽く手を突くと、相手を射殺さんばかりの鋭い眼光で見下ろし、小さく低く呟いた。
「……トパーズはな、いつも血の滲むような泥臭い努力をしてる人だ」
「……っ!?」
「そんなことも知らねぇくせに、あいつを悪く言うんじゃねぇぞ……」
地圧のようなルビーのボソリとした一喝に、暴言を吐いた生徒たちは顔を青ざめさせて固まった。桃も隣で悔しそうに拳を握りしめ、強い視線でその生徒たちを見つめている。
言いたいことだけを叩きつけると、ふたりはくるりと背を向け、呆然と立ち尽くしているトパーズと蒼の待つ奥の席へと戻ってきた。
席に戻ってきた桃とルビーは、揃ってトパーズの前に立つと、ふざけた調子で声を揃えた。
「「と言うわけであらためてすみませんでした、トパーズ様ーー!」」
へへーー、とわざとらしく深々と頭を下げる2人。
その姿を見たトパーズは、呆れたように深く息を吐き出すと、やれやれと言わばかりに首を横に振った。
「……もう茶番はおやめなさい、道化師どもめ」
そう言いながらも、トパーズの口元には隠しきれない柔らかな笑みが浮かんでいた。自分を守るためにあんな見世物のような芝居を打ってくれたことへの気恥ずかしさと、確かな温かさが胸に広がる。
「「ふふふ、あはは!」」
顔を見合わせた桃とルビーは、声を上げて楽しそうに笑い合った。
ギスギスしていた食堂の空気などどこかへ吹き飛ぶような、いつもの賑やかさが戻ってきたその光景を、蒼は「なんだお前ら……」と呆れたような、けれどどこか懐かしむような目で眺めていた。




